救うという難しさ
非常にお久しぶりです。まじで、執筆時間が取れてない
「はっ、はっ、はっ……」
凸凹な地面をひたすら走り続ける。全力で走っているけれど、足元を引っ掛けて転ばないようにかつ、背中の子供に意識を分散していた。
この子を拾ってから走り続けて、どれくらい経ったのか分からない。でも、体力に自信はある僕が呼吸をするのが苦しいくらいには体力を使っているので、まぁまぁな距離は走っていると思う。
子供を背負っているから多少なりとは、体力の消費はいつもより激しい。それに、足や腕も辛くなってきたけれどまだ行ける。
なんでこんな無理をしてるのか?この手を離してしまえば、今すぐ楽になるのに……と思ってしまったが、そんなクソみたいな事を一瞬でも思ってしまった自分に反吐が出る。
誘惑に負けるつもりは毛頭ない。それは、この子供を救った時から決めている。
「まだ、先は長い……!」
死神スキルもこういう時はゴミスキル同然だね、と思う。身体能力を強化する力も使えばこの子供を殺してしまうので皮肉みたいな結果になってしまう。
今まで大事にしてきたスキルの事をボロクソに言いながら僕はこの先の道のりを頭に思い浮かべる。
まだ距離はあるし、この先のどこかで必ず休憩を挟む事になる。
その時までこの子の様子が悪化しない事を祈るばかりだ。
「なんでっ……こんな時に」
走り続けていると、目の前に馬車が見えた。それだけならまだ良かったかと思うかもしれないが、運が悪い事にその馬車は何やら怪しげな黒服に身を包んだ人達に囲まれて襲われていた。
進行方向の先に居るとなると無視は出来ない。でも、今はこの子を背負った現状では下手な事はできない…………でも、あいつらが邪魔すぎる!!
「少し待ってて…」
僕は自分の着ていた服の一枚を脱いで地面の上に置いて、その上に子供を置く。地面に直に寝かせるよりはマシだとは思うけど、あんまり体勢は動かしたくなかった。
「手加減は無理だね」
焦りからか普段は感じる事がない怒りや殺意が湧く。
【死の大鎌】を右手に顕現させて、大きく振りかぶる。そして、狙いを定めながら僕は息を吸い込んで……勢いよく【死の大鎌】をブーメランのように放り投げる。
それは狙い通りにクルクルと弧を描きながら、黒服の奴らに向かっていき、気付くことが遅れた黒服数人の上半身と下半身をお別れさせた。
そして、僕の手元に戻ってきた【死の大鎌】をキャッチし、そのまま残りの奴らを処理しようと思ったら、残った黒服達は何やら手を動かして合図をする。すると、それを見た黒服達は素早い動きで何処かに退いていった。
「邪魔者は消えたかな」
そう思った僕は慌てて子供を置いた場所へと戻って、優しく背負い、再び走り出そうとしていると馬車の方から声をかけられた。
「どこの誰かは知りませんが、助けていただきありがとうございました」
「今急いでるから、あとで!」
「子供を?……少し診せて貰ってもよろしいですか?」
馬車の横を通りすがろうとしたら、そんな言葉を言われて慌てて止まって振り返ると、眼鏡を掛けた長身の男性がこちらを見ていた。
「この子を助けたいんだけど、なんとかなるかな?」
「まずは容態を診てみないと分かりませんが、最善は尽くします」
「お願いします」
そう言いながら背負っている子供を男性へと預けると、彼は触診を始めた。その間に僕は、他の人へと話しかけてみる。
「あの人って信用できますか?」
「腕は確かだと思うが……実を言うと、途中で一緒に行きたいと言ってきたやつだから素性なんて知らんぞ」
「そうなんですか?」
「それより、さっきは助かった。襲われるほど良い物持ってないから傭兵も雇わず行ったらこのザマだ……しっかし、あんな強い賊は初めて見たな」
「無事で良かったですね。また襲われるかもしれないから気を付けて下さい」
「二度も同じような事はしねぇよ」
どこから自信が出ているのか疑問に思ったけれど、きっと何か秘策でもあるのだろうと納得して、子供の方に戻ると先ほどまで傷だらけだった子供が完全に治癒されていた。
離れて数分も経ってないのにこの変化に僕は思わず声を上げてしまう。
「うぇっ!?治ってる!?」
「体内外の傷は全て治しましたが、精神的なものは流石に不可能なので時間が解決してくれます。ただ」
「ただ?」
不穏な一言に僕は聞き返す。その言葉に男性は小さく頷いて、子供の方を見ながら口を開く。
「この子を治癒する際、私の力が弾かれたような気がしました。幸い、無事に治癒は出来ましたが、もしかしたら容態が急変するかもしれないということをお伝えしておきます」
「…わかりました。わざわざ助けて下さり、ありがとうございました」
「いや、お礼を言うのはこちらです。あのままでは私たちは殺されていました。……さて、この後はどうされますか?このままあなたは先を急いでもよろしいですし、私たちと一緒に来るのも良いですよ。まぁ、決めるのは彼ですが」
そう言って男性はもう一人の方を見た。他にも人がいるけれど、彼がこの馬車のリーダーなのだろう。
僕は先を急ぐか、この馬車と一緒に着いて行くか考えた。前者ならば学院に早く着いて、高度な治療を受けられるけど、道中で悪化した際に僕にはどうしようもないメリットとデメリットがある。
後者ならば、体調が悪化しても直ぐに診てもらえるけど学院まで時間がかかるし、そもそもの問題として学院へと向かうのかも知らないよね。
……なら、子供を背負って爆速で学院へ行く方がまだ良いのかもしれない。
「…僕は、先を行く事にします。本当、ありがとうございました」
「その子が無事に助かることを私は祈るよ。彼らには私から言っておくから、早く行くといいですよ」
「ありがとうございます。またどこかで!」
僕は子供を背負って再び走りだす。
この選択が正しいのか分からない。どちらの選択肢も魅力的な点は多々あったけれど……結局のところ学院という現時点で一番信用できる所に行くのがいいと思った。
命を奪う、刈り取る事には慣れていたけれど……救うのは非常に難しいと初めて教えられたような気分だった。
誤字脱字があれば報告の方をお願いします。
この作品は不定期投稿なのでブクマをおすすめします
ーー以外雑談、普通に長い時もあるので見なくても大丈夫。
雑談を書く気力が…




