手の届く範囲
お待たせ
ヒュヒュルド、そして死命童を倒し、女神様と話した翌日……スッキリ目覚めることが出来ず眠気がまだまだ残っていた僕は二度寝を行なっていた。
そして、再び目覚めた時には既に正午前だった。
「ふわぁぁ……まだちょっと眠いや。でも、これ以上寝れそうにないから起きなきゃ」
立って歩き出せば自然と眠気も覚めるかな?と思った僕はベットから降りて、軽く部屋の中を歩く。そして、目が冴えてきたと感じたので今日やる事を軽く思い出す。
「まず荷物の準備……で、ヒュヒュルドが集めた奴隷たちがどうなっているのかの確認をしてこの国を出発して学院に戻ろう」
あの地下にいた多くの奴隷達がどうなったのか凄く気になるから絶対に確認しにいくと決めていた。あの場所を管理していたヒュヒュルドが消えたからね。
「よし、行こう」
早めに行ったほうがいいと思った僕は、手早く荷物の整理を済ませて宿を出発した。
出発してすぐ……僕はある事に気づいた。地下の部屋に行くまでの道を知らない事に。
あの時は壁や地面を通り抜けたから行けたけれど、何故か今はその通り抜けが出来なくなっていたため完全に手詰まりだった。
「どうしようかな。ヒュヒュルドの商会にやっぱり道があるのかな」
あの時は通り抜けの力を使ったから商会の中をよく見なかったから、もしかしたら道があるのかもしれないと考えた僕は【死神の隠伏】を発動させて地下へと続く道を探し始めた。
そして、探す事数十分……扉という扉全てをこっそり開けては確認したが地下へと続いてはいなかった。
「無い………そういえば、結構下にあった気がするし階段とかでは無いのかな。それならどこかに転移用の装置がある可能性が高い……ならやっぱり会長の部屋かな」
僅かに疲れてきはいるけれど、こればかりは諦めるなんて出来ない。
僕は再びヒュヒュルドの部屋へと向かって、隠し装置が無いかどうかを手当たり次第に探っていくと、何やら怪しい魔法陣を見つけた。
「引き出しを外さなきゃ見えないなんて。めんどくさいなぁ」
なんにせよ、見つけられたのでその魔法陣に手を翳すと勝手に魔力が吸い取られて部屋の中央に新しい魔法陣が出現した。
「こういうのはワクワクするけれど、ロマンだけだよね」
この魔法陣を設置した人が聞けば絶対に怒るであろう言葉を残して僕は、その中心部に立つ。すると、視界がグワンと歪んで景色が一変した。
「…酔うけれど、地下には来れたかな」
景色が切り替わる瞬間のあの経験は少し気持ちが悪かった。でも、体感温度が僅かに下がった気がするし、何より空気が違う。
この空間はやっぱり嫌だ。長居はしたくないから、少しだけ様子を見て帰ろうかな。
それにしても、ここはどこだろう?
「部屋……しかも、割と整えられている空間だからヒュヒュルドの部屋とかかな?」
最早あいつの顔も声も覚えてはいないから気にしないようにしよう。
そう思った僕はその部屋から出て、沢山の奴隷達が居る大きな空間に向かった。そして、歩くこと数分で目的の空間に辿り着いた僕は何か違和感を感じた。
「…声が少ない?」
前回ここに来た時は泣き声や苦しそうな声が常に聞こえていたけれど、今はそんな声が常に聞こえているわけでは無く時々聞こえるくらいだった。泣き声も続いてはいるけれど、小さい。
確実に何かがあったと感じた僕は【死神の隠伏】を維持したまま檻を確認しにいく。
(……違う。檻そのものが減ってる)
声が少なくなったのは、声を出していた人自体が居なくなったからだと気付いたのはすぐだった。
(なんで?……………買われた?)
奴隷が居なくなるのは処分もしくは誰かに買われた以外無いと思う。前者はそう簡単にはしないだろうだから、後者の可能性が非常に高い。
でも、昨日の今日でこんなに数が減るものなのかな?………誰かが一気に買っていったのか、纏めて別の場所に移されたか僕には知る手段がない。
これ以上は何も出来ないし、ヒュヒュルドが居なくなったから生贄に使われる可能性は無くなった。だから、僕が出来るのは祈るだけ。
「……良い人に出会えますように」
そう言い残して僕は足早にその空間から立ち去った。
◆
気になってたこともやり終えたので僕は荷物を手に取ってリーリスライドを馬車にも乗らず、一人で出発した。
馬車の方が速いし、楽だけど行きは馬車だったので帰りくらいは歩きで良いかなと思った。
「リーリスライド。もう来くはないなぁ」
どんどん小さくなっていくリーリスライドを見てそんな事を呟く。あの国は僕には合わなかった。
学院に帰ったらどうしようかな。
学院長にも色々話さないといけない事もあるし、クラスの皆んなとも話したいし、リーフィアとも話したい……リーリスライドに居た時に溜まったストレスを天覇の塔で発散したい。
そんな事を考えながら歩いていると、僕の横をガラガラと音を立てながら馬車が通り過ぎた。
「危ないなぁ」
愚痴るようにそう呟くと、通り過ぎていった馬車が地面に出来ていた凹凸で大きく跳ねた。その瞬間、布で覆われていた荷台から何かが外にこぼれ落ちた。
「っ!!」
それは子供だった。荷台から落ちて地面に叩きつけられる事はなく繋がっている鎖によって地面を引き摺られていた。
その光景を見た僕は瞬時に【死の大鎌】を生み出して、それをブーメランのように勢いよく放り投げる。
クルクルと回転して行く【死の大鎌】は狙い通りに繋がっている鎖だけを断ち切って僕の手元に戻ってくる。
鎖を断ち切られた子供は地面をゴロゴロと転がって、止まった時にはその姿は酷くボロボロだった。
「上手くいった。それよりっ!」
慌てて子供に駆け寄ると、意識は無く、足裏は引き摺られた事で血だらけ、体も傷だらけだった。そして、なにより首輪や手枷が着いていて、服装が地下で見た奴隷達と同じものだった。
「……奴隷」
偶然とは言え、僕は奴隷を助けた。自分では何も出来ず手出しはやめておこうと思っていたけれど……こうなれば関係ない。
ナイフに変形させた【死の大鎌】で首輪と手枷を切断する。
見た目は薄汚れて、少し臭いがあれだった。髪の毛も目元まで伸びていて子供というのも相まって性別はまだ分からない。
「……違う。まずは、この子を助けないと」
リーリスライドに戻ることはできない。この子の事を誤魔化されない……ならば、この子を助けるにはいち早く学院に戻る以外選択肢はない。
衝撃を極力与えないように子供を背負った僕は、全速力で学院へと駆け出す。
「お願い……生きて。必ず助けるから」
誤字脱字があれば報告の方をお願いします。
この作品は不定期投稿なのでブクマをおすすめします
ーー以外雑談、普通に長い時もあるので見なくても大丈夫。
中々内容が思い浮かばない原因もありますが、頑張って書いています。
誰も奴隷は助けないという選択肢を取った。それは、彼にとって手に余る行動だったからだ。
一人を助ければ他も助けて欲しいと願う。助けた後は見捨てる以外の選択肢を取るしかない……そういった考えのフィグラだったが、今回ばかりは助ける以外の選択肢は無かった。
一人だけなら自分でも助けられる。
今まで誰も助けられなかった。だから、この行動はせめてもの行動なのかもしれない。




