仕事の達成
お久しぶりです
この真っ白な空間はなんだろ?……いや、僕は知ってるはず。確か、女神様が居る神殿だった気がする。
そもそも、なんでここに?
そんな疑問を抱いた僕は昨夜の事を思い出してみる。
……確か、ヒュヒュルドを見つけて追って、ようやく追い詰めたと思ったらそこにヒュヒュルドは居なくて代わりに子供の姿の神が居た。
そいつは死命童というこの世に顕現するのを阻止しなければならない対象で、僕……というより死神スキルに飲まれていた僕が死命童と戦って一度は首を落としたのに何故か蘇った。そして、再び戦う羽目になって飲まれていた自分を取り戻して……最終的に勝った。
うん、意外と覚えているもんだね。
その後は、どこか呆然とした気持ちのまま宿まで行って、そのまま泥のように寝たんだっけ?そしたら、ここに来た感じかな。
「取り敢えず女神様はどこにいるんだろう?」
「ここですよ」
「っ!?」
ボソッと独り言を呟いたと思ったら、背後から予想もしていなかった返答が返ってきて、びっくりした。
慌てて背後を振り向くと、そこにはいつもの女神様が立っていた。
「お久しぶりです。女神様、無事に……とはいかなかったけれど、仕事は終わらせてきました」
「お疲れ様でした。しかし、まさか死命童が出てくるとは思いませんでしたが、よく倒すことが出来ましたね」
「……女神様、死命童ってなんなんですか?」
僕は他にも言いたい気持ちを抑えて聞きたかったことを質問した。
なんで、こんな事を聞きたかったのかというと死命童はまるで僕を知っているかのような口ぶりで話しかけてきたからだね。それに、死神スキルに飲まれていた僕も何か知っているかのような感じだったのを覚えているし……だから、聞いておきたかった。
そんな僕の考えを毎度の如く読んだのか、女神様は考える素振りを見せる。そして、数秒ほど経ってから口を開く。
「死命童は簡単に言えば、死神に近い存在です」
「死神っ!でも、近いってことは違うということですか?」
「はい。簡単に言えば死命童は死神の卵みたいなものです」
「卵?」
別に殻被ってなんかいなかったけれど……もしかして、死神としての何かが孵化したら死命童は死神になるということなのかな?でも、今の死神は僕のはず。この世に死神が2人も存在出来るのかな。
「存在できませんよ」
何回経験しても女神様が僕の心を読んでいることが慣れない。分かっていても、突然心の中で考えていたことに対して返答されたら戸惑うよ……慣れなのかなぁ。
それにしても、この世に死神は2人も存在出来ない。というより、2人も要らないのかな?となると……死命童は現死神である僕を殺して自分が死神になろうとしていたとかかな?
「というよりは、死命童は遊びのためにヒュヒュルドの呼びかけに応えて貴方のいる世界に顕現しようとしておりました」
「そうなの?」
「はい。ヒュヒュルドは死命童を呼び出すために多くの奴隷達を生贄にしてきました。そして、彼は自分は死命童に好かれていると思っていたようですが、皮肉にもヒュヒュルド自身が生贄になることで死命童は顕現しました」
「そうだったんだ」
僕があの部屋に辿り着いた時には既に死命童が居たからね。まさか、そんなことになっていたとは……
「死命童は適当に鏖殺を行うとしていたようですが、死神が来ていると知って、目的を変えました。そう、死神であるあなたを殺すことに」
「僕を殺して、新たな死神になろうとしたんですか?」
「はい。しかし、結果はご存知のとおりだめでした。それだけならまだしも、死命童は禁忌の手を使いました」
「あの怨念ですか?」
「はい。自らを怨念にする禁忌の手法です。最悪の場合、私が手を貸そうかと思っていましたがあなたは致命傷一つなく倒してくれました」
「ギリギリでした。でも、最後の死に際で死命童は謝ってきた。それが凄く辛かったです……」
「そうでしたか。すぐに慣れますよ。それより、改めてお疲れ様でした」
「っ……はい」
分かっていた。あの気持ちは女神様には分かんないって……でも、やっぱりくるものがある。
「死神は処刑対象に変な感情を抱いてはいけません。最初の方こそ辛いかもしれませんが、段々と慣れていきますよ。それに、一度でも大罪人を逃すとその後に起こる悲劇があなたの心に後悔を残します」
「分かっています。分かってはいるけど」
そう言いながら拳を握る。そう、理屈では分かっていても、分かりたくないんだ……だって、あの時の言葉が。
そう思っていると女神様は優しげな声で告げてくる。
「それに、あなたには一つ朗報がありますよ」
「……なに?」
「死命童は死んではいませんよ」
「えっ……」
その言葉に僕は思わず顔を上げて女神様を見る。死命童は死んではない……?だって、目の前で死んだはずじゃ。
「死命童が処刑対象ならば死んでいました。しかし、あの時は偶々出会って偶々戦闘になって結果的に死命童は死にました。その場合、あの者はあの世界で自由に動くための体を失っただけで本体はまだ生きてますよ。ただ、今頃は禁忌を使ったせいで大変な目に遭っていると思いますが」
「…な、んだ………そうなんだ。そうだったんだ……よかったぁ」
ヘナヘナと膝から力が抜けて、床に座り込む。あの時のあの言葉が僕の耳にずっと残っていたけれど、またね…って、分かってて言ったんだね。
……女神様のお陰で凄く気が楽になった。
「もしかしたら、今後どこかで死命童と会うかもしれまん。その際はまた殺しに来ると思いますので気を付けてください」
「処刑対象じゃなければ殺しても無駄ってこと?」
「えぇ。本体の方を殺さないといけません」
「そうなんだ。へぇ……わかった。ありがとうございます女神様」
心の底から感謝の言葉を女神様に述べる。すると、女神様はそっと僕の頭に手を当てて言ってくる。
「辛いことも多々ありますが、頑張って下さい。そして、これは今回の報酬でもあります」
「報酬…?」
「加護です。この私、女神ザレウスの名においてあなたに加護を授けます」
そう告げると、頭の上から光が溢れてたことに気が付いた。温かみがあって、心が安らぐ光……
「ありがとうございます」
「ふふっ、あなたのことは見ていて飽きませんよ。今回は殺伐とした状態でしたが、当分はこんな事にはならないでしょう。普段のあなたに戻って、楽しい毎日を送るといいでしょう」
その言葉を聞いて、僕は本当に死神としての初仕事が終わりを迎えたんだと思った。瞬間、意識がどんどん薄れていく……
「また会いましょう、死神…いえ、フィグラ」
「はい、女神様」
そして、僕の意識はそこで消えた。
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この作品は不定期投稿なのでブクマをおすすめします
ーー以外雑談、普通に長い時もあるので見なくても大丈夫。




