死神としての在り方
お久しぶりです。いや、本当にお久しぶりです。
「まだ生きてる?」
首を切り落としたと思ったけれど、死命童の体は動いている。むしろ、先程とは違い怨念を体に纏わせ始めた。
【死の大鎌】の力なら例え神であろうと首を切り落としたら、その時点で絶対な死を与えるはず。しかし、目の前の死命童は生きている…何故?
疑問に思った僕だったが、どんどん怨念を増大させていく死命童を放置するわけにもいかなかった。再び【死の大鎌】を構えて、首を……いや、既に首は無いからどこを、どこに【死の大鎌】を振るえば死命童に死を与えられる?
【不動】スキルを発動させているのにも関わらず、あるはずのない焦りが生まれる。
うまく動けないでいると、切り落とした死命童の首にまで怨念が広がっていく。そして、その首がふわふわと一人でに浮き始めて死命童とくっ付いて元通りになった。
その光景を見た僕は驚くことなく、むしろ倒す方法が生まれたことに感謝していた。
(首を作り出した。つまり、もう一度首に【死の大鎌】を振り下ろせばいいはず)
そう思ったところで、再び短刀と草刈鎌を手にした死命童が動き出した。
「動きは変わらない……いや、これは?」
素早い動きで繰り出される短刀と草刈鎌の連撃をかわして、時には【死の大鎌】で防ぐ。しかし、自分の体に死命童の怨念が纏わりつこうとしていることに気が付いた。
「僕には怨念なんて効かない。怨念達も、輪廻の輪に戻るといい」
そう、死神には怨念なんて効かない。それが死神なのだから。
しかし、あの死命童……いや、怨念に囚われて元の姿形がほとんど残っていないあれを死命童と呼べるのかは分からない。最早、自らが呼び出した怨念に乗っ取られた怨念神とでも言うべき存在に近いのかもしれない。
「もう死命童はこの世界に居ない……よね」
その骸を怨念に乗っ取られて……怒りより哀れみが勝つよ。死命童。
そんな風に思っていると、突然脳内に女神様の声が響いた。
《冷静になりなさい。あなたは死神だけれど、それ以前にフィグラ・アルフレッドなのだから、そんな風に思わなくてもよいのです。ありのままに死命童だった彼を輪廻の輪に戻しなさい》
「っっ!!」
その言葉を聞いた途端に思考が澄み切っていく。先程まではどこかボヤッとした感じだったけれど、今は違う。
「ありがとうございます、女神様」
【死神の纏い】のせいで、どうやら僕の意識がおかしくなっていたみたいだね。でも、女神様のおかげでそれも治った。
やはり、この力は多用しないほうがいいね。今回は使わなければならなかったけれど、長時間の使用のせいで僕の意識がおかしくなったと思う。
すぅぅ…と【死神の纏い】の効果によって生み出されていた黒服が霧散していく。ここからは、【死の大鎌】と元々の身体能力だけで死命童だったものを倒す。
「怖いなぁ…」
正直なところ、あんな怨念まみれな何かと戦いなくない。怖いし、何より死にそうだから。
さっきまでは意識がぼんやりとしていたせいと【不動】スキルのせいで恐怖の感情はなかった。でも、今はそれらを全て解除して、ありのままの僕だからこそそんな感情が生まれる。
「おっと…」
全く動かなかった僕に痺れを切らしたのか死命童だったものが周囲を獣のように飛び回りながら、すれ違い様に怨念が籠った短刀と草刈鎌を振り回してくる。
それらを全て紙一重で回避しながら、反撃の機を伺う。
「っ…きっつぃ」
少しでも気を抜けば次の瞬間には全身がズタボロになる。集中力と気力の問題だ。
「そこっ!」
短刀を【死の大鎌】で防ぎ、僅かに体が止まった所に右足で蹴りを入れる。
「うっ……」
体が後ろに吹き飛ぶかと思っていたら、それよりも先に怨念が右足に纏わりついてきた。すぐさま、右足を引き戻して憑いた怨念を払い落とす。
「どうしたものかなっ!」
再び死命童だったものが繰り出した短刀と草刈鎌が【死の大鎌】とぶつかり合って甲高い音を辺り一体に響かせる。その時、目が合った。
光が無い目、生気を一切感じ取れないその目に思わず顔を逸らしたくなったけれど目を離せば当然の如く隙を作ってしまうから嫌だけど耐える。
腕の力を僅かに弱めて相手の重心をこちら側に傾ける。すぐさま後ろに跳ぼうとしていた死命童だったものをすかさず、【死の大鎌】を振るって片腕を斬り飛ばす。
「血ではなく怨念が溢れるんだ」
斬り飛ばされた断面から血が出ると思っていたけれど、実際は黒に近い紫色の怨念だった。それは地面に煙のように落ちていき霧散することなく留まっている。
「根本を叩き潰さないと」
ならば、機動力や攻撃力を奪うために腕や足を斬るのではなく首を狙わないと……可能だね。不可能ではない。腕を斬り飛ばせたなら首も同じようにすればいける。それに、今の死命童だったものには片腕が無い。
【死の大鎌】を構え、今度は僕の方から攻めていく。死命童だったものに急接近して、【死の大鎌】を振るうも残った片腕の草刈鎌で受け止められてしまう。
「想定通り!」
両腕だったら、どちらかが【死の大鎌】の刃を受け止めて、もう片方が柄の部分を抑え込むけれど……今は刃の方しか受け止められていないので柄の方で隙を作らせる。
「変形っ!」
このヒュヒュルド探しから一回も使ってこなかった【死の大鎌】の変形をここで使う。
柄の一部分から一本の棘を、死命童だったものの顎下から頭頂部目掛けて勢いよく生やすと、一瞬で貫通して天井にまで突き刺さった。その際の衝撃によって死命童だったものは大きく体勢を崩した。
「勝機!!」
この瞬間を逃すわけにはいかない。次からはこの変形による攻撃も防がれてしまうかもしれないから、今が一番のチャンス。
変形させた【死の大鎌】を元に戻して、僕は死神としての言葉ではなく、僕ーーフィグラとしてその言葉を死命童に贈る。
「さよなら。神様」
そして、振るわれた【死の大鎌】の刃は一切遮られる事なく死命童の首に吸い込まれた。
その瞬間、死命童の体がピタッと動きを止めて……足からゆっくりと塵になり始めた。
これが神の最後……僕たちと違う存在も最後は何も残らずに消えていくものなんだと思っていると、最早生きてはいない死命童の口が僅かに動く。
「ご…めん、ね?後始末を、させちゃっ…て……」
声のトーンも目つきも何もかもが僕と戦った死命童とは違った。これが、この姿こそが本当の死命童なのかもしれない。
「死命童……後始末だなんて」
死命童の謝罪に僕は、上手く言葉を言えなかった。
「……また、ね」
「っ待って!!まだ話し…たい、こと……」
僕がその言葉を言い終わるより先に死命童は完全に塵と化してしまった。
最後に、死命童は笑っていた。一方的に別れの挨拶をして、僕の言葉を聞きもせずに消え去った。
「……酷い終わりだよ、ほんと」
さっきまで殺し合った仲だった。殺し合うしか選択肢はなかったけれど……本当は分かり合えたんじゃないかな?と今更ながらに思う。だって、死命童の最後を見たらそう思うじゃん。
今まで動物や魔物は殺したことがある。けれど、こんな経験は無かった。神様なら尚更。
これが死神としての在り方。罪人を処刑するのが死神なんだ。こんな事にこんな感情を抱いてはいけないはず……
でも、毎回こんな気持ちになるくらいなら……僕はこの力を手放したい。
そんな叶うはずのない願いを僕は、一人で考え続けた。
誤字脱字があれば報告の方をお願いします。
この作品は不定期投稿なのでブクマをおすすめします
ーー以外雑談、普通に長い時もあるので見なくても大丈夫。
中々筆が進みませんでした。終わり方を考えていたというのもありますし……まぁ、その…ゲームとか配信にハマっていました。
X(旧Twitter)でも言いましたが、最近『崩壊スターレイル』にハマりまして、時間が奪われてます。楽しい。
始めて1週間ちょっと?かな。とりあえず開拓ランクは29で、キャラも全員☆5なので順調に進んでいます。
少し抑えて執筆にも時間を割かないといけない気がする。まぁ、義務執筆嫌いなので自由に今後も行きます。
書きたいときに書く。暇なときに書く。それが作者のモットーなので。はい。
では、また。




