邪魔者は倒すだけ
お待たせ
足音のする方向は向かったら、目の前に一人の男が歩いてくるのに気付いた。同時に、あれがヒュヒュルドだとも気付いた。
一言二言言葉を述べて、あとは処刑を行うのみだったけれどヒュヒュルドは愚かにも全力で逃げる道を選択した。
見た目にそぐわず俊敏な動き、そしてこの迷路の中を迷う事なく進むせいで中々追いつけずにいた。しかし、視界にはずっと収まっていたので問題はない。
ヒュヒュルドは逃げながらも様々な妨害をしてきた。その上、通路にも罠が仕掛けられていたけど今の僕には何ひとつ通用しなかった。
そして、突然止まったと思えば何やら魔法を唱え始めた。その隙に【死の大鎌】を振り下ろそうかと思ったけれど、それができなかった。
何故かと言うと、ヒュヒュルドが魔法を唱え始めると同時に僕の耳に呻き声が聞こえてきたからだ。
まさか、周りに誰かいるの?と思った僕だったけれど、その呻き声が憎しみの籠った怨念だと気付いた頃には魔法は唱えられており、目の前に5体の人形が立っていた。
「……怨念よ、安らかに輪廻の輪に戻ろうよ」
ヒュヒュルドは魔法を唱え終えた次の瞬間にはまた逃走を始めた。それを追いかけたかったけれど、この人形達に宿った怨念達を浄化するのもまた、死神の仕事。
それぞれ異なる武器を持ち、口もないのに常に聞こえてくるのは怨嗟の声。なにせ、これを放置するとどんな被害が起こるのか容易に想像がつくので流石に見過ごすわけにもいかない。
人形の一体がこちらに接近してくる。それに対して僕はスゥ…と滑るように横へ移動し、そのまま【死の大鎌】を首元へ当てて引く。
ほんの少ししか力を込めてないけれど、【死の大鎌】の刃は人形の首を音もなく滑らかに切り落とした。すると、その断面から依代を失った怨念が出てきたので手を差し伸べて口を開く。
「輪廻の輪へ戻ろうか」
何も考えず、自然と口から出たその言葉に意味があるのか分からなかったけれど、他の物に取り憑こうとしていた怨念は動きを止めて静かに霧散していった。
「……残り4」
今の行動の半分くらいは勝手に体が動いたものだった。以前、天覇の塔で使用した【死神の纏い】の時と似ている気がする。あの時も、僕じゃないもう一人の僕が体を動かしていたような感覚だった。
死神のスキルが、その性質上もう一人の人格が生まれるのか、それとも無意識に体が動いているだけなのか………早いうちに知っておかないと困りそうだね。
残り4体の人形達も先ほどの人形と同じように攻撃を仕掛けてきたが、全てを回避して【死の大鎌】を首元へ当てて怨念を出し、浄化させていった。
思ったよりも時間を取られてしまったので、急いで向かわないとね。
「……あっちだね」
ヒュヒュルドが居る方角が分かる。一回出会ったから?分からないけれど、好都合だね。
そう思い、壁を通り抜けていこうとした僕の脳内に聞き覚えのある声が突然鳴った。
〈死神よ、急ぎなさい。ヒュヒュルドは己の命を代償に死命童をこの世に顕現させるつもりです〉
「分かりました」
女神様だった。その事にびっくりしたけれど、女神様から伝えられた内容の方がもっとやばかった。
本当にゆっくりしている暇が無くなった僕は、全力でヒュヒュルドが居るであろう方角へと向かっていく。
◆
ヒュヒュルドは走った。走って走って走って、ようやく辿り着いた。
そこは、つい数十分前も連れてきた奴隷を己が信仰する神へ捧げたばかりの祭壇がある部屋であった。
薄赤色に光る空間に息も切れ切れなヒュヒュルドは時折咳き込みながらも、神へと助けを求めた。
「っ、我らが神よ。今、ここへ死神を名乗る何者かが襲撃に来ました。ゴホッ、ゴホッ……はぁ、はぁ、どうかお助けを、救済をっ!」
焦りから言葉遣いや口にした言葉も普段と違いが酷かったが、そんな事に注意を向ける余裕など無かったヒュヒュルドであった。
そんな彼の言葉が届いたのかは不明ではあるが、彼が進行する神が脳内に語りかけてきたのである。
〈助けてあげるよ?でも、あと一人分かなぁ?生贄が欲しいね〉
助けて貰える!と思ったヒュヒュルドであったが、その後に続いた言葉を聞いて体を硬直させた。なにせ、今ここには自分しかおらず生贄にする奴隷がいないからだ。
「あ、あと一人分……を、用意する暇なんて」
〈馬鹿だなぁ〉
突然、そんな言葉を聞かされたヒュヒュルドは先ほどよりも体を硬直させながら、なにか間違いを犯してしまったのか!?と混乱していた。そして、今すぐ謝罪をと思い、口を開こうとした瞬間、その宣告は下された。
〈お前が最後の一人になればいいじゃん〉
そう告げられた瞬間、彼の周囲に今まで何度も見てきた青白い手が現れて彼の体を取り囲んでいく。
「っ!私はまだっ…!神よ!どうして!」
必死に体を動かしながらもヒュヒュルドはそう叫ぶが、抵抗虚しく彼の体が完全に青白い手によって覆われて魔法陣の中へと入っていった、
数秒の後、部屋の中央にある魔法陣が一際大きく光と亡者の顔に見える黒い煙を発生させる。そして、徐々に魔法陣の中心部から人型の少年が姿を見せた。
少年らしきそれは、ヒュヒュルドが信仰する神ーーフィグラが出現を阻止するべきであった死命童という名の邪神であった。
この世に顕現してしまった邪神は、体の感覚に満足しながら先ほど、己の食物にしてしまったヒュヒュルドの問いかけにようやく答えた。
「もちろん、君も僕にとっては食物の一つでしかないからね。今まではただ便利だから放っておいただけだしね?あはは、聞こえてないか」
それよりも、と会話を一旦途切らせた死命童はこちらに急接近してくる同じ神の気配を感じ取る。そして、その幼い少年らしき顔を、憎悪と怒りに塗れた表情に変貌させながら呟く。
「……どちらかが、死の神か決着を付けようじゃないか」
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この作品は不定期投稿なのでブクマをおすすめします
ーー以外雑談、普通に長い時もあるので見なくても大丈夫。
最近ちょっと、執筆できてなかった。理由は多々ありますが、何よりは配信を見ていた事ですかね?作者の好きな配信者の配信をリアルタイムで見てるので執筆してる暇なんてありません。
あとは、psvitaのガンダムブレイカー3とテラリアにハマっています。今は後者のテラリアです。
時間の溶け方が尋常ではない……まぁ、執筆も頑張りますよ。書き出したら進むんですから。




