3人だけの一夜
ども
あの魔法はなんだろうね。
「フィー!下がれ!」
「下がっても無駄だと思うよ」
見た感じ、範囲はとても広そう。少なくともこの部屋全体は範囲内のはず……
「なら発動し切る前に」
「逆に危険だよ。術者の制御が崩れてしまうからね」
あれがまだ詠唱中ならば結果は違ったのかもしれない。あの6人を遊ばずに本気で殺しに行っていればこんなことにはならなかった……過去は変えられない。
「逃げきれない。どうにかして耐える?」
カーマさんがそんなことを聞いてきた。
「耐えると言ってもどうやって?」
「二人とも、来るよ」
「「っ!!」」
僕の言葉と同時に向こうの人たちの口が開き、僕たちを倒すための魔法の名が告げられる。
『複合魔法!四大元素砲!!』
その言い終わると同時に術者達によって放たれた色鮮やかな魔法が僕たちに覆い被さるように迫ってくる。その速さはかなりのもので今の僕の目で分かった事は3秒後には僕たちに到達しているだ。
「くっ!」
キルナ君が慌てて毒魔法で壁を作ったが耐える事は出来ずに一瞬で消し飛んだ。かなりの威力だね……
これをどうするか?と言うことだけど……半ば諦めかけているキルナ君と剣に魔法を纏わせて構えているカーマさんには少し下がっていてもらおう。
僕は【死の大鎌】をくるりと一回転させ[不動]のスキルを同タイミングで発動させながら二人より前に出て体の力を抜いて脱力する。
僕が招いた結果だ。
だから、これは僕がなんとかする。
[大鎌(聖級)]スキルの聖級の技を使って目の前の魔法ごと魔法士の人たちごと切る。
「大鎌、聖級スキル……〈星刈〉っ!!」
【死の大鎌】を横に一閃。
ただそれだけ。
ただそれだけで相手が放ってきた四大元素砲が跡形もなく消滅し、その奥にある魔法を放ってふらついていた残りの魔法士生徒達は一人残らず光の粒子となる。
それだけでは終わらず、壁に一筋の切り込みが入る。それがいったいどれほど続いているのかは僕には分からない……けれど、〈星刈〉の直線上に居た人たちは恐らく全員漏れなく光の粒子になったはずだ。
パッと静寂が訪れる。
先ほどまで激戦が繰り広げられていたのに、今では襲いかかってきた他クラスの人は一人も残っていない。この場に残ったのはたったの3人だけだった。
キルナ君とカーマさんは突然訪れた戦いの終わりに未だ固まっていたが、先に動き出したのはキルナ君だった。
「フィー、今のは、なん、だ?」
振り返り彼の顔を見るとそこには僅かに怯えの表情が含まれていた。
それもそのはずだよね。あんなものを見せられたら……少しでもその怯えを消してあげなきゃ。
「僕の奥の手だよ。でも、ポンポン連発出来るようなものじゃないけどね……奥の手を見せたのは痛いけどそうしなければやられちゃったしね」
「…そうか」
半分は本当で半分は嘘だけどね。
あのスキルは連発出来る。けれど、一回する度に体力を凄く使うから今の僕じゃ、出来て2回か3回かな?
過去に一回だけ空に向かって使用した雲が切れた思い出がある。バレなくてよかったぁ……
「書き置きを残して部屋を移動させよう」
カーマさんがそう言う。確かに部屋内は損傷が激し過ぎるから部屋を変えたほうがいいね。
やられたみんなが戻って来ても分かるように僕たちは分かりやすい目標を置いた。他クラスの人に見つかるもしれない事を配慮して方角のみ記載した。
「よし、なら少し離れた場所にある部屋に行ってみるか。地図的には……少し遠いな。大丈夫か?」
「僕は大丈夫」
「私も」
「なら行くぞ」
周囲を警戒しながら僕たちは進み、そして目的地とした部屋の前まで辿り着くと素早く中に入る。
幸い、中には誰もおらず部屋内はガランとしていた。本当に空き部屋って感じ。
この学院内は部屋だけ作って中には何もないという場所が多い。人が使う部屋はある程度密集しているしね。その代わり、こういった空き部屋に住み着いたりと自由に使ってる人が居たり居なかったりする。
「…ふぅ、ようやく落ち着けるか」
ヒンヤリとしてる床に直座りして僕たちは緊張の糸をようやく緩めることができた。
「みんなが戻ってくるまで6時間、長いようで短いね」
今からだと早朝かな?もう少し遅いかもしれないけれどそれくらいの時間になったらみんなが戻ってこられるようになる。
「順に睡眠を取ろう。そうしたら何かあったら起こせる」
カーマさんの提案に僕たちは頷く。
「その前に俺は残りの魔力を使って毒沼を部屋前に生み出しておく。もって2時間少しだけだが無いよりはマシだ……そして、それを行えば俺の魔力は無くなるから無力になる」
「それならキルナは最後に起きて欲しい。フィグラはどうする?」
「…先に寝ていいかな?キルナ君の毒沼もあるからカーマさんが起きてる間は来にくいと思うから」
「…分かった」
納得してなさそうな顔をしているけど先の一連で多少なりとも疲れているはずだ。それなら極力負担が少ない時に起きて貰おうと僕は考えた。
「順番が決まったなら俺は毒沼を作ってくる」
「フィグラはもう寝てて」
「2時間後には絶対起こしてね」
「分かった」
みんなが動けるようになるまでの最低時間は6時間。だから、3人で2:2:2時間でやろうと僕は考えている。疲れは取れるとは言い難い時間ではあるけれどね。
キルナ君とカーマさんは絶対に休ませたい。なんなら僕がずっと起きていようかな?と考えて口にしようとしたけれど、どんな反応がされるのかは予想はできたのでやめた。
「なら……また2時間後…」
見計らったかのように睡魔が襲ってくる。僕はそれに抗わずに横になって目を閉じた。
〜〜2人の視点〜〜
フィグラが横になるとほぼ同時に寝息が聞こえてきた事にキルナとカーマは余程疲れていたのだと考えた。
最初に見張りをする事にしたカーマは寝ようとしないキルナに問いかける。
「どうして寝ないの?」
「寝れないからだ……と言っても信じないだろ?」
「横になって目を閉じれば不思議と寝れる。体が疲れてる今なら、なおさら」
「そうかもな。だが、どうしてもさっきの出来事が鮮明に頭に残ってるうちに考えておきたいことがある」
そう言ってキルナが思い浮かべたのは先の一件で最後にフィグラが見せた攻撃だ。
どう考えてもやられる未来しか見えなかったキルナの予想を裏切った抗いようのない攻撃。もし、あれが自分に向けられていたら全魔力を使っても防げるかどうかと聞かれたら彼は不可能だ、と即答するだろう。
キルナが何を思い浮かべているのかカーマはなんとなく予想出来た。何故なら彼女自身も気になっていたからだ。
「フィグラって、何者なの?」
「俺に聞かれても知らないとしか言いようがない。容姿は完全に女だが、その実力は恐らくクラスの中でもトップだとは思う。時々抜けてるところもあるが、戦闘の時は雰囲気が変わる」
今までフィグラと関わってきて知ることが出来た事をキルナは伝える。
「さっきのあれと同じ?私は彼と一緒に行動してないから分からないけれど」
「いや、俺もあれは初めて見た。キレていた、という感じだったな」
「原因は聞かなくても分かるか」
「愚問だな。そんなフィーだが、弱点がある」
「弱点?」
「油断、というべきものだな。自分の力を過信して本気を出してる風にしてるが、完全に本気を出さずに相手を遊ぶという弱点だ」
思い出すのはフィグラが6体1という不利な場面で戦っていたところだ。
彼の実力なら一瞬で全員を光の粒子に変えることは出来たはずだ、とキルナは思い返してそう考える。しかし、実際はフィグラが6人を倒すまでに少し遊んでいたことは確実だ。その結果、相手の強力な魔法が完成して危うく全滅するところだった。
幸いにも、自分のミスは自分がなんとかするとフィグラがなんとかしたので全滅は免れたが…一歩間違えれば全滅していたし、一手変えればあんな事にはならなかったとキルナは思った。
そして、それはカーマも同じであった。
「改善させるにはどうする?」
「あいつの精神面の問題でもあるしな……一応忠告して、あとはフィー本人が意識して改善するしかないだろう」
「…出来ると思う?」
「…分からない。結構難しいかもしれないが、な」
普段のフィグラを思い浮かべて思わずそう言ってしまう。
簡単に言うと差が激しいのだ。
やる時はやってくれるのだが、気を抜いている時なんて何も無いところで躓く事もある。それをキルナは知っているのだ。
「だが、フィーの為にもなんとかしないといけないだろうな。あいつが何を目指すのかは知らないが」
「案外冒険者になったり?」
「率先して危険に突っ込む未来が見えたな……近衛にでもなるんじゃないか?」
「無理」
「自分で言ってなんだが、俺もそう思う」
「それより、そろそろ横になって体を休めたら?」
「……あぁ、そうさしてもらう」
キルナは横になり場に静寂が訪れる。そして、少し時間が経てば寝息が聞こえてくる。
「………疲れている人たちには休んでもらわないと。また6時間後」
ポツリとカーマがつぶやいた言葉は既に熟睡してしまってる2人には届かない。
その後、部屋には誰も襲っては来ず…あっという間に6時間が経過したのであった。
誤字脱字があれば報告の方をお願いします。
この作品は不定期投稿なのでブクマをおすすめします
ーー以外雑談、普通に長い時もあるので見なくても大丈夫。
最近、一話における文字数が僅かに増えてきてる。
三人称視点というものに頑張っていますが、やはりまだまだ難しいですね。しかし、なんとなく分かってきました。これからは時々三人称視点を挟むかもしれません。
残り短いクラス別競争。
どんな結果になるのかは、決まってます。ただ……これから少し大きく戦闘シーンを描きたいと思っている。どう言う感じにするかは未だ未定。
近々、片手間に書いてる新作をポーンと投稿しますのでお楽しみに。また連絡します
では、またね




