溢れ出る想い
いつまでも奪う側ではない……どこかで必ず奪われるのは宿命なのだろう
「あそこはそんなに危険な場所だったのか」
僕たちは特に収穫もなく、寝泊まりしている部屋へと戻ると既にみんな帰っていたようで僕たちが一番帰るのが遅かった事を知って少し驚いた。
それから夕食を取り、情報交換の時間となったので僕たちは今日の事を事細やかに説明するとトーン君はそんな反応を返してきた。
他のグループで面白そうな情報が一つあった。
それは他クラスが寝泊まりしてる痕跡がある部屋を見つけたとの情報だった。
場所は覚えているので強襲をかけてもいいと言う感じにもなったけれど今日は無理だと言う事で無しになった。
ヒントの紙とか残ってるのかな?と思って聞いてみたけれどそういった類の物は一切なく代わりに何かを焼いたような跡が床についていたらしい。
十中八九燃やしたよね?他クラスに知られるくらいなら、って事かぁ〜。
ちなみに燃やして見られないようにする事は良いな、ってうちのクラスでもなったので今まで手に入れた全てのヒントは燃やされた。そして、灰になったものをさらに細かく刻んでポイってした。
室内で火とはこれいかに?とは思ったけれど、そこは魔法と言うべきものなのか。
魔法の火は普通の火とは違って燃えていても酸素は使わないし、煙は風魔法を使って上手く外に逃したらしい。僕は魔法使えないから見てただけなんだけどね。
やっぱり、魔法使いたいなぁ〜と思った瞬間でもあった……頑張れば使えるのかな?でも、適正ないって言われたから多分無理なんだと思う。ふふ…
「フィグラは確か他のクラスの人と2人で行動してたんだろ?どうだった?」
「……ん?えーとねぇ、普通だったよ?」
話す事はあらかた話したし、質問とかも一通り答えので考え方をしていたらまさかの質問が飛んできたので少し反応が遅れてしまった。
僕の回答が望むものではなかったのかクガヤさんが再度質問してきたので僕は少し考えてから返答をした。
「さっきも言ったように一緒に行動してた人は幼馴染の子だよ。……あと、絶対にその人の事やその人のクラスの情報は悪いけど言わないよ」
「どうしてなのか聞いてもいいか?」
「義理って言ったら変だけど……幼馴染だし、今回の一件は凄く助かったからね。ここで売るような真似は例えクラスのためとは言えどやりたくない」
「そうか。……フィグラらしいな」
僕らしい事なのかな?と疑問に思ったけれどまぁいいや。気にしても今更感あるしね。
そんな風に雑談していると、一瞬何かの気配を感じた。
「ん…?」
「どうした?」
「いや……気のせい、かな?」
うちのクラスではない気配…?まだ探索してる他クラスの人、なのかな?
気配を感じたのは一瞬だけだったので気のせいかと思い考えないようにしたけれど、僕の感覚は間違いではなかったようだ。
「みんな!おおよそ20人前後の気配がここに向かってきている!!」
『っ!!?』
うちのクラスで一番探知魔法が使える人が叫び、のんびりしていた僕たちは当然の如く混乱しかけてしまう。
しかし、トーン君がすぐさまリーダーとして声を上げた。
「落ち着け!全員、事前に考えた行動通りにーー」
だが、その途中で部屋の扉が爆発によってバァン!!と粉々に破壊された。
「もう来たのかっ……なっ!?」
破壊された扉から一気に人がなだれ込んでくるだけならまだ良かった。というより、僕たちは全員そうだと思っていた。
だから、誰も大量の水が流れ込んでくるなんて予想出来なかった。
室内に激流の如く流れ込む水の波は、反応できなかったクラスメイトを次々と巻き込んでいった。
(まっず!?)
僕は咄嗟に【死神の隠伏】を使って姿を消してから上に跳ぶ。そして、そのまま【死の大鎌】を刀の形に変形させて壁に突き刺して自身の体を空中に固定させる。
他にも障壁を張って辛うじてその場で耐えている人や、僕みたいに壁に何かしらの方法で引っ付いて耐えている人……分かる範囲で僕除いて4人がなんとか耐えていたけど、それ以外の人は一瞬悲鳴を上げたと思ったら巻き込まれてしまっている。
このままでは溺れ死んでしまうから助け出そうと思った瞬間、全てが凍りついた。
室内で荒れ狂う激流も、巻き込まれてるクラスメイトも全て、突然凍りついた。
氷塊の中に居る、氷の彫像と化したクラスメイトの苦しそうな姿に僕は怒りを覚えた。
そこからさらに怒りが増したのは、氷塊が熱の塊に全て溶かされたからだ。
扉から恐らく複数人で放ったであろう火魔法が氷塊を溶かしながらクラスメイトを次々と光の粒子に変えていく。
ここで僕が行っても何も出来ないのでただ、見ているだけだった。それが、なによりも最悪だった。
自分の力の無さ、何も出来ずみんながやられていく……最悪以外のなにものでもない。
氷が溶け、炎が消えて、あとに残ったのは床に残った僅かな水溜りと壁に張り付いた僕とキルナ君、カーマさんのみだった。それ以外のみんなは、既にこの場から消え去っていた。
「何人か、残ったみたいだな。2人しか居ないのか」
そんな言葉と共にボロボロな入り口から入ってきた男子生徒の顔には嘲笑が浮かべられていた。そして、そんな彼に続くように次々と他クラスの誰かが入ってきて……最終的には23人が室内に入ってきた。
床に降りたキルナ君とカーマさんの表情は見えないけれど、恐らく怒っているだろう。
幸いにも僕は気付かれてないみたいだ。
「どのクラスだ」
キルナ君がそう問うと、一番最初に入ってきた男子生徒が煽るように答えた。
「今から死ぬクラスに言う必要はないな」
そう言って武器を抜き、魔法を放とうとしてくる相手クラスを前にキルナ君は毒魔法を、カーマさんは長剣で相手をしようとする。
「さて、ゴミ掃除と行こうか」
その言葉を口にした瞬間、僕の中で我慢していた怒りの蓋が外された。
仮面を嵌め、変形させた【死の大鎌】を本来の大鎌にして、音もなく床に降りる。
絶対に帰さないから。
こんなに怒ったのは初めてだよ。
自分でも知らない自分を知れたよ。
後悔しても、もう遅い。
絶対に
許さないから




