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まずいうどん

作者: かねこふみよ

 給料日前だった。冷蔵庫には牛乳が残り少ししかなく、米は一合あるかないかになっていた。明日には振り込みがある。寝起きで頭が動かないせいか、午前中は何も食べないとしても、昼食と夕食分、いや少なくとも一食分くらい腹に入れたかった。ご飯を炊いて、それだけだけだと味が物足りない。マグカップいっぱいにしたカフェオレにしては黒っぽいそれを飲みながら、バラエティを見るものの、頭にあるのは食べることばかりだった。

 復讐と言えば言い過ぎだが、敵討ちみたいな気分で冷凍庫を開けた。チャーハンもなければ、シーフードミックスもない。ギョーザもタコ焼きもない。分かっていた。私の願いは返す刀で斬られることは。それでもあきらめきれないので中腰になってジェル枕を持ち上げてみた。すると奥の方にアイラップにくるまれた何かがある。一矢報いる感じで引っ張り出した。油揚げが一枚入っていた。(いつ入れたっけ?)。賞味期限が射撃をしてきた。私は迅速に行動した。カラーボックスには箱がある。開ける。(よし!)。腹痛用の薬確認。わが軍にも心強い援護が備わった。炊き込みご飯、出汁がない。軍資金を確認した。財布の中には百五十円もない。ならば! コートと言う鎧をまとい、ニット帽と言う兜をし、年季の入った軽自動車と言う馬に乗った。出陣である。

 10分ほどでスーパーマーケットに着いた。白菜、買えない。ネギ、買え……いや、メニューどうする? 軍師たるスマホはなぜか検索できない状態。策略がいくつも浮かんでは消える。他の諸将のカゴたるやなんと豊かだろう。羨んでいても解決にはならない。腹が鳴った。ふと見つけた。麺のコーナー。特売。うどん2袋、しかも粉のスープ付き。値段は、……買える! おお、わが軍に勝機が見いだされた。うっきうっきの足取りでレジを済ませた。残り五十円ほど。いい。今日を乗り越えられるのなら!

 帰城の車中たるや、もはや口の中がきつねうどんの喜びに打ち震えていた。

 帰宅すると、もうご飯が炊けていた。白米ときつねうどん。十分だ。調理がこんなに心躍る時間だとはここ最近思いもしてこなかった。

 合掌。いただきます。うどんを啜った。……。二口目を啜った。……。おもむろに立って、うどんの袋を見た。袋の裏面を見た。聞いたことのない製造メーカー。気を取り直して着席。汁を啜った。……うん、まあ、文句は言えない。汁をふんだんに含んだ油揚げを白米に乗せた。汁でじゃぶじゃぶになったご飯をかきこんだ。うどんを食う、食う、飲み込んだ。

 合掌。ごちそうさまでした。30数年生きてきて初めてまずいうどんというものが世の中にあると知ったこの日は貴重だ。自省を促されたのだ。「過ちを改めざる」と誰が言ったっけ。というか、給料日前の金欠は珍しくもなかったが、せめて備蓄はしておくものだ。

 ところで、まずいうどんは少し飛躍を促した。もしかしたら、まずい水もまずいカレーも、まずいビールもあるのかもしれないということを。

 ニュースが流れていた。難民のニュースだった。合掌、それはごめんなさいの意志だった。まずいとか言うご身分ではないのだ。

 今日はあと寝るだけ。バーボンはあったのでロックにしてちびりちびりした。スポーツニュースが流れていた。軍師の調子が復活したのでアプリをいじっていた。あっ!

 キャッシュレス決済アプリには残金1300円ほどがあった。

 バーボンをあおると、そそくさと布団に入った。


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