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4話


 「わざわざ、こんな所で2人きりって」


僕は北上さんと2人で学校近くの小さな公園にやって来て、2人で横並びにブランコに座っている。

そこは滑り台、ブランコに鉄棒しかない簡素な公園。ここで人が遊んでいる所は見たことない。

逆に言えば2人きりで話すにはうってつけの場所といえる。


 「そう、言いたいことあるの。多分、もう何か分かってると思うけどね」


北上さんは元気よくそう切り出した。

ええ、わざわざ呼び出して言う事なんて一つしかないですよね。

いくら鈍感な人でも流石にそれは分かりますよ。


 「北上さんじゃなくて恋白って呼んで欲しいです」

 「えっ?」


北上さんは真面目な表情で言ったが、想定外の言葉で思わず驚きの声をあげてしまった。

告白じゃないの?えっ、そんな理由で呼び出したの?最近の女の子って実はすごくシャイで名前を呼んで欲しいだけで呼び出すの?別に人前でお願いしても別に良くない?

そんな事を考えていると北上さんはクスクスと笑っていた。


 「流石に呼び出してそんな事は言いませんよ」


そう言うと北上さんは耐えきれなくなったのか「流石にわかるでしょ」とゲラゲラと笑い始めた。

分かってたけどあまりに真剣な表情で言ったので、本当に名前で呼んで欲しい事を言いたいのだと信じ込んでしまってすごく恥ずかしい気持ちが込み上げてきて顔が赤くなるのが分かる。


 「あっ、でも名前で呼んで欲しいのは本当ですよ」


一通り笑い終えた北上さんは少し真面目な口調でそう言った。


 「恋白さんって呼べば良いのね?」


 「いや、さんは付けないでください。距離を感じちゃうから」


 「分かった。これから恋白って呼ぶよ。それで、なんでここに呼び出したの?」


そう聞くと恋白はブランコを飛び降り髪がふわっとなびく、スカートが捲り上がりそうになって、一瞬期待してしまった。


そして、振り返り僕の目の前の手すりに腰をかけた。

正面からだと彼女の様子がよく分かる──顔を赤らめ、少し俯いていて足で地面をいじっている。

しばらく、その状態が続いたが僕は何も言わずに待ち続ける。

すると、恋白は意を決したように顔を上げた──その顔はまだ赤みを帯びている。


 「私と結婚してくれませんか?」


彼女はそう一言だけ言ってまた俯く。

ん?『さすがに分かるでしょ?』って恋白は言ったけど誰が『結婚してくれませんか?』を予想できる?

いや、もしかしたら聞き間違いかもしれない。

僕はそっちに希望を託した。


 「ん?今なんて言った?」


 「私と結婚してくれませんか?」


彼女は間違いなくそう言った。

しかし、人間は不思議なもので理解出来ない言葉は聞き取れても聞こえなかった事にするらしい。


 「ごめん、もう一度言ってくれない?」


 「私と結婚してください!!」


今度は大きな声で言ってきた。

どうやら僕の耳は正常であり、このやり取りのおかげで求婚されたんだと理解が追いついた。


 「え、えっと、いきなり結婚を迫るのは普通おかしくないかな?」

 「結婚する気があるからです」


恋白は大真面目な顔で言い放つ。

この子には相手の事を考えるという思考が飛んでいってるのか?


 「恋白が結婚したいのは分かった。けど僕は結婚しましょうとは言えない」

 「じゃあどうやったら結婚してくれます?」


恋白は手すりが降りてブランコに座る僕の手を握りしゃがみこみ涙目の上目遣いでそう聞いてきた。

女の子の涙は反則だ。


 「分かった、分かった。取り敢えずブランコに座って」


僕は慌ててそう言って握っている手を引っ張って自分の座っていたブランコに座らせて立ち位置を入れ替える。


 「まず、君の事を何一つ知らない」

 「本当に知らない?私のこと何一つ?」


恋白は僕に何かを求めるようにうるうるとした瞳を向ける。


 「今日、自己紹介してくれた事しか知らないよ。県外からこっちに来たんだよね?僕県外に引っ越した事ないし、昔に会ったとは考えにくい……」

 

半独り言のように呟きながら言っていると、恋白は今にも泣き出しそう──いや、既に半分は泣き出している。


 「え?僕、なんかまずい事言っちゃった?」


僕は慌ててなんで泣いているのか尋ねた。


 「いや、大丈夫です。知らないと言うならここから紡げばいいんですから」


恋白はそう言って涙を拭いた──しかし、まだ目が赤くてまだ何かしこりがあるように思えた。

こういった時に女の子になんて声をかけてあげればいいのかそんな風に悩んでると恋白は何が吹っ切れたように立ち上がった。


 「よし!!これから私はリオにお嫁さんの候補として見てもらうから!!」


 「?!?!?!?!」


彼女の突然な宣言に頭の処理能力が崩壊する。

そして、どうゆう事だと頭の中で整理しようとすると突然、飛びつくように胸に抱きついてきたので後ろにコケそうになったので後ろの手すりを掴んでバランスを保つ。


「だから、お願いしますね」


胸を押し付けて上目遣いで言う。

腹部の方にとてつもなく大きい2つの弾力のある塊が潰れている感覚がする。

彼女いない=年齢の人にこの状況はあまりに刺激的過ぎる。

一刻も早く離れてもらわなければ男としての威厳が保てない。


「分かった、分かったから離れてくれ」


そう懇願すると恋白は嬉しそうな顔を浮かべてうんと頷いて離れてた。


 「私の事をしっかり見て、知ってくださいね」


 「分かった。分かった。でも、1つ質問させて。最終目標は結婚だよね?」

 「もちろん」


 「よく知った上で結婚出来ないって言うかもしれないけど、その時はどうするの?」


そう質問すると恋白は難しい顔を浮かべる。

どうやら、フラれるという事は一切考慮していかなかったようだ。


 「その時はその時です!!」


なんと清々しい一言だ──どうやら、素直にスッと引く事は無さそうだ。


 「君の覚悟は良く分かった。このプロポーズは保留という事でいいかな?」

 「プロポーズ保留……付き合ってくれるんですか???」

 「それも保留で……」

 「そうですか……わかりました」


こうしてお嫁さん候補が1人現れて、嫁として相応しい人なのか見極める事になった。

僕にとって大きな悩みの種となった──2人の関係がずっと上手くいけばいいが、2人の関係が悪くなったら、金の卵がいなくなる可能性がある。

そうなれば演劇部にとって計り知れない損失。

これからどうやって恋白に接すればいいんだ?



 「あっ、もうこんな時間!!早く帰らなきゃ」


時間を確認した恋白は少し慌てる。


 「それじゃあ、帰ろうか」


そう促して2人で公園を出る。


 「ちなみに家はどっちの方なの?」


 「あっちの方」


僕の質問に恋白は指差しで答える。


 「同じ方向か。途中まで一緒に帰ろうか」


僕がそう言うと恋白は不満そうに声をあげた。


 「何に当たり前の事を言ってるの?お嫁さん候補として当たり前!!」


こうして2人肩を並べて帰路に着く。

僕と恋白には演劇部の接点しかないので、演劇部を中心に雑談しながら帰っていく。

そんな時ふと思った──こうやって2人きりで帰るのは夏希以外いなかったような────夏希……今日は恋白と帰ってるから夏希は1人で帰ったのか。

後で夏希に連絡してみよう。そして相談をしよう。

きっと恋白との付き合い方を考えてくれるはず。



ずっと話しながら歩いて来たがある疑問が湧いてきた。


 「家どこなの?」


途中どこかで別れるかと思ったが、一切別れる素振りを見せずに自分の家の目の前にやって来た。


 「あそこの角を右に曲がって真っすぐ行ったら家だよ」


恋白は後ろの十字路を指差してそう言った。

どうやら本来、曲がる所を無視してついて来たのだ。


 「僕はここが家なんだけど……」


 「あっ、そうなの?!じゃあ別れる前に連絡先ください。そういえばもらってなかったから」


 「別に良いけど」


僕はスマホを操作して恋白と連絡先を交換した。


 「それじゃあ、また明日。じゃあね!!」


あれ?なんか意外とすんなり返してくれた。

もっと一緒に話そうとか言ってきてもおかしくないと思っていたから、どう言って家に帰ってもらおうか悩んだのが杞憂に終わった。

家に帰るとリビングで母親の『おかえり』が聞こえてきて日常が戻ってきたとホッと一息つけた。


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