2話
門には既に運動部でごった返していた。
勧誘するために玄関の前で壁を作る人たち、手当たり次第にチラシを配る人、大声を出しながら部活の勧誘をする人。
勧誘に捕まってオドオドしながら話を聞く新入生、勧誘を無視してスタスタと歩く強メンタルを持った新入生。
「俺たちも負けないように勧誘するぞ」
「1人でも入ってくれると良いな」
そう言い合って散らばって新入生にチラシを渡していく。
「演劇部です。初めての方でも大歓迎です」
そう言いながら男、女、問わずとにかく配った。
一五分ぐらいで手に持ったチラシも無くなって、新入生も大半が帰ったので部活勧誘の熱が冷めかけていた。
「そろそろ、あっちと合流するか」
健吾もチラシが無くなったようで駐輪場の方を見ながら言った。
突然、背丈の大柄な男たちが1人の女の子に囲んだと思ったら「サッカー部のマネージャーやらないか?全国大会に君を連れて行くから」 「いやいや、野球部でマネージャーに入らないか?甲子園に連れて行くから」と勧誘を始めた。
(うちの高校は地区大会を優勝しただけでちょっとしたお祭り騒ぎになるような高校なのに、運動部の奴は調子良い事しかい言わないよな)
そんな事を考えながら駐輪場に向かって歩き始めると「ちょっと待って」と健吾が言い出した。
「どうした?」
「あんなにマネージャーにしたいほどの見た目なら可愛い女の子なはず」
「はぁ~~」
教室の一件が合ったのに懲りないなと呆れてため息が出た。
「可愛い女の子は絶対に舞台を華やかにしてくれる!!リオ、勧誘しに行くぞ。そして、何が何でも入部させてやるぞ!!」
健吾はそう言って勧誘する運動部の人垣の中に向かっていくので仕方なくついていく。
「あの~~私はマネージャーに興味がないのでどいてもらえます?帰りたいんですけど」
囲まれていた女の子が人垣をかき分けて帰ろうとしている。
「おい、リオ。あの子って」
健吾がそう言ったので僕もその子の顔を見るとそこには体育館で演劇部に熱烈な視線を注いでいた女の子がいた。
「あっ!!」
彼女は僕と目が合うとそう言って囲んでいた人を振り払って僕たちの所に駆け出してきた。
「演劇部の人ですよね?」
彼女は自分の目の前で立ち止まった。
その様子を見ていた運動部の人たちが「なんだ、部活決めていたのかよ」などと彼女が入部する見込みがないと知って残念そうにそう口々に呟いた。
「俺たちは演劇部ですよ。君の名前は?」
女の子慣れしている健吾が対応する。しかし、彼女にはその声いや、健吾の存在など目に入っていないように熱烈な視線で僕を見つめてきた。
「ぼ、僕たちは演劇部だけど────えっと....演劇部に入部希望?」
グイグイくる感じに困惑しながら応える。
「体育館で名前言っていたと思うけどもう一度言って」
「白垣凛桜」
「リオって凛々しいの凛に桜って書いてリオだよね?」
「そ、そうだけど........」
初見でリオの漢字なんだと思う?と聞いても絶対に僕の名前の方の漢字は出てこないような名前なのに彼女は僕の漢字を知っていた。
「私の事覚えています?」
突然、彼女はそう聞いてきた──真剣で切実な眼差しで。
僕が真剣に記憶から彼女を探し出すが、どう考えても今日、体育館で彼女が熱烈な眼差しを向けてきた時が初めて彼女を見た時でそれより以前に彼女を見た事はない。
「体育館で演劇部を真剣な目で見てた子だよね?凄く真剣な目で演劇部を見てたから印象に残ってるよ」
そう言うと彼女は哀しそうな顔を浮かべた。
不味い事を言ってしまったかと思っていたら『最終下校時間です。校内に残っている生徒は速やかに帰宅しましょう』という校内放送が聞こえてきた。
「そうだ!!今日は部活しちゃあいけないから下校時間が早いんだ!!」
健吾が思い出したように言う。
「あっ、私もこの後、用事があるんだった」
彼女はそう言って慌てて帰ろうとする。
「ちょっと待って!!君は演劇部の入部希望なの?」
肝心な所を聞いていないと駆け足で去って行こうする彼女に叫ぶ。
「リオがいるなら入部する!!」
反転するなり彼女はそう言い残して去っていった。
「お前、一目惚れされたんじゃない?」
健吾がニヤニヤしながら言う。
「そんな一瞬で恋に落ちるか?」
「さあ?ないとも、あるとも言えないかなぁ」
「まだ名前聞いてなし、活動場所を教えてない」
「まあ、入部する意思があるから、自分から来るでしょ。それに良かったな、確定で1人の入部が決まったわけだし。この事をあっちに伝えに行くぞ」
健吾はそう言いながら校舎の方に引き返して行くので、自分もその後を追う。
「すべてチラシを配れたのは良い事、あとリオに興味ある事が入部する気があるのは良い事」
「リオ目当で入部ってやっぱり裏方に興味あるのかな?」
さっきあった出来事を聞いた本庄さんと夏希が言う。
「やっぱり僕に一目惚れした訳ではないよね」
「リオに一目惚れ?有り得ない。それは自意識過剰だよ」
僕の発言を聞いた夏希がバカにしたように笑った。
「まあ、何がともあれ部員が増えるのは良い事よ。明日から体験入部期間だから元気に部活するよ。それじゃあ、今日は解散。お疲れ様でした」
「「「お疲れ様でした」」」
校門前で全員が立ち止まり、部長 本庄さんの一言で解散した。
「リオ、夜にまた連絡入れるわ」
健吾がそう言って本庄さんと帰宅方向とは違う方に向かおうとしていたので聞いてみた。
「分かったけど、今日は2人で帰るの?」
「そう。これから梨花に付き合って店に行ってくる」
健吾はそう言ってさりげなく本庄さんの肩に手を回して抱き寄せた。
本庄さんは少し顔を赤めて満更でもない表情を浮かべている。
このカップルは学校内では付き合っている空気を出さないが学校が出たとたんに分かりやすくカップルになる──恋沙汰を部活に持ち込まないから、めんどくさくないので恋愛を素直に応援できる。
「私たちはさっさっと帰るよ。私たちが2人の時間を邪魔したら悪いから」
夏希はそう言って家に歩き始めたので家の方向が一緒なので僕もついて行く。
「これから演劇部どうなると思う?」
夏希に話しかけた。
「そんな事分からないよ────演劇ができる程度は人が集まりそうだけどね。問題は男子が入ってくれるかだよね」
夏希は難しそうな顔をしながら応えた。
「男子が興味を持ちそうな裏方の話はしたけど、そもそも高校に入って演劇部に入りたい人の方が珍しいからなぁ」
「だよねぇ」
夏希はそう言ってため息をついた。
夏希には僕よりも重い副部長としての責任がのしかかっているのだろう。
「まあ、私がここで考えても新入生の気持ちが『演劇部に入部したい』ってなるわけないからなぁ。切り替え、切り替え」
夏希はそう言って自分の頬を軽く両手で叩いた。
「明日ってなにがあった?」
「クラス分けテスト」
クラス分けテストは英国数の3教科のテストで、テストの結果によって、応用と基礎クラスに分けられる。
応用クラスにいくと、大学推薦を貰いやすいので大学進学を目指している人は応用クラスを目指していて僕と夏希も大学推薦が欲しいので応用クラスを希望している。
「そのテストって成績がクラス分けに繋がってるんだよね?」
「そうだよ」
僕がそう応えると夏希は英語が得意じゃないので「ぎゃあぁ~~!!」と声を上げた。
「急いで家に帰らないと」
夏希は急ぎ足で帰り始めたので僕も一緒に急ぎ足で帰る。
帰宅した僕は部屋に入った後、バックを投げ出してベッドに仰向けで倒れ込んだ。
(みんな、あの子の言葉は恋じゃないって言ったけど、もし仮に恋だったら初めての彼女?!そうだったら良いなぁ。でも、僕に彼女?彼女がいる自分なんて想像できないな)
勉強しなきゃと思いつつモヤモヤした塊が頭の中を動き回るのが嫌になって、漫画を開いて読み始めた。
「夏希、お帰り」
リビングでワイドショーを見ていたお母さんが私の帰宅に気づいて声をかけてきた。
「ただいま」
私はそう応えるなりすぐに自分の部屋に入ってカバンを開けるなり、机に張り付いた。
苦手な英文法の教科書を開いて確認していくが、なぜか頭に入ってこない。
すごくモヤモヤとしたものが頭を支配する。
(集中しないと駄目!!)
自分を叱責して、無理矢理、勉強に集中する。
ふとした瞬間に漫画から目を話して時計を見た時に明日、クラス分けテストあることを思い出して流石に勉強しなくちゃと思い勉強を始めた。
「ご飯出来たわよ」
小一時間くらいたった時、お母さんが階段の下から僕を呼んだ。
「は~い」と返事を返して机を軽く片付けたリビングに向かった。
「おじゃましてます。リオ君も小テストの勉強してたのかな」
リビングに入ると夏希のお母さんが遊びに来ていた。
夏希と僕は家族ぐるみの付き合いがある。
というのもお互いの父親が同じ会社の同期で仲が良かったらしい。
南条家は夏希が学校入学のタイミングで新居を構えようとしていたのだが、土地探しが難航、そこに我が家の空き地を父親が紹介したらしく、我が家の裏に南条家が来たのだ。
それ以来、家族ぐるみの付き合いがあり、母親たちが頻繫にお互いの家を出入りするようになっている。
今では裏の塀に門を付けて出入りしやすくするほど家族間の交流がある。
「あ、そうですけど──なんでテスト勉強しているって分かったんですか?」
「夏希が息を切らして帰ってきてテストの勉強しなきゃって言って部屋に閉じこもったから……もしかしたらリオ君もそうじゃないかなって」
「なるほど」
夏希のお母さんから夏希の様子を聞いて、漫画を読んでいた自分がこのままじゃあやばいなって思った。
夏希は要領が決して良いとは言えないが、努力家で気を抜いたら自分が追えない遠くに行きそうな気がしていつも負けじと勉強したり、部活をしたりしている。
夏希は自分にとって切磋琢磨するライバルだ。
「リオ、冷めないうちに食べなさい。アヤさんも食べていかない?」
お母さんがそう言いながら大皿に肉じゃがを食卓に置いた。
この量は……自分たちの家族で食べ切れる量ではない──最初から家族ぐるみで夕食を取ろうしているのだ。
母親は絶対に確信犯だ。
まあ、この行事は月に複数回行われるもはや恒例行事だ。
「え?いいの?ご馳走になろうかしら」
「ええ、夏希ちゃんも呼んで一緒に食べましょう」
お母さんがそう言うと夏希のお母さんがスマホを取り出して夏希に電話を始めた。
夏希のお母さんの声や電話越しに聞こえる夏希の声から察するに夏希はテストを理由に断ろうとしたみたいだが対抗虚しく折れて夕食を食べにくるらしい。
「「いただきます」」
夏希が家にやって来るのを待ってから夕食を食べ始めた。
夕食では夏希と僕は話すことはほとんどないけど、親達の質問攻めに遭う。
学校の事が多いけど、話が進むに連れて将来の事、挙句の果てには彼女や彼氏はいるのかなど思春期の男女には聞いてはいけないような事を聞いてくるので正直、いい迷惑なのだ
「そういえば新入生どうなの?恋人にしたい子でもいた?」
夏希のお母さんが突然そんな質問をしてきた。
飲んでいたお茶が気管に入ってむせた───僕をどうやったら新入生の女の子をそんな色目で見るような人になるのか。
「新入生とは部活動紹介の時に見ましたけど、そんな風に新入生を見てませんよ」
「じゃあ、一目惚れした子はいないのかぁ」
残念そうに夏希のお母さんが言って、それを聞いていた母親も何故か残念そうにしていた。
「高校生のうちに恋愛の1つでもしないと将来、お嫁さんを見つけるときに騙されるとか散々な目に遭うかもしれないよ。だから、恋愛を早めにしなさい」
「そうよ。アキさんの言う通り。夏希も勉強と演劇頑張ってるけど恋愛もしないと」
なんで僕と夏希の母親はこんなにも子供の恋愛に関わろうとするのか不思議だ。
そこは個人のプライバシーとかあるからいくら親でも触れるべきではないと思うのだけども。
「ちょっと、お母さんなに言ってるの?」
夏希が話を止めにかかった。
「私は真剣に言ってるのよ。一目惚れとかから恋愛が簡単に始まったりするものよ。少し恋愛に目を向けて欲しいなぁっていう願いよ」
夏希のお母さんが夏希に伝えるように言った。
しかし、何かが夏希の棘に触ったようで夏希がムスッとした態度になった。
残りのご飯を急いで食べ終えた夏希が「アキさん。ご馳走さまでした──テストの勉強があるので帰りますね」と言い残して皿を片付けようとするとお母さんが「置いといていいよ」と言ったので夏希は立ち上がりそのまま裏口から自分の家に帰っていった。
「ごちそうさま」
僕も食べ終わると皿を片付けて部屋に帰って明日に備える。
食事を済ませてすぐに自分の部屋に入り勉強の続きを始める。しかし、夕食を食べに行く前と同じように集中できない。でも、前とは違ってモヤモヤしたものがハッキリと分かる。
(リオに彼女?小学校の頃から今まで全くそんな気配なかったのに────いや、まさかね。リオに彼女ができる姿なんて想像できない。逆にそんな姿見せて欲しいくらい)
私の中にある不安を無意識に押し潰すようにそう思った。
(なんで私がリオの彼女ができる事を気にするんだろう?別にリオに彼女が出来ても何も不自然な事じゃない。なのに、なんだろうこの気持ちは?なんでリオが離れていくような感覚が……いやいや、明日は小テストあるのに────成績が下がったら部活より勉強を優先しないといけないから、メリハリはしっかりつけなくちゃ!!)
夏希は首を振って気持ちを切り替える。
「英語のテストどうやった?」
演劇部の活動場所に向かう廊下の途中で健吾が話しかけてきた。
「それなりに出来たから応用クラスには行けると思うよ」
「俺も満点に近い出来だから応用は確定だな」
健吾が自慢げに言っていると落ち込んだ様子の夏希が後ろから追いついてきた。
「落ち込んでどうした?」
健吾が夏希に話しかける。
「応用クラス行けないかも……8割は書いたけど分かるっていう問題が少なすぎる……」
「大丈夫じゃない?見た感じ結構勉強してなかった?」
「なら良いんだけど……あまり集中できなくて……」
「大丈夫だよ!!イケてるって!!」
「不安だよ……」
健吾の励ましを受けるが夏希の不安取り除けないようだ。
昨日頑張ったら大丈夫だよと無責任な事は言えないので僕は何も言わずに沈黙する。
「はい、はい、新入生来たからシャキッとしなさい」
本庄さんが3人の女の子を連れて入ってきた。