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1話

じゃあ、私と結婚しよ………」


なんの前触れもなく突然そんな事を言われたら、世の中の男はなんて答える?

僕は答えれなかった──話を逸らしてYesともNoとも答えなかった。

そのせいで変に話が難しくなった。




 「人前に出たことない裏方さん緊張してない?」


今日の部活動紹介文に目を通していると渡辺健吾わたなべ けんごが茶化すように言ってきた。

こいつはいわゆる陽キャタイプでそこそこ舞台映えする奴なので主役を1年間務めたてきた。

そのせいで僕は反対に1年間、裏方に回った。

部活には男子が2人しかおらず、裏方にも男子は欲しいよねというのが理由だ。


「誰のせいで1年間裏方に回ったと思ってんだよ」


僕は顔を上げて眉をしかめて言うと健吾は冗談交じりに笑った。


 「あら、健吾は余裕そうだけど言う文を覚えたんだね──失敗したら分かってるよね?」


健吾を脅している眼鏡をかけた黒髪ロングの人が部長の本庄梨花ほんじょう りか

ちなみに健吾と本庄さんは去年の秋に付き合い始めたカップルだ。


 「もちろん!!こんな短い文、俺にとってはすぐ覚えれるわ!!」

「じゃあ、噛んだり詰まったりスラスラ読めなかったら自販機まで走ってもらうからね」

 「構わない──逆に言えたらこっちがお前をパシるからな」

 「スラスラ言えて当たり前なのになんで私が当たり前の事に対してご褒美を渡さないといけないの?」


本庄さんの正論が健吾を黙らせた。

決着がついたと言うように本庄さんは眼鏡をかけ直してまた台本に目を通し始めた。


 「グサッと言われたな」 


僕は健吾にからかうように言って追撃する。


 「うっせえよ」と健吾は返して台本に目を通し始めた。

このカップルは本庄さんの方が強くて健吾は尻に敷かれているらしい。

本庄さんの向かい側で紹介文を黙々と呟いてるのが、小学校の頃からの幼馴染で副部長の南条夏希なんじょう なつき

自分たち4人は東央高校演劇部2年で部活のフルメンバーだ。

今の演劇部に3年生の先輩はいないので新入生が入らないと2年生4人だけの演劇部になってしまう。部活の存続として問題はないのだが、僕たちには大きな目標がある。それは全国大会に出場して頂点を取る事だ。

そのためにはとにかく部員が必要だ。


 「そろそろ時間だよ」


部長が部活動紹介の集合時間に近づいたのでそう声をかけてきた。


 「「は〜い」」と返事を返して集合場所である体育館に向かった。 

入部勧誘のチラシを持ち、部活動紹介終了後の新入生勧誘のための場所取り合戦を始めようとしていた。



「あ〜集中力が切れ始めてるなぁ」


体育館の入口から様子を見た本庄さんがため息混じりに呟いたので自分も体育館の中を覗き見る。

たしかに運動部目当ての子が多いのか運動部の部活動紹介が終わると俯き始めていた。

そして、文化部の部活動紹介が始まった。

演劇部は文化部の最後なので体育館横で中の様子を窺いながら待機する。

吹奏楽のパフォーマンスは盛り上がっていたが、ただ喋るだけの部活は殆どの人が見ていない。

ちゃんと興味を引けるのかとか考えていると演劇部の順番が回ってきた。


 「次の部活動紹介は演劇部です。演劇部の皆さんよろしくお願いします」


生徒会の人がアナウスした。

それと同時に体育館の照明が落とされ真っ暗になり、新入生たちがどよめきの声をあげる。

僕は予定通りに2階に設置されているピンスポのスイッチを入れて体育館中央にいる演者に光を当てる。

新入生が一斉にピンスポの当たった所に注目する。


「はい、どうも〜!!渡辺健吾で〜す。名前だけでも覚えってて帰ってください」

「な〜に漫才しとるやん!!うちらは漫才部ちゃうねんで!!演劇部や。お前の名前より、演劇部がある事を覚えてもらわないとあかんので」


夏希が健吾にツッコミを入れる。


 「そういうお前も漫才口調じゃないか!!」


健吾がツッコミにツッコミで返すと体育館が笑いに包まれた。

掴みは上々、そこから1分間の寸劇が行われた後、ピンスポのスイッチを切り、部活動の紹介ムービーをプロジェクターで投影する。

動画が流されている間に素早く1階のフロアに移動する。


 「みんなさん、こんにちは。部長の本庄梨花です。これから先輩たちから一言を言っていきたいと思います。まずはスポットライトを操作していた白垣君から」


フロアに電気がつくなり喋り出した部長が打ち合わせ通りに僕に振った。


 「寸劇では照明を担当した白垣凛桜しらがき りおです」


出来るだけ色々な人と目線が合うように顔を左から右へと動かして新入生を見ながら言う。

体育館出口付近に目を向けた時に1人の女子と目が合った。

少しギャルぽい彼女は僕の方に対して熱烈な視線を送っている。

真剣に見つめてきているせいで意識を彼女に持っていかれて一瞬、目が釘付けになったが、言うのをやめる訳にはいかないので慌てて目線を外す。

しかし、動揺して次に言う言葉が出てこない。

テンパりそうになった瞬間に健吾が足で小突いてきて、そのおかげで冷静さを取り戻した。


「寸劇後の映像は僕が中心となり作成しました。演劇は演技だけではなく音響、照明、場合によっては映像などを駆使して舞台を世界中のありとあらゆる場所を表現する楽しさもあります。音響、照明、映像に興味がある人の入部も待っています」


僕は台本に書いた通りに言葉を言ってから軽く一礼すると流れるように健吾が喋り出した。


 (テンパってしまった……後悔と舞台慣れしいてる健吾はすごいな)


テンパりそうになった自分が恥ずかしくなってきて顔を隠したい気持ちに襲われるが、人前に立った以上はしっかりと見てくれる人に顔を見せなければと前を見る───本音を言えば早く終われ、早く終われと願いながら。


 「これで演劇部の部活動紹介を終わります。」


部長の締めの声が体育館に響き、自分たちは一礼して体育館から出るために出入り口に向かっていると出入り口付近に座っている熱烈な視線を送っていた彼女の近くを必然と通り過ぎるので何気なくそっちの方に視線を向けた。

やはり彼女は自分たちの方をしっかりと見ていた。

前を歩く健吾がわざと歩く速度を落として「おい」と囁いて彼女の方に目配せしてきたので『気づいているよ』と目線で返した。

そのまま歩いて通り過ぎようとした時、彼女は口を開いて小声で何かを伝えようとしていた。

彼女の口がモゴモゴと動くのは分かったが周りのざわめきで何を言っているのかまでは分からなかった。


(あの子、演劇部に惹かれるものがあったのかな?あんなに熱意のこもった視線を送ってきて)


入部しそうな人が1人見つかって嬉しい気持ちと共に体育館を後にした。



 「裏方さんテンパったじゃないんすっか?」


自分たちの教室に戻ると健吾がミスをいじってきた。

部長と副部長は職員室に顧問の先生とお話に行ったので教室に自分と健吾しかいない。


 「少し詰まっただけ、初演でセリフを吹っ飛ばすよりマシだと思うけど?」

 「体育館と劇場だと全然違うわ!!────それよりさ、めっちゃ、見てきた子いたな」

 「入り口付近にいた子?」

 「そうそう、めちゃくちゃ俺と目が合っていた──あれは脈ありだな。恋に落ちた乙女の目をしていた」


そうなのかな?と思ったがモテる色好みの奴が言うならそうなんだろう。


 「それに、あれはデカいぞ」

 「入部する確率?」

 「いや、胸の大きさ」

 「そっちかい!!」


反射でツッコミを入れる。

体育館のあの子の容姿を思い出す──茶髪ぽい髪でオシャレな編み込みツインテールでギャルぽい感じだったが、少しぶかぶかの真新しいブレザーが新入生特有の初々しさを感じさせたような気がする。


 「別に大きいって感想は抱かなかったぞ」

 「これだから非モテ男子は分かってないな。ぶかぶかのブレザーからでも分かるほどの胸だぞ。ブレザー脱いだら相当な大きさに決まっている」

 「お前サラッとこの世の大半を占める非モテ男子を敵に回したぞ。それに彼女がいるのにそんな風に女の子を見ていたら彼女に怒られるぞ」

 「彼女と女の子は違う存在だから問題ない。そもそも可愛い子がいたら目が行くのは男の本能だろ。故に不可抗力!!」

「あっ....」


健吾が語っている時、視線を感じてハッとなって扉の方を見ると本庄さんが教室の中をジッと見ていた。

ばれたと分かったのか何食わぬ顔で本庄さんと夏希が入って来る。


 「健吾、可愛い女の子はいた?」


本庄さんが教室に入るなり、さも普通の事を質問したのが余計に恐怖心を煽った。


 「イヤァ~~いなかったです。はい」


一瞬狼狽した健吾が何故か敬語で答えた。


「そう?体育館から出る時に1人の女の子を見ていたような気がするんだけどなぁ~~」

「き、気のせいでは?」


引きつったような笑顔で健吾が言う。


 「別に怒ってないわよ。可愛い女の子好きなのは分かってるからね。ただ、手を出したら怒るけど」


本庄さんが怒ってない事が分かった健吾は気が抜けたようなため息をついた。


 「これから早速、下校する新入生に勧誘チラシを配り行きます。校門と駐輪場の二手で別れます。校門は男子組でよろしく」


健吾のため息には触れずに本庄さんそう言った。


 「「は~い」」


健吾と僕は勧誘のチラシの半分を受け取って部活勧誘に向かった。


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