魔王と101人の婚約者達
魔界大戦。魔族達が住む世界を巻き込んだこの戦いに、俺、ティルトが数々の戦いを制し魔界を統一。これから魔王となり国を統治するというところ。重装備の魔族の兵士が、俺の前まで来て片膝を突き頭を下げる。
「ティルト様、婚約者様たちをお連れしました」
「うむ、通せ」
謁見の間の入り口から美女たちの群れが。総勢101人の婚約者達。各地域に出向き、魔王特権を使い気に入った女を手に入れてきた。そうなのだ、もちろん国の統治だけでなく子孫繁栄もおこなわなくてはならない。これから毎日頑張らなくてはいけない。魔王って大変。
まあこのために魔王になったと言っても過言ではないけど。
「魔王様につきましては――」
代表のエルフの王女が俺に挨拶をする。魔族の枠を超え、どの人種からも美しいと言われている彼女。おそらくは世界一の美女であろう。
挨拶が終わると彼女たちは謁見の間から出ていった。入れ替わるように老婆が謁見の間へ入ってきた。昔からうちの一族に仕えてくれている占い師。彼女が焦ったそぶりでこちらに近づいてくる。なにやらただ事ではなさそうだが。
「ティルト様、大変でござりまする。これを見てくだされ」
俺のすぐ前まで来て水晶を見せる老婆。その水晶を覗くと、俺と婚約者達がいるのがわかる。先程のやりとりの一部始終のようだが。これが一体。
「占いで、この水晶に写った者の中に一人、この国を崩壊に導く者がいると出ましたのじゃ」
「なんだって!?」
老婆の占いはよく当たる。彼女のおかげで俺が魔王になれたと言っても過言ではない。その的中率、なんと10割。必中なのだ。詳しく聞くと、誰かはわからないが、その1人以外は問題はない、とのことだが。目をつむり思い当たりがあるところを頭の中で探してみる。
婚約者の中に前魔王の娘がいる。前魔王とは直接やりあっている。殺すつもりはなかったが、俺との戦いで生じた怪我が元で死んでしまった。親の仇だ、恨みを買っている可能性は高い。
いや、隣国の領主の妻か。彼女の夫は戦争で死に、非常に戦争を憎んでいると聞いたことがある。先程会ったときも俺を睨みつけていた。彼女かもしれない。
もしかしてエルフの王女か。彼女を手に入れるときかなり強引な手を使ったからな。
……、半分以上の女に思い当たるところがある。俺がおもいつくだけでも半分だ、おそらくはもっと恨まれたりしているのでは。大きなため息をつくと、女が1人謁見の間へ入ってきた。
「どうしたの? 元気なさそうだね。もっと鼻の下伸ばしているかと思っていたけど」
「色々あってな」
彼女は幼馴染の魔族の女、名前はウェル。婚約者の1人で小さい頃からの仲だ。「今は忙しいから後で相談乗ってあげる」と出ていく彼女。そうだ、彼女だ。あいつなら悪巧みはしていないはず。急いで老婆を呼び出し相談。そして結婚相手はウェルだけにすることにした。
他100人の者たちとは婚約解消、自分の国へ。これで国が滅ぶことはあるまい。
「良かったの? 私だけで」
「もちろんさ」
結婚式は壮大なものになった。出ていった婚約者たちもちらほらとみかけた。ここにいる頃よりも穏やかな顔をしている。そうだ、これで良かったんだ。こうしてウェルと結婚して俺は国を治めた。
そして5年後に国が滅びた。
「タイムリープ!」
5年前、謁見の間でエルフの王女の挨拶聞いているところ。
奥の手の魔法具で、1度だけ決めておいた過去に戻ることができる。念の為にこの時代に戻れるようにしておいた。魔法具は音もなく崩れ去った。
まさかウェルが外れだったとは。だがこれで残りの100人を好きにしていいってことだな!
「ちょっと! なんで私だけ!」
「すまん!」
正直惜しいが国が滅んでしまうからな。彼女も美人だ、いつか良い人があらわれるさ。
よし! 最強の未来が見えてきた!
こうして俺は、100人の婚約者と結婚、国を治めることになった。
そして5年後、国は滅びた。