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魂揺のかがり火  作者: 藍紅 吹雪丸
7/12

第七話 式神累は嘘を嫌う蟒蛇である

 ──見つけること自体は簡単だ、と八重野が言っていた理由がすぐにわかった。

 いたずらが成功して満足、と言わんばかりの満足気な表情を浮かべた青年の手に握られているのは──そう、銀色の鍵。


「それ、先輩の言ってた……?」

「そっすよ!

 オレ、式神の(たま)って言うっす。これをオレから奪って持ってけば、第一の試練クリア〜!ってことになるっすね」


 一般的な家や学校の教室の鍵を連想させられる、普通の鍵。そのまま、部室の鍵ということなのだろう。

 部室に入るための"鍵"、と言うくらいだし入部届だとかそういうものの可能性も頭の片隅に置いていたが……特にそういうものでもなかったようだ。

 ……と。


「…………たま?」

「はい、珠っす! どうしたっすか?」


 珠、という名前を最近どこかで聞いたような気がして、密香はここ数日間の記憶を遡った。

 八重野のレクリエーション……違う。ぬらりひょん退治……違う。鎌鼬退治……違う。入学式……違う。

 ええと、途中でもう一件あったのは──


『わぁ! ご主人様、これ、()さんのお団子ですか!?』


「…………あ」


 お花見だ。


「お団子、美味しかったです!!」

「お、おだんご…………?」


 おそらくこの珠というのが、八重野が言っていた『八重野の知る式神の中で最も料理が上手い式神』なのだろうと思い当たる。

 名前の可愛らしさと料理の出来から『女の子の式神なのかなぁ』という偏見を持っていたが、どうやら思い違いだったようだ。

 言われた珠の方は、一瞬何のことだかとでも言いたげな表情を浮かべたが、すぐに思い出したようで「あぁ〜!」と言ってぽんっと左掌に右拳を叩きつける。


「なるほどこの前のっすか! アナタも八重野サンと一緒にお花見したんすねぇ、美味しかったならよかったっす!」

「よく覚えてたなぁヒメさん、俺すっかり忘れてたぞ……そうだな、マジであれ美味かったわ。ありがとさん」

「喜んでもらえたならオレも嬉しいっすよー! いやぁ実はオレも行きたかったんすけど、ご主人が野球の助っ人行ってる間、ソシャゲの周回させられてて……」

「ほう? 野球っつーと、運動神経いいんだな? かっかっか、そういう奴は嫌いじゃないぜ!」

「本人はサッカーが好きらしいっすけど、うちのご主人スポーツは大体何でもできるんすよぉ! この前なんか…………」


「…………じゃ な く て !」


 自分の一言のせいだが、なんだか場が和んでしまったので仕切り直し。

 密香がまた口を開く。


「おほん。珠、その鍵はどうやったら渡してくれるの?」

「おっと、そうだったっす。えーっと、そうっすねぇ…… 祥サンは力試しで技量を測るって言ってたんすけど、ジブンそこまで強くないんで…………

 隠れんぼとか、どうっすか?」

「…………私たちが鬼なら却下」


 キッパリ言い切った。

 密香には苦手なものが幾つかあるが、そのうちのひとつが『隠れんぼの鬼』である。

 隠れる側ならば最終的に忘れられてしまうくらいに得意なのだが、どうも見つける側だと、いくら頑張っても誰も見つけられなくなってしまうのだ。特に一度、ずっと密香の後ろを尾けられていて気付かず見つけることが出来なかった──という時から、もう密香は鬼の方はしないと決めている。


「えー、つまんないっすね〜……でも、付き合ってもらわないと鍵はあげらんないっすよ〜?」

「まぁまぁ坊主! そこに座りな!」


 この場においてこれ以上ない鬼である累が、何ら気にした様子もなくその場にどかりと座った。


「式神サン、何してるんすか? 今は敵前っすよ」

「俺は美味(うめ)ぇもん食わしてもらったら酒を振舞うって決めてンだ。どうせだし、一杯やろうぜ」

「は、はぁ……?」


 そう言うと、どこからか取り出した酒瓶をドンとその場に置く。水面が鳴る音があり、中にはそれなりの量の酒が入っているようだ。


「……累、それどこから持ってきたお酒……?」

いつだったかに(むかし)作った酒蔵モドキが、ヒメオリの家の地下にあんだよ。今度見せてやるぜ」

「そんなのあるの!?」

「っつーか、オレお仕事中なんで酒はちょっと…………」

「ご主人が未成年だと、あんまし呑めてねーんじゃねぇか? 何かの縁だ、呑んでけ呑んでけ!」


 自由な振る舞いを貫き通し、累がこれまたどこからか取りだした猪口(ちょこ)に向かって酒瓶を傾ける。

 彼の顔こそとても満足そうではあったが、密香と珠は軽く引いたような何とも言えない表情で眺めていた。


「…………しょうがないっすねぇ……わかったっすけど、一杯付き合ったらちゃんと累サン?も仕事に戻るんすよ?」

「かっかっか、ったりめーだろ? じゃ──」


 見た目だけなら累の方が歳上なのだが、中身が良い分珠の方が大人に見えてしまう。

 ため息をもつきそうな様子で珠がその場に座る、と。


「ほいっ」


 累がそんな小さな掛け声で、何かを珠の方へ投げた。



 ……投げ縄状にされた注連縄の輪、である。



「え」

「え」


 累の前に正座で座った珠が輪を潜り、輪投げでも(され)ているかのように珠は輪の中に座る形になった。

 すると累は間髪入れずに両手を合わせ、ニィッと愉しそうな表情を浮かべた。


「──『術式、累』!」


「え────」

「えっ!?」


 ────瞬きの後、輪の中から珠が消え、そこには銀色の鍵だけが残っていた。

 ……あれは、鎌鼬を退治したときの技だ。まさかの。


「え────っ……!!?」


「か──っかっか!! こんな上手くいくとは思ってなかったなァ!」

「ちょっ、え、えぇー……???」


 累は悪い笑みを携えたまま、機嫌良さそうに立ち上がった。

 いつの間にか酒瓶も猪口も仕舞われている。累が残された注連縄と鍵を拾い上げると、鍵を密香の方に差し出す。


「ほらよ、ご主人サマ!」


 渋々といった様子で密香は鍵を受け取った、が。


「……うっわ……なんてことしてんの…………」

「おいおい、せっかく鍵盗って来たのにその言い草は酷ぇなァ! 酒は後で振る舞うけど、こんな時にくれてやんねぇっての。

 俺、嘘はついてねーぞ?」

「尚更うッッッッわ………………」


 密香渾身のドン引きが、空気をきつく絞め上げた。



   ●



 祥の刃が、今にも烈の頭を黒と銀に分けようと斬りかかった時──祥の横から、何かが飛翔してきた。


「はっ────!?」


 赫い光を放つ火の矢(・・・)は、祥の水の刃の先、浮かんでいる銀の鍵だけを撃ち抜いて、


 ──かこんっ、。


 壁に刺さったその矢先は、銀の鍵を捕らえていた。


「──私たちの『勝ち』ですわ」


 矢を放った主──虎視眈々と鍵を打ち抜く機会を狙っていた雅がさらりと髪を流すと、烈の頭の直前で止まっていた水の刀が、水蒸気となって空気に融けた。


「…………っ、」


 雅は烈に手に持っていた弓を預けると、己のエモノへと足を向ける。

 彼女が近付くと、火の矢──正確には水を通り抜けたせいで火が消えており、普通の矢と何ら遜色が無くなっている──が消滅し、それが捕らえていた銀の鍵は下に手を出していた雅の手のひらの中に落ちた。


 歓喜に満ちた表情を浮かべて祥の方を見ると、彼女は心底悔しそうな顔をしていた。


「しょ……しょーがないわね、アンタたちの勝ちで良いわよ!

 べっ、別に、アタシが弱いワケじゃないわ! アンタたち一年生のために、いーい感じに手加減してあげてたんだからねっ!!」

「うふふ、手加減していただき有り難う御座います」

「んむ〜〜っ……!!」


 さらっと雅が受け流すと、祥はまたむっとした表情をしたが、すぐに平静を取り戻し「ま、どーせ負けてあげなきゃいけなかったんだし!」と腕を組んでみせた。


「……それじゃ、鍵獲得(だいいち)の試練、突破だから。さっさと部室探しなさいよ」

「そうですわね……さて、何処を見ましょうか」


 鍵を見ると、小さく『久世雅』と掘られているのを発見する。部員にひとつ、鍵を持たされているのだろうか。

 ……鍵に何かしらヒントのようなものが入っていることを期待した雅には、少し肩透かしな結果である。


「…………あ。これ教えていいって言われたから教えるけど、部室があるのは一階よ」

「あら、そうなのですね。それでは一階まで参りますわよ、烈」

「承知致しました」


 雅と、雅の左斜め後ろに控えて歩く烈の近くに、祥も付き添って移動を始める。彼女も部室に向かうのか、「仲間になりたいとかそういう意味じゃないから」と見栄を張っていた。



 ……それから、すぐ。


「……あら?」

「…………あ」


 階段を降りて三階に踏み入れると、すぐそこに密香と累の姿があった。


「密香さん! 意外とすぐに合流できましたわね!」

「あー、うん。その……別れちゃってごめんなさい」

「いえいえ、お気になさらず!

 それより、密香さんの方の進捗はいかがです? 私は、こうですわ!」


 雅がそう言いながら鍵を見せると、密香も「一応……」と言って鍵を見せた。


「へぇ、それなら進行度は一緒じゃない。意外とやるのね。

 …………ってあれ、珠は? アンタたち、鍵持っててあの子に会わないなんてことないでしょ」


 雅の近くに一人増えている少女の式神──祥にそう言われ、彼女がなぜここにいるのかを悟る。雅の方も同じような内容のテストを受けていたのだろう。偶然別れたとはいえ、揃って鍵を奪取できたのであれば結果オーライである。


「…………わかんない……」

「え?」


 ……しかし、その珠の行方については、密香にもわかっていない。

 正直にそう答えると、雅が戸惑ったように「わからない……?」と聞き返し、反対に累は「かっかっか!」と愉快そうに笑う。そんな己の式神を一瞬睨みつけると、密香は雅に向き直った。


「……と、とりあえず、あとは部室よね」

「そうですわね。なんでも、一階にあるそうですわ」


 ならばもう少し降りねばと、密香も雅に先導され今度は逸れるようなこともなく、雅たち一行は一階まで階段を降りた。

 この階には食堂や保健室など、教室以外で学校生活に必須の部屋が多く並んでいる。

 昇降口もあってか特殊な構造となってはいる……のだが、密香には特段変わったようなところはないように見えた。元々間違い探しの類も苦手なので、自分の感じる情報は当てにならないが。


「……累、何かわかる?」

「んぁ? 俺答え知ってるからパス」

「あ、そ…………え?」


 何か式神にわかる磁力的なものを期待して声をかけたのだが、想定の斜め上の答えに驚いて思わず累の方を見る。


「この前言ってなかったか? 俺、お前のばーちゃんもだがその更に前のヒメオリにも仕えてたんだぞ。昔っからある五行の高校も陰陽学部も、けっこーな回数来てんだよ」

「はぁ……それなら手っ取り早く答え教えてくれればいいのに」

「あら、カンニングですの? 流石に褒められたことではありませんわね、うふふ」


 雅がそう言いながら冗談めいたように笑ったのを見ると、密香も真面目に部室を探すかと改めて廊下に目を遣った。

 ……とは言っても、普段と本当に何ら変わりない。

 保健室やら家庭科室やらの扉が並んでいて、ガラス張りの中庭の入り口があり、そして階段を降りてきたほぼ右に昇降口がある。本当に、いつもと変わりない光景である。


「……でも」


 こういうイベントをしているくらいなのだから、どこかに矢印が隠されている、みたいなヒントがありそうではある。昨日のぬらりひょんの時だって、桜の花びらから行き先を推察できたのだし、その調子で──



 ────ふわり、と。



 そんな風に前向きに意気込んだ密香の前を、何やら白いものが通り抜けていった。

 何が起こったのかわからずその白いものが通っていった先を見る。

 そこには式神と言われて容易に想像できる──白い紙でできた、小さな人型があった。

 それは密香を挑発するようにくるりと一回転すると、どこかへと飛んでいく。


「あ、待っ──!」


 密香がそれを追いかけて小さく走り出すと、それに気付いた雅が「密香さん!?」と叫んだ。しかし呼び止め虚しく、密香はその人型の行く方を追う。

 その様子を見た雅も人型に気付いたのか、後ろから密香を追いかけ──すると風に舞うようにふわりふわりと飛翔を続けていた人型が、ふとひとつの教室の──教材室の前で、ぴたりと動きを止めた。

 そして次の動きに移ることはなく、役目を終えたとでもいうように、人型はひらひらと床に落ちてしまう。


「もしかして、私を案内して……?」


 密香はそれを拾い上げる。

 変哲のない紙の人型ではあるが、指を触れると若干ピリピリした感覚に襲われた。

 何のことやらと首を傾けていると、雅が駆け足でやってきた。


「……雅! これって──」

「オーソドックスな紙人形ですわね。意思があるようには見受けられませんでしたし、遠隔操作でもされていたものでしょうか。であれば、陰陽師の関わりがあることは間違いないかと」


 後から様子を見に来た式神三人にも紙人形を見せると、雅と同じような見解を示した。……つまり、


「……ここが部室、なのかな」


 その仮定に間違いがなければ、先程獲得した──否、奪取してしまった鍵を使えば、教材室は開くということなのだろうか。

 ……密香は雅と一瞬顔を合わせてお互い頷き合うと、さっそく教材室に鍵を差し込──


 ──めなかった。


「あれ……?」

「密香さん、私にも挑戦させてくださいまし」


 代わって雅も己の鍵を差し込もうとするのだが、鍵の形が合わないのか、一向に差し込めそうな気配はない。


「どういうことでしょう……先程の紙人形はミスリードだったのでしょうか」

「んな難しい話じゃねーよ。どいてろ」

「……累?」


 雅が頭を悩ませようとすると、徐に累が扉に近づく。

 そして、扉に手をかけ、思い切り右に腕を引いた。


 すると、ガラガラ──と扉が


「開いた……」


 先に開くか確認するべきだったらしい。

 累は呆れたように「あとはヒメさんたちで頑張れよ」と、そっぽを向いてしまう。

 それを一瞥し、密香と雅は教材室に足を踏み入れた。




 ……しかし、ここが部室かと言われると、そうでもなさそうだった。

 教材室という名の通り、その教室にはそこそこ整頓された状態で教材が置かれていた。入学してまだあまり経たない今でも何度か目にした、授業用の大きなテレビが二台あるのにまず目が引かれる。

 壁に目を向ければ教科書の入れられた本棚や、測りが大量に置かれている棚……入口周りのものは比較的綺麗なのだが、奥の方に積まれた黒板用の大きな定規なんかは、使われていないのかかなり埃をかぶってしまっていた。


「……祥。ここは通過点(チェックポイント)ということでよろしくて?」

「そうね、その通りよ。あとはここからどうするか、ってとこね」

「ふむ……まだ続きがあるのですね」


 雅が奥の方を見に行ったのを見て、密香も適当に辺りを見てみる。雅は烈にも探させているようだが、肝心の密香の式神(かさね)は「答えを知っているから」ということでサボりをかましていた。

 雅に任せっぱなしも悪いし、どこかへやられてしまった珠にも申し訳が立たないので、何かしら収穫を見付けようと奮起することにする。


 とりあえずこの部屋に何があるのかすらわからないが……更なる部室の場所の手がかりとなる地図(・・)のようなものが置いてあるとか、いっそこの部屋にはなにか仕掛け(・・・)があり、それを動かすと何か変化する……みたいなものは思い付くが、どうだろう。


 まず「本棚の本に仕掛けがあるのはありがちでは」と思い、教科書の棚に何か気になる本はないかと調べてみるが、特に変わった様子は見らなかった。わかりやすく魔導書めいたものでもあればわかりやすいのだが……本棚の一角には教科書に図鑑、文庫本、更には高校には似つかわしくない分厚い参考書なんかが紛れていたりして、なんだか面白い本棚である。


 ……いや、文庫本(・・・)

 これが教材用の本棚ならば、娯楽である文庫本は分けて別の棚に置くか、図書室にでも持っていくのではないだろうか。──しかしよく見ると、本の背表紙には五行高校図書室と書かれたバーコードが貼られているようで、図書室で借りた本をそのまま持ち込んでいるのだろうと推測できた。


 それなら、ここを生徒──陰陽学部の部員が使っている可能性が考えられる。だとすると、先程考えていた二つの可能性のうち、後者の仕掛けを動かしたら何か起こるというパターンが近いのかもしれない。


 他に気になるものはないかと目を動かすと、本棚の影になっていた場所に、ある男性アイドルのポスターが貼られているのを見つけた。……何故ここに、こんなモノが?

 教材室なのだし、流石にこういうポスターは場違いすぎないか。

 縦長の長方形で、それなりの大きさがあるポスター。上の隅二つにしか画鋲が刺されていないが、これじゃ剥がれ…………


「────あっ」


「密香さん、どうかされましたか?」


 雅が声に気付いて密香の方へ歩んでくる。それを見ると密香は、雅へポスターの下に隠されていたものを指差して見せた。


「──鍵穴」


 ポスターを捲ると、そこにはシリンダー錠だとか呼ばれるであろう、鍵の入りそうな穴の空いた、少し錆びた銀の円が見つけられた。


「……! と、いうことは──」

「鍵、使ってみよう」

「えぇ。私がやりますわ」


 雅が鍵穴に自分の持っていた鍵をそっと差し込むと、今度はぴったりと鍵が挿せる。

 右に回せばかちゃりという音がした、が──なにか扉が開いたような様子も、


 ──ぎぎぎぎ、ぎ


 …………なかったかと思ったのだが、少しの間を置いてから、ポスターの右側の壁がさながら自動ドアのように開く。隠し扉──ということか。

 壁の動きが止まると、そこには金色のドアノブが着いた木の扉があった。


「これが……部室への…………」


 謎を解いた達成感のままにそう呟いてみれば、「そうでしょ、うね……」と雅も驚きを隠さぬ表情で言葉をこぼす。


 ──はじめはどうなることかと思ったが、思ったよりどうにかなったものだ。

 雅に促され、密香はドアノブを握る。

 少し重さのあるそれをひねり、がちゃんと音がすればそれを静かに押し──扉を開く。


 ────ぱぁん!


 ……次の瞬間、密香と雅をクラッカーの破裂音が迎えた。


「密香さま!」

「久世さま! せー、のっ」


「「試練達成(みっしょんくりあ)、おめでとうございまーすっ!!!」」


 クラッカーを鳴らした宙と空が、かわいらしく密香と雅を歓迎する。

 その後ろから、ぱちぱちとささやかな拍手が聞こえてくる。二人は拍手の方に目を移した。


「無事に辿り着けたね、おめでとう!」

「お二人が、噂の新入部員か〜! 祥に勝てるなら期待のルーキーだね、おめでとう」


 右には八重野がおり、その隣に長身で眼鏡を装備した男子生徒が。


「よう、久しぶりだな! 待ってたぜ!」


 左には昨日出会って、稲葉(・・)と名乗っていた青年がいる。声をかけられたのは偶然ではなかったようだ。


「あ、あの……おめでとうっ。怪我とかなくて、良かった……」

「そうね。祥も珠も、ご苦労さま」

「マジあんな手喰らうとは思ってなかったっすよ。何はともあれ、万々歳っすね!」


 その青年の隣には、雅と背丈があまり変わらないような女子生徒。

 生徒たちの後ろには彼らの式神と思われる人影があり、その中には先程どこかへやられたと思った珠も居た。


 ──そして。


「アハハ! 遅かったねぇ、二人とも〜?」


 ……雅が一応回収していた紙人形がむくりと起き上がり、その声の方へまっすぐに飛んでいく。

 紙人形の向かっていった先には、密香と雅にも馴染みのある顔があった。


「──ようこそ、陰陽学部へ。顧問(・・)として歓迎しよう」


 密香たち一年二組の担任()、陰陽学部顧問の教師────式守新(・・・)は、にやりと愉しそうな笑みを浮かべたのだった。

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