80話 セぺトと閻魔女王
俺は廃墟の街アーリマンと、それを逸れる回り道への、Y通りになっている場所で、
『 HELP ME !! 廃墟の街アーリマンを通りたい!! 』
と、書き上げて作ったプラカードを足元に置き、
バベルの塔を目指しているという『イブ』『モリガン』『閻魔女王』を地べたに座って待つ。
乗って来たアルトは燃料切れでもう走れない。
向こうからトラックが見えた。
立ち上がり、プラカードを上下に揺らす。
凄い速さで運転していた黒のショートヘアの女はチラッとプラカードを見たが…回り道の方へ、走っていく。
「まあ…先頭の車は無理か」
また座り待つ。
他にすることもない…
タバコに火を付けた。
10分後…
向こうから、これまた凄い速さでバス近づいて来た。 二台?
またプラカードを掲げ、上下に揺らすが…
先頭のバスを運転していた剣道面、回り道へ行く、後ろのバスもそれに続く。
「二台に分けて兵隊が乗ってたな…今のがイブのバスか?」
またタバコに火を付ける。
10分後…
黒のミニバンが見えた…
これも凄い速さで近づいて来る…
次が閻魔女王か?
これが最後だ…
俺は今まで一番激しくプラカードを揺らす!
しかし…
残酷にも…
いや、少し予感もしてたが、
車の中の白装束の女二人は、俺から目を逸らすように回り道へ行ってしまった…
終わった…
凄い速さで通り過ぎた車は…間違いなく『イブ』と『モリガン』と『閻魔女王』。
その誰かの力を頼り、大都市カーリーを救うという希望は途絶えた…
ティアマトの町に戻る燃料も無い…
俺は眼鏡を外し、両手で顔をゴシゴシして、
「しかたない…もう死ぬか…最期はカーリーの街で死のう…」
眼鏡を再びつけて、歩いてカーリーの街へ、行こうとした時…
エンジン音が聞こえる…?
振り返る…
白いパジェロが近づいて来る。
「まだなんかいた?」
4度目のプラカードを掲げ!
今までで一番! 力強く揺らす!
思いを届けるために!!
「たのむ―――!! 俺を!! カーリーに連れて行ってくれ!!」
思いが伝わったのか…
パジェロは速度を弛め… 少し遠くで停めてくれた。
運転している金髪のベリーショートの女がジ―――っと俺を吟味するように見ている。
俺は女を警戒させない様に、ゆっくりとパジェロに近づく。
しかし…
女は… 俺の顔や体型を気に入らなかったのか?
プラカードを見てか?
凄くイヤな顏をした後に、
凄い速さで去っていく…
そりゃそうか…
俺の風貌では…
乗せたくないよな…
こんな俺を、一回り下の妻は大好きと言ってくれた…
こんな俺を、カーリーの守り神と思ってくれた…
結婚もしてくれた…
たとえ… 色々あったとしても…
「くっくっくそおう……」
泣きじゃくる…
一時間経った…
少し、まだ誰かが通るのではないかと甘い期待もあって待っていたが…
もうたぶん…
求めているモノは来ないだろう…
今度こそ、死ぬためにカーリーに行こう…
最後の最後3分だけ待って…
最後のタバコの一本に火をつけ…
ボ~っと、吸い終わり、
3分が過ぎる…
その時…
黒い車が凄い速さで近づいてきた。
「これがラストチャンスか…」
新たに少し書き足していた、プラカードを掲げる。
『 HELP ME !! 廃墟の街アーリマンを通りたい!! ショートカットできる 1時間15分前に通ったイブより先にバベルの塔にいける 』
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極寒地獄を通るためのチェーンの取り付けで、とてつもなく時間を喰ったワタシ達のSMXは全速力で飛ばす。
前に標識が、
⇦『永久立ち入り禁止区域アーリマン』 『アーリマン迂回安全経路』⇨
その下に…
なにあれ?
図体がデカい、ハゲた眼鏡のなかなかブサイオッサンがプラカードを掲げている…
何を書かれているか、気になったから、速度を弛める…
ん?
『 HELP ME !! 廃墟の街アーリマンを通りたい!! ショートカットできる 1時間15分前に通ったイブより先にバベルの塔にいける 』
マジか?
ワタシはよく見ると、眼鏡が割れている作業着のプラカードオッサンを見ながら、セントに、
「アーリマンを通ればバベルの塔に近づく?」
「最短ルート☆ でもダメ☆ アーリマンだけはダメ☆」
「そんなにヤバいの?」
「入れば2度と出て来れない☆ 死の地と呼ばれている☆」
「ならなぜ…あのオッサンは『HELP ME !! 廃墟の街アーリマンを通りたい』と書いている?」
「しらない☆ でも絶対に止めた方がいい☆ 確認されては無いけどアーリマンはとても邪悪な存在☆」
ワタシは割れた眼鏡の目で、ジッとワタシを見ながらプラカードを掲げているオッサンを見ながら、
「ちょっと聞いて来るわ…」
「ユキノ様☆ やめてって☆」
セント無視して、車を降りる…
ゆっくり歩み、プラカードを掲げままのオッサンの前に、
「ワタシは閻魔女王ユキノ」
「あんたが閻魔女王? 俺はセぺト」
ワタシはもう一度、プラカードの文字を見た後に、背の高いセぺトを見上げ、
「セぺト… 一つだけ聞きたい事があるの」
「なんだ?」
「なぜ…割れた眼鏡をつけているの?」
「3年前の異変の時、妻と子を残し、街から脱出した時に割れた眼鏡だ…俺にとって時間はカーリーの3年前の異変から止まっているからコノ眼鏡をずっとつけている…それと、異変の起きた時から、毎日…悪夢にうなされている…」
「悪夢?」
「ああ…街が狂ったサイレンの音と、俺を呼ぶアーリマンの声が」
「ユメにアーリマンの声?」
初めて、セぺトはプラカードを下ろして、デジタルの腕時計を見て、
「2時間後の、14時に…俺が廃墟の街アーリマンの中央にある鉄塔のサイレンを鳴らせば、街は元のカーリーに戻る…そうなれば通過が可能だ…」
セぺトの顔を見上げる…
顔がどうこうじゃなく…
彼の言っている事と…
そのジッとワタシを見つめてくる目に、なにか一抹の不安を感じるけど…
イブより先に、バベルの塔に入るには…
「SMXの後ろに乗ってセぺト、ワタシがあんたの言う、鉄塔まで連れて行く」
セぺトは大きく安堵の息を吐いた後に、
「こんな俺を信じてくれて、ありがとう閻魔女王… 最後に一つだけ約束して欲しいことがある」
「なに?」
「カーリーの街では誰一人殺さないで欲しい約束してくれ。 俺はぜったいに誰も殺させない」
セぺトの割れた眼鏡の向こうの目を見つめ…
「分かった…カーリーの街の人間は誰も殺さない」




