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05話.[望んでいるのだ]

「瑞ー来てやったぞー」

「またこの人なの……」

「し、失礼な反応だなキミ」


 この人――六堂先輩の目的である東雲は呑気に読書中。

 ある意味図書委員として正しいが、今はただただ空気を読んでほしいと思う。


「おーい瑞ー」

「ふむふむ、大事な女の子にあげるなら向日葵かなあ」

「きゃー! 大事って僕のことがそんなに大事なのっ?」

「あ、でも感謝を伝えるためにカスミソウをあげるのもいいのかあ」

「今すぐカモン!」


 こいつらうざ。

 なんのためにここにいるんだか。

 片方は図書委員だから真面目にやってほしい。

 もう片方の面倒くさい人は帰ってほしい。


「あ、六堂先輩いたんだ」

「さっきからいたよ!」

「こんにちは。で、今日はなんの用?」

「今日もご飯作りに来てよっ、両親が帰ってこないから泊まってもいいよ?」

「ふむ、泊まるのはいいかな。ご飯は作るけどさ」


 こいつらの関係ってよく分からない。

 どうしてご飯を作るのが自然、みたいな流れになっているの?

 それに先輩しかいないと分かっているのに行くこいつもこいつだ。

 

「よしっ、それなら今から行こう!」

「いや、悪いけどそれはできないよ。図書委員の仕事があるし、何より僕には谷口さんを家まで送るって仕事の方が優先だからね」


 これってもしかしてあたしがこはくや大輝達に嫌われないようにしてくれているのか? 前だって約束を守っているとかなんとかこはくに言っていたし。

 でも、むかつく、余計なお世話、どうせこいつは誰にだってあんなことを言ったり、いまみたいに優先だ~とか言って気に入られようとしているだけなんだ。

 あたしは他の女や人間とは違う、そんなことでは絆されない。


「ふぅん、瑞は百花のことが大切なんだ」

「そうだよ」


 なっ!? どうしてこいつ臆面もなく!!


「だってさ百花」

「なんであんたが名前を呼び捨てにしてんのよ!」


 呼び捨てで呼んでいいのはあたしが認めた人間だけだ。

 両親、こはく、大輝達のみ、それ以外は一切認めない。

 ちなみに先程驚いたのはこれについてだ、東雲の言うことは端から信じていないためこちらに響くことは1ミリたりともなかった。


「え? だって僕は先輩だし」

「次にしたらぶっ殺すわよ」

「ふぅん、本当に殺せるの? ほらシャーペンがここにあるからさ、ぶすりといってみてよ」

「話聞いてた? 次にしたらって言ったじゃない」

「百花。ほら殺してよ」


 手渡されたシャーペンを受け取り目の前の女に突き刺す――ことはできなかった。

 常識的な意味でも、物理的な意味でも。


「駄目だよそんなの、谷口さんに人殺しになんてなってほしくないからさ」


 手ごと握られており草食野郎にしては力が強く動かせない。

 それを見た先輩が「こら瑞っ、邪魔をするんじゃない!」が怒った。


「いい加減にしないと怒るよ六堂先輩。谷口さんに迷惑をかけたら友達ももう終わりにする。いや、終わりでいい、と言うべきかな」

「ちぇ、なんだいなんだいっ、瑞の馬鹿野郎っ。大体、僕がいなかったらずっと友達0だったくせに!」

「今は谷口さんがなってくれているから大丈夫だよ」


 それもあくまで罰ゲームがあったからだ。

 もしそれがなければ友達になんてなっていない。

 こいつと連絡先を交換したのも大輝がうるさいからだった。


「馬鹿っ、もう来なくていいから!」

「拗ねないでよ、谷口さんに迷惑をかけなければ友達ではいたいんだからさ」

「……ん、仕方ないからもうやめる。いいからご飯作ってよ?」

「うん、後で行くよ。気をつけてね」

「うん!」


 どうあってもご飯を作るのは確定らしい。

 なんだこいつら、惚気ているだけという可能性もあるのか?

 兎にも角にも先輩は出ていき、図書室にはあたし達だけが残された。


「ふぅ、ごめんね」

「は? 申し訳ないって思ってないくせに形だけの謝罪なんてすんなよ」


 本当に心の底から謝りたい時に伝わらなくなるぞ。

 そうでなくてもあたしの中でこいつは最低ラインなんだから。


「厳しいなあ、本当に申し訳ないって思ってたんだけど」

「うっさい」


 大輝達だってたまに気持ちがこもってなくて信じられなくなる時があるんだ、こいつのことなんてもっと信じられないのは当然のことで。


「まあいいや、そろそろ帰ろうか」

「別で帰るから先輩のところに行けよ」

「そんなに嫌われることしちゃったかなあ……。はぁ、まあ無理やりなんて良くないしそういうことならひとりで帰るよ……」


 代わりにあたしが鍵を返して昇降口へと向かう。


「やあ」

「なんですか?」


 そこにいたのはあたしに告白してきた男だった。




 僕はひとりとぼとぼと帰っていた。


「あんな冷たい態度をとらなくてもいいと思うけどな」


 この前なんてエプロンだってくれたんだぞ?

 今日なんかは「余計なお世話」とか言いながらもお弁当を食べてくれたりしたし、それなりに関係が進展しているものだと思っていたのだが勘違いしていただけだったらしい。

 ま、別に谷口さんに拘らなくても大谷さんや六堂先輩もいる。

 けれどあれだ、僕の本能が彼女を望んでいるのだ。

 仲良くなるのが簡単な子が多いわけではない、でも、彼女みたいな子だからこそ仲良くなってみせたい。

 見栄や下心が外ににじみ出ていてバレているという形なのだろうか?


「あれ、谷口さ――」


 知らない男の人と僕の横を通り過ぎていった。

 伊澤くん達ならまだマシだったんだけどな、なんかショックだな……。


「百花行っちゃったね」

「あれ、大谷さん」

「こんにちは」


 谷口さんと仲のいい大谷さんなら知っているだろうと思って聞いてみたら、どうやら谷口さんに告白をした人らしかった。


「まだ付き合ってるの?」

「ううん、百花は即断ったからね」

「そっか」


 うーん、やっぱりモテるんだなあ、だけどどうして断ったんだろう。

 ぱっと見た感じではイケメンさんだし、雰囲気は格好いいしでお似合いだと思うんだけど。


「ちゃんと見てあげてね百花のこと」

「でも僕は好かれてないからなあ」

「そうかな? そんなことないと思うけど」

「いや、そんなことあるんだよこれが」


 今さっきだって冷たく対応されたばかりだ、流石に馬鹿ポジティブの自分とはいえ、嫌われているなこれと判断くらいする。


「というかさ、大谷さんが谷口さんのことを好きでいるでしょ?」

「え? うん、確かに好きだけど」

「いや、特別な意味で」

「えぇ!? そんなことないけどっ?」


 一段と上がる声量、この時点で「そうだ」と言っているようなものなんだけどね。

 そういうところが可愛いとも言えるし、言い方は悪くなるけど対応が下手くそとも言える。


「まあ親しくない僕には言いにくいよね、隠したくなる気持ちも分かるよ」

「ち、違うって、本当にそういう意味で好きなわけじゃないってば!」


 うーん、だけどここまで必死だとなんか谷口さんが可哀相。

 でもいいか! 僕が好きでいればいいんだからね!


「気になるなあ……」

「だから違う――って、百花のこと?」

「うん、話しかけても無視して行っちゃったからね」


 しかもあのふたりは一緒にいたくせに会話というのをしていなかった、ついでに言えば彼女はこちらを1回見てから歩いて行ったのだ。

「あたしには彼氏がいるのよ、あんたなんか近づいて来るもんじゃないわ」というアピールにしては無表情だったし気になる。


「もしかして付きまとわれてる?」

「うん、諦められないとかって言ってたかな」

「あのさ、僕が現彼氏のフリをしたら来なくなるかな?」

「えっ!?」


 うん、驚きたくなる気持ちは分かるんだ、だって今まで1度も彼女がいてくれたことなんてなかったから。

 おまけに谷口さんが認めてくれるわけがないと考えている自分もいるわけだし。


「でもそのままにしてたら怖い思いをする可能性もあるし、知ってしまったからには放っておけないよ」

「百花の性格的にも受け入れないと思うけど……」

「そこなんだよね問題は……」


 仲良くないというだけなら問題ないが僕は実際嫌われている。

 そんな人間が「彼氏のフリをしてあげるよ、それで回避しよう」なんて言ったところで届かないで終わるのが普通の流れ。

 それどころか「は? なに自惚れてんだ勘違い野郎」とか言われて余計に嫌われて修復すらできなくなるのが関の山だ。


「それにさ、東雲くんが頑張る必要あるの? そこは大輝くんか湊くんがなれば良くない?」

「あ、そっちの方が効果あるか。なんたってイケメンくん達だもんね」

「顔の問題っていうか対応力の良さというかさ」

「あ、はい、対応力がなくてすみません……」


 明日伊澤くんに頼んでみよう。

 結局お礼を言い損ねてしまったのもあるし、謝罪がてら小日向くんに頼んでみるという選択肢も存在している。


「そもそも東雲くんは本当の意味で百花の友達ですらないじゃん」

「うぅ、もういいよ、分かっているからさ」

「分相応に生きなよ、私はあなたが百花に近づくのを認めてないんだから」


 彼女は冷たい視線で僕を貫いてから歩いていったが、それまで1度もこっちを見ていなかったのは常のことなので気にしない。

 というか「ちゃんと見てあげてね」と言っておきながらこの変わりようはなんだろうか。


「怖いなぁ。まあいい、伊澤くん達に頼もう」


 本人にバレないところでやれば怒られることもないだろう。

 そしていつも一緒にいる彼らなら引き受けてくれるはずだ。

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