感謝される2人
盗賊を倒し終え、女を全員を救出したアスタとフレア。
意識を取り戻した女達の回復をアスタが行って町に戻る。
道すがら女達から何度も感謝を受ける2人、その言葉に軽く頷くだけで何も言わないまま重い足を引き摺る様に町に戻った。
ギルドに報告を済ませ、女達は一旦ギルドに預ける。
アスタ達は町の墓地に転移させた盗賊の遺体をギルド職員と確認をする。
依頼されていた盗賊がどうか確認する為に。
「確かに依頼した漆黒の飢狼の連中です。
メンバー全員の遺体を確認しました」
顔を確認したギルド職員がギルド長に報告する。
「ご苦労」
ギルド長は素っ気なく職員に返事をするが顔は紅潮し明らかに興奮していた。
漆黒の飢狼は近隣の町を襲い、金品だけで無く女を拐い、奴隷に売り飛ばしたり乱暴の末に殺す等、極悪非道の盗賊として名を知られていた。
王国も兵を送り討伐に乗り出したが魔王討伐を2年前に済ませ疲弊した状態だった為なかなか討伐が進まず、盗賊団はメンバーを増やしていたのだ。
今回の討伐依頼も娘達を拐われた町の親達が出した依頼だった。
しかし凶悪な盗賊の討伐に手を挙げる冒険者はおらず半ば諦めていた所だったので喜びはひとしおだった。
「礼には及ばん」
「ええ、ただ依頼を果たしただけ」
ギルドに戻ったアスタとフレアは素っ気なく返事をする。
「いやしかし、あの漆黒の飢狼をたった2人で」
「そうです、しかも拐われた女の子達を無傷で奪還するとは」
ギルド職員達は尚も称賛の言葉を続ける。
「ありがとうございます。
娘が拐われた時は殺されるか酷い目にあう事を覚悟してました。
まさか無傷で帰ってくるなんて...」
助け出された1人の女の子の父親らしき男性が涙を流し頭を下げる。
「私の娘もです、まさか無事で...」
「私の娘もです」
次々と頭を下げる家族達、女達は既に他の家族に連れられ自宅に帰っていた。
「みんな気を失ってたので余り覚えてないみたいです、でも間に合って良かったですね」
アスタが複雑な顔で笑いながら答える。
隣でフレアも複雑な表情をしていた。
「それではこれで」
報酬を受け取り、そそくさと2人はギルドを出た。
「今回も空振りか...」
暫く歩き、周りに誰も居なくなった広場でアスタが呟く。
その瞳は先程までの優しい物では無い、暗く沈んだ空虚な目をしていた。
「仕方無い。今回は女の子を助けられただけで善しとしよう」
「助けた?何が良かったよ!
本当は乱暴された後よ?私の治癒魔術で身体を元に戻しただけじゃない!」
フレアの言葉にアスタが噛みついた。
「アスタ」
明らかに様子のおかしいアスタにフレアが舌打ちをする。
「また無駄な人助けしただけじゃない!
一体いつになったら見つかるの?
これじゃいつまでたってもアルクは...アルクは
...」
アスタはガックリと崩れ落ちる。
涙が止めどなく流れた。
「一旦故郷に帰ろう。
そろそろアルクの[凍結]が切れる頃だ」
フレアがアスタに呟く。
「帰る?また『駄目でした』ってアルクの親に言うの?フレアは良いよね、アルクの親に恨まれてないから!」
「姉さん!!」
フレアが叫ぶ、その言葉にアスタが固まった。
「ご、ごめんなさい」
「帰ろう、あなたの薬も切れるし。お父さんに用意して貰わなくては...」
「分かった」
塞ぎ込むアスタの肩をフレアは優しく抱きながら、宿に帰る。
翌朝2人は故郷の町に向けて旅立つのだった。