戦う2人
「た、助けて下さい!」
洞窟から1人の少女が男達に両腕を掴まれ、引き摺られながら出てきた。
泣き叫ぶ少女を見る男達、その目は血走り、餓えた野獣の様にギラついている。
「なーに、すぐ終わるさ」
「でも俺達6人だから最低6回は相手して貰わねえとな」
「馬鹿、俺は3回だ!」
絶望する少女を楽しむ様に男達の会話が続いた。
「なんだお前初めてか?」
男の言葉に少女が頷く、これは逆効果を生んだ。
「我慢出来ねえ!」
「一気にやっちまえ!!」
欲望を爆発させた男達が一斉に襲い掛かった。
「―――――!!」
突然少女の体が固まる、気絶では無い。
文字通り固まったのだ。
「お、おい...」
異変に気づいた男が少女の肩を掴む、しかし少女は全く動く様子が無い。
「し、死んじまったのか?」
もう1人の男が覗きこみ、隣の男に尋ねた。
「わ!」
男が叫んだ、隣にいた男の首から上が無かったのだ。
「誰だ!」
残った5人の男達が辺りを探すと、1人の目付きの鋭い、紅い髪の女が姿を現した。
「お前が殺ったのか?」
男の問いに女は無言で頷いた。
「ふざけやがって!」
一斉に斬りかかる男達、女は黙ったまま前に足を踏み出す。
全く怯む事無く、自然に。
勝負は一瞬だった。
気づけば全ての男達が死んでいた。
頭を切り取られて...
「馬鹿な...」
その光景を岩影から見ていた男が呟く。
男は見張り出ており難を逃れた、そう思っていた。
「おい」
女が男の方に顔を向けた。
「隠れてないで出てこい。覗き野郎が...」
侮蔑の言葉に男は激昂する。
異変に気づき戻って来た男に覗きの趣味は無い。
そして殺された男達より腕が立つ。
抜き身の剣を構えた男が叫ぶ。
「[縮地!]」
縮地のスキルは移動距離を一定間隔縮める事が出来る。
一瞬で男は女の背後に立つ。
(貰った!)
心で叫びながら剣を女の背中に突き立てた。
「な...」
男は我が目を疑う。
『手応えはあった』
男の剣は女の背中を貫き、剣先は胸から飛び出していたのだから。
「スキル持ちか、痛かったぞ」
女は何事も無かった様に振り返る。
「ヒッ!」
男は叫びながら剣を引き抜く、その刀身には女の血と脂がこびりついていた。
「お、お前アンデッドか?」
男の問いに女は無言で首を振る。
「糞!!」
男は固まる少女を盾にした。
女は躊躇う事無く剣を振り抜く、盾にされた少女に構わず。
「ば、馬鹿な、俺だけ..な、何かのスキルか?何も聞こえ..なかったぞ...」
無傷で立つ女の子の後ろ姿と血を吹き出す自分の下半身を見ながら男は事切れる。
「わざわざ攻撃前にスキルを叫ぶ馬鹿がいるか?」
確かにスキルを言う必要は無い、しかし効果を高めるには口にするのが一般的だった。
彼女のスキルの熟練度の高さが分かる。
冷たい瞳のまま女は剣を仕舞う。
胸の血は止まり傷は塞がっていた。
「そっちは終わったか?」
洞窟に向かい女は問い掛ける。
すると女の声が返ってきた。
「終わったよ、そっちは?」
「片付けた」
「それじゃ後片付けしないとね」
銀髪の女が外に出る。
「あらら、派手にやっわね」
散乱した数体の死体と血の臭いに銀髪の女が眉をひそめた。
「私はお前の様に手際よく人は殺せん、さっさと片付けてくれ」
「ハイハイ」
女の言葉を気にする素振りも無く杖をかざす、次々と死体は跡形も無く消え失せて行く、転移魔法だ。
生きた物や人は運べないが死体なら問題は無い。
しかし沢山の死体を次々転移させるには膨大な魔力が必要だ。
難なくこなす銀髪の女、彼女も並外れた実力を感じさせた。
「うん?」
女が何かに気づく。
「フレア、この子は?」
「盾にされた。恐らく拐われた子の中の1人だろう」
「[凍結]させたのね?」
女の子をスキルで固めてある事を確認した。
「変に動かれたら邪魔だからな」
「そうね、そう言う事にしときましょ」
「...何が言いたい?」
「別に」
フレアと呼ばれた赤髪の女が凄む、しかし特に気にする事無く銀髪の女は微笑んだ。
「それで見つかったか?」
フレアが諦めた様に銀髪の女に尋ねた。
「いいえ、ここの奥は行き止まりだったわ。
他にアジトが?」
「いや、ここが最後だ」
銀髪の女の言葉をフレアが否定する。
「隠し部屋が?」
「間違いない、行くぞ」
フレアは銀髪の女が出て来た洞窟に入り、岩の壁をゆっくり見渡しなから歩く。
「...ここだな」
「分かったわ」
立ち止まったフレアがある岩壁を指差す、銀髪の女がそこに向け杖を振った。
たちまち岩壁が消え失せ、新しい洞穴が現れる。
「む?」
「ふーん」
奥に行くと大きな部屋が見えて来る。
2人は顔をしかめながら呟いた。
「なんだぁ、みんな殺られちまったのか?」
1人の大男が入って来た2人の女を見て呟く。
裸の女に覆い被さり、上半身だけ服を纏い下半身は剥き出しの姿。
「中々の上玉じゃねえか、外の奴を最後に回すとして俺の体が持つかな?」
ゲスな笑みを浮かべ、覆い被さられていた女を投げ捨てる。
女の意識が無いのか、そのまま力無く床を転がった。
その奥には更に4人の女が裸にされ、気を失って居た。
「これで全部か?」
「ええ、外の1人と中の5人。依頼通りね、大丈夫みんな全員生きてるわ」
男の言葉を無視しながら会話する2人。
「無視するな!」
男が叫ぶ。
その声に気を失っている女達がビクリと震える、同時に銀髪の女が呟く。
「守護」
女の周りに結界が張られ男の咆哮は跳ね返される。
「気絶スキルか」
「くだらないスキルね」
「な、何で...効かねえんだ?」
「さあな」
「死ねば正解が見つかるかもしれませんよ」
歩みよる2人に後ずさる男、丸腰の男に勝ち目は無い。
たちまち壁際に追い詰められる。
「クソ!」
男がフレアに殴り掛かった。
「あれ?」
男の拳は当たる事無くバランスを崩しひっくり返った。
「もう殴るどころか手も叩けんな」
「え?」
フレアの言葉に男が自分の手を見ると手首から先が無くなっていた。
しかし手首の切断面から血が吹き出すどころか痛みすら感じない男だった。
「な?な?」
「今まで手を汚して来たんだろ、無い方が良くないか?」
切り取られた男の手をフレアが踏みつける。
「お、俺の手を返せ!」
フレアに突進を掛けようとした男、次の瞬間床に転がる。
「もう足も洗えんか」
這いつくばる男の目に太股から切断された自らの両足が見えた。
先程と同じく切断面から血は流れて無い。
「た、助けて...」
手首までしかない腕を交互に着けながら男は銀髪の女にすがり付く。
「2つ聞いて良いかしら?」
「は?」
「まず、女の子達はいつから気を失ってたの?」
「へ?」
銀髪の女は質問を続けた。
「...答えないと殺す」
突然女の雰囲気が変わる、凄まじい殺気に男は...
「あ、ああ!」
恐怖に失禁した次の瞬間男のブツは切り取られる。
流れ出した小水はそこで止まり、切り取られたブツは男の足元に...
「汚い」
刀を振りなからフレアが呟く。
「答えなさい、女の子達はいつから気を失ってるの、襲う前?襲った後?」
「あ、ああ...襲う前です。
最初の女が抵抗するから頭に来て、つい全員にスキルを...」
青白い顔で答える男、全ての女達を乱暴した事を認めていた。
「分かりました、もう1つ質問です。
この質問に満足すれば命を助けて差し上げましょう」
「ほ、本当に?」
男の目に希望が灯る。
「ええ、ね?」
銀髪の女がフレアに尋ねる。
「ああ、約束する」
フレアも頷いた。
「あの女の子の家に有った宝箱を探してるの。
貴方達が一緒に盗んだのは分かってるわ。
こんな形、知らない?」
銀髪の女は1人の女の子を指差した後1枚の紙を見せる。
紙には箱が精巧に描かれていた。
「あ?え?宝箱ですか?」
「そう、宝箱」
「あ、えー...」
男は必死で記憶を辿る、何しろ自分の命が掛かっているのだから。
「あ、思い出しました、ここに有ります!」
「本当に?」
「本当か?」
男は叫びながら自らが助かる事を確信した。
何故なら女達が弾ける笑顔で自分を見ていたからだ。
「ええ、この中です」
男は再び手首だけで移動し、片隅に置かれた皮袋を手首で示した。
「まさか?何も魔力を感じなかったわ」
銀髪の女が男を睨みつける。
「最初からこの中に入ってたんです、本当に!」
男は涙を浮かべ必死で叫んだ。
「待てアスタ、これを見ろ」
思わずフレアは銀髪の女を名前を呼んだ。
フレアは皮袋に刻まれた紋章をアスタに見せる。
「あいつの紋章...」
「ああ」
アスタは皮袋に手を入れる、中から小さな宝箱が姿を現した。
「間違いないわ」
アスタは宝箱を見て頷いた。
「フレア」
アスタはフレアに宝箱を手渡す。
「いくぞ」
「ええ」
フレアが宝箱を開けると中から白い玉が表れ、光り輝いた。
「[解析]」
フレアが呟く。
「どう?」
アスタが尋ねる。
「違う...」
フレアが膝から崩れ落ち、悲しそうに首を振った。
「そんな...」
アスタも同じく崩れ落ちた。
「あいつに襲われた女の記憶だ...」
フレアの目に怒りか滲む、その怒りは先程までの比では無かった。
「あ、あの...」
男が恐る恐る2人に尋ねる、不味い展開が予想された。
「...これ以上は何もしない」
アスタが呟く。
その言葉に男が安堵の溜め息を吐いた次の瞬間、
「解除」
フレアが呟く。
途端に男の手首と太股から血が吹き出した。
「や、約束が違う!!」
男は叫びながら両手首を腹に抱え込み悶絶する。
「何も違わない、満足な答えが得られなかっただけ」
アスタが冷たい目で男を見ながら呟く。
男は血塗れでのたうち回りながら事切れた。