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幕間 とある姫は絶望の果てに断頭台に立つ

幕間です。

 焼けるように赤い夕暮れの丘で少女は絶望する、己の弱さに、民の反逆に、貴族の陰謀に、そして両親である王族に。


 この戦乱の絶えない世界で彼女は小国の美しい姫であった、少女の名をアストレアという。


 彼女に性はもうない地位も名誉も功績も全てが奪い去られて断頭台に立ったのだから。


「魔女がッ!」「お前のせいで…」「この悪魔め」「死ね!死んでしまえッ!」


 アストレアは四方八方から睨みつける眼を受け止めながら思う。


 綺麗なドレスは麻のボロとなり、手入れを欠かさずしていた自慢の黒髪は無残に乱れていた。


 少女は赤い朱い空を虚ろな瞳で見上げ、これまでの事を思い返す。


(私は……間違っていたのかしら……)




 ○○




 アストレアの生まれた国はこの戦乱の時代でいて未だ平和な国であった。


 隣国が戦争を行っているのにも関わらず何故この国だけが平和であるか、それは簡単な話だ。


 この国には旨みがない、陸の最果てで先は海しかなく、かと言って崖に覆われているので漁も出来ない。


 どこかの国を攻める足がかりにも成らず、食料自給率も自国民がようやく食いつなげる程度の弱小国家であり、土地も広くなく、土も肥えてはいない。


 平和な国とは名ばかりの路傍の石のように無価値な国、それが我が国の評価だ。


 それでもそれを改善するために国王は何もしなかった、下手に行動をして失敗すればそれが原因で貴族たちが騒ぎ立てるのだそうだ。


 たったその程度の理由で民が苦しんでいるのを彼女は知ってる。


 しかし彼女は何もできなかった。発言力はそれなりにあるが、それをする為の知識も技術もありはしなかった。


 仮に改善されても次は他国から狙われる。


 狙われてしまえばこのような貧弱な国は一瞬で隷属させられることは想像するに容易だった。


 その様な不確かであてもない仮説ばかりを立てる毎日に嫌気がさしたアストレアの前に悪魔は現れた。




 その悪魔は捻れた角にコウモリを思わせる皮膜の翼を持ち、灰褐色の肌に縦に割れた金色に瞳を持つ不気味なほどに整った顔立ちをしていた。


『お前の願いを三つ叶えよう』


 唐突に現れた悪魔は彼女にそう言うと不気味にも美しい顔をさも優しげに緩めた。


『――その代わりに全てを叶えた時にお前の魂をいただく』


 彼女はこの非常事態においてそれなりに冷静であった、それこそリスクとメリットを天秤に掛けるくらいには思考を保っていた。


 この世界では悪魔は伝承上の存在では無く、実在する脅威だ。


 人の悪意や殺意といった悪感情が集まって出来た存在が悪魔だと言われている。


 その悪魔はたびたび人間の前に現れて契約を持ちかける、その多くは人間の目的を達成するというものだ。


 そこまでならただの願いを叶えてくれる存在なのだが、悪魔は契約の外の事は一切考慮しない。


 例えば暖炉に火を付けるという契約は家を燃やして結果、暖炉に火が付いたというものになる事もある。


 そういうリスクの方が大きい存在、それが悪魔だ。


 しかし彼女は目の前の悪魔と契約することを選ぶ、確かに悪魔は簡単な言葉で契約すると弄ばれて代償だけ取られてしまう存在だ、だが裏を返せばしっかりと穴を無くした契約には誠実な存在でもある。


 そして彼女には勝算があった、悪魔との契約は《三つの願いを叶える》だ。


 この契約は一つの願い毎に個別にこちらが条件をあちらが代償を指定できる、その上三つの願いを叶えなければ契約は完遂されないからだ。


 といことを考えられる程度には彼女の思考は冷静であり、同時にその考えをも織り込んだ悪魔はひっそりと口角を上げていた。




 少女はまず国の土壌を豊かにすることを願った、条件は素材・媒介などにこの国に属する人間を使用しない事、また刹那的ではなく継続できる変化とする事などの最低条件に加え様々な条件を加えて悪魔に願う。


 結果はすんなりと通り、作物のあまり育たなかった農地は近年稀に見る豊作となった。


 これは少女としては予想外であった、少女は代償として木製の家屋や家畜・牧畜などが消費されると予想していたからだ。


 だがこれは良い意味で予想が裏切られただけだと、少女はこの時楽観した事を後悔する事になる。



 ―――悪魔は代償無しには願いを叶えられないのだから



 半年後、少女は食糧事情が有り得ない速度で解消されたのを見て疑問に思いながらも人知を超えた悪魔の力なのだと自身を納得させて次の願いを悪魔に告げた。


 悪魔はただ優しげにその不気味な美貌を和らげるだけだった。


 彼女は楽観していた悪魔に接触していたのが自分だけだと楽観していた。





 彼女の願いで悪魔曰く魔法を超える魔術という術を教えられた、魔術の効果は凄まじいものでその最たるものが回復術だ。


 回復術はその名の通り人体の傷や汚染された水なども正常化させる効果を持っていた。


 従来の魔法は四元素や五行や七曜などの学問を学び習得するものだとされているが、この魔術は悪魔が教えた通りにすれば莫大な魔力を消費し実現してしまう。


 これをこの国に広めれば他国に攻め込まれても対抗できるだろう、そう愚かにも思っていた。


 この時の彼女自身を冷静に客観的に見れば、何処からか不明の技術を王城に篭もりきりの姫がもたらした。


 その効果は絶大であり魔力を多く持つ者は術一つで敵軍を蹂躙するほどの効果を持つ技術がどうして自分に向かないと言えるのだろう。


 この時から加速度的に陰謀は蠢く、彼女の最も愚かだった点はこの国にまだ救いがあると勘違いしていたことに尽きる。




 少女は悪魔から様々な魔術を聞き出し国に広めようと奔走する。


 しかし周りからの反応はあまり良いものではなかった、どこか胡乱な目で彼らは少女を見ていた。


 これは本来ありえない事である、仮にも姫殿下から声を掛けられて、その様な目をする家臣が何処にいるのだろうか、しかし事実としてそれは起こっているのだ。


 少女は得体の知れない焦燥感に駆られて自身の父親…国王へと相談した。


 しかしその結果も同様であった、国王は最初こそ優しげに聞いてくれてはいたが次第に疑うような眼差しへとなっていった。


 少女は逃げるようにその場をあとにすると自室に閉じこもり、何故こうなったかを自問する。


 だがいくら考えても答えは出なかった、その時またしても悪魔がその場に現れる。


 悪魔は言った。


『何故こうなったか聞きたいか?答えは至極簡単だ』


 少女はその言葉に息を飲み、無言で頷いた。


 そして後悔する。


『最初の願いだ、土壌を豊かにしてやった………未来永劫にな。しかしそれをするには色々と条件が厳しくいてな、条件外の物を使わせてもらった。それがお前の功績だ、功績を未来永劫、この先に得るものも死ぬまで全て』


「なッ!?ありえないわ!!、私もこの国に属しているはずでしょう!」


 そう言うと悪魔は優しげな顔を歪ませて邪悪な本性を見せた。


『そう、だから他の奴にお願いしたのさ、お前の記録上の国外追放を……永遠の命をくれてやると言ったら二つ返事だったさ!』


 この国において記録上の国外追放ならそれをした本人しか気づかない、報告がなければ王も気づかない、そしてそんな記録を扱っている人間が役職持ちじゃない訳がない。


 この時点で少女は悪魔に負けていた、最初からこの悪魔の手のひらで転がされていたのだ。


 そして彼女に無慈悲な悪魔は追撃する。


『そして二つ目の願いだ、魔術を与えてやった。そしてその代償はお前の名誉だ、これもこれから死ぬまで全てだ。』


 これで説明がついた周りの胡乱な目は名誉を失ったからだ、名誉を失えば王族といえども不審に見えるのだろう、やる事なす事全てが怪しく見えるのだろう。


 その日から国は大層荒れた、曰くどこから広まったのか魔女を出せと暴動が始まり、貴族たちはこれ幸いと王を責め、そして耐えられなくなったのかそれとも実の娘を気味悪く思ったのか国王は彼女を牢に放り込んだ。


 そして冒頭に戻り、とある姫は絶望の果てに断頭台に立ち、断頭台の露へと消えた。


 彼女の骸は無残にも大罪者を打ち捨てる崖へと頭部諸共投げ捨てられた、一国を救おうと奔走した少女は悪魔を頼り、そして悪魔に騙され弄ばれた。


 彼女の唯一の救いは悪魔にその魂を奪われなかった事だろう。

読んでいただきありがとうございます。

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