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キミのセカイ  作者: 涼夜りん
第五章:少年王編
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第36話:願いは負けない

『ようこそ、中心世界へ』


 あの瞬間から、もう一度はじまった。

 死んだはずのおれの人生が、始まった。


『こんな俺を信じて、未来を託してくれた奴の分も生きなきゃいけねえ……そして俺は敵をぶっ倒す!腑抜けた面してんじゃねえ霄宮寺!』


 同じ境遇でも、ひたむきに頑張る馬鹿、とんでもねえ男前がいた。

 ギーリアス・ランデルト。


『サラマルはもうちょっと人に頼りなよ。一人で背負い込むから背、伸びないんだよ』


 冷静に皆を見守って、こんなおれを、かけがえのない仲間と出会わせてくれた。

 ベルシュ。


『戦うことしか頭にないのなら、せいぜい生きてやれることをやれば良いじゃないか』


 きついことばっか言いやがるヴァンパイア、それでもいざという時は背中を任せることができた。

 カレブ・ウェルザーブ。


 おれは、このセカイで、今度こそ人を守る。そして、皆の仇をうって、自分の罪滅ぼしをしようとした。

幸せになっちゃいけないと言い聞かせながら、それでも、あいつらといる時はちょっと楽しかったんだ。


 あのSSJの部屋で、談話室で、マルスの学生たちと、先生たちと。


 生きていちゃいけねえおれは、戦って死ぬべきだと思っていたのに、

 仲間といると、前向きになれる自分がいた。


『サラマル、ほら見てください!』


 カザネが見せびらかしてきたのは、十字架のような、銀白色の剣のチョーカー。

 よく見るとそれは、おれが授けた騎士の剣だった。


『WSの研究所の人に、新しい武器はいらないからあの剣で戦いたいって言ったら、こうやって改造してくれたんっす。これでいつでも携帯できるし、この剣で戦えるよ!』


 どうしてそんなこと。


『お前からもらったもんだからなっ。どこに行ったって、僕はちゃんとついて行きますよ、王子!』


 国はとっくに滅んだのに、あいつだけはずっとおれを気にかけていた。

 はやく解放してやりたいのに。

 ほんとに、お人好しの馬鹿野郎だ。


『サラマル、くん?』


 はじめてひめを、ゆきなを見たのはとても晴れた日のことだった。

 カーテン越しに見たゆきなは、きっとヴェールの向こうのお姫様はこんな感じなんだろうなって思うくらいに綺麗な女の子だった。


『さらたん、ねえほらあそこ行こ!』

『さらたんって女子力高すぎない!?』


 色鮮やかに笑うゆきなの笑顔が全部眩しかった。

 こんなおれを、一人の人間として見てくれた。

 おれが深淵の闇だとするなら、

 ゆきなはおれを照らしてくれる月。


『サラマル、帰ってきてね……!』


 できればずっと寄り添っていたいと、思った。もう一つの人生はこんなにも、みんなとの暖かい記憶で溢れてる。

 ゆきな、ごめんな。おれどうすりゃ良いんだろ。

 ただ、大切な奴らを守って生きたいんだ。

 願うと、声が聞こえてきた。


『サラマルが、生きたいと、みんなと生きたいと思えますように』


 暗闇一色だった世界に白い亀裂が入り、世界が砕けて、真っ白に染まった。


「サラマル、サラマル!」


 やわらかくて高い声がして、

 光の先にゆきながいた。

 ゆきなに手を伸ばしたら、おれは、気づいた時には、マルス学園の中で、ゆきなを抱きしめていた。

その甘い香りと温もりは、返り血に濡れたおれの体をぎゅっと抱きしめ、震えていた。


 そうだ、おれはまた、助けられちまったのか――


***


「ゆきな!」


 体育館側から、ベルシュが走ってきた。

 右半身がべったりと血に濡れ、足をひきずっている。


「ベルシュ、大怪我じゃない!」


 ゆきなは腰を浮かせた。


「オレは良いんだ、怪我は!?」


「私は大丈夫だよ、けど……」


 ゆきなは、膝の上で再び意識を失ったサラマルと、隣で胸から血を流すカザネを見つめた。


「これは……」


「ベルシュ、そっちはどうなったの?」


 ふらつく足でカレブがやってきた。


「ああ、チェイサーなら今さっき倒したよ。ギルはまだ、他の人の介抱してる……とにかく、カザネの止血しないと不味いな……その前にここを離れるべきか。時期に他の害意が来る」


「その心配は、ないよ」


 カレブは力強い声でそう告げた。


 はっとしたように、ベルシュが息を呑む。ゆきなは不安気にカレブを見つめた。カレブは、自分の腕時計を見る。


「午前五時十九分五十秒。あと十秒で、今このセカイにいる害意は、ここに干渉できなくなる。戦いが終わるんだ……十、九、八、七」


 カレブがカウントをはじめた。


 暗闇空の下、体育館とは反対側で蠢く影の姿。鳴り響く銃声音。


 五、四、三、二、一……。


 全ての音が、ぴたりとやんだ。


 遠くで這いずり回っていた影の姿は、テレビ画面にノイズが走るように歪み、バチバチと電気を散らせて消えた。


「……おわったの?」


「終わったんだよ。害意は、撤退した」


 カレブは繰り返した。

 戦は終わった、影の侵攻を止められたのだと。

 唐突な戦の幕締めに、ゆきなは動揺した。

 耳を澄ませても、今まで鳴り響いていた怒号は聞こえない。時間が止まってしまったかのように、何もかもが静止したみたいだった。

 そんな校内に、一つの放送が響き渡った。


『午前五時二十分をもちまして、確認されていた異質物質がロストしました。我々、人類の勝利です。繰り返します……午前五時二十分をもちまして、確認されていた異質物質が、影が、ロストしました!我々の、勝利です……!』


 学園中の色んな場所から、人々の歓声が膨らんでいって爆ぜた。


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