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キミのセカイ  作者: 涼夜りん
第三章:SSJ結成編
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第17話:奇跡のチカラ

 寮へと引き返した五人は、それぞれの寝室へ直行した。少年たちが泣いていたのかは分からない。口を開こうとするものは誰もいなかった。


 友の死。


 心がえぐられ、ずたずたに引き裂かれるような痛み。逃れることのできない悲しみは、きっといつまでも続くだろう。いくら嘆いても取り返せない笑顔の意味を知っているから、だから彼は「永遠」になる。

 紫色の少年は、幸せだと笑っていた。

 さよならなんかじゃない、思い返せばいつもそこに彼はいる。何億光年離れても、想いが心を繋ぎとめる奇跡。

 少年はそれを伝えたかったのだろう。

 そうして絆は永遠となる。

 だからもう、離れ離れじゃ無い。


 ゆきなは布団にくるまってうずくまる。

 涙はとっくに枯れていた。

 前へ進むために、瞳をつむる。

 たった数日間だったけれど、少年と紡いだ物語を胸に抱いて。

 ゆきなが目覚めた時には、とっくに次の日の昼間を過ぎていた。空は透き通るように青い。学校は……休みらしい。近日来る害意の襲来に備えての臨時休校だ。


 サラマルたちは起きているのだろうか。ゆきなはベッドの中で窓を見上げる。泣きはらした目は痛いけれど、心は少し軽くなったようだ。まだ思い出すと心は軋むけれど。


「……朝だ」


 ゆきなは上半身を起こして、伸びをした。


「よしっ、着替えなくっちゃ!」


 自分にかつを入れるように声をあげる。


「あ、もう起きたんだ。おはよっ」


「うん、おはよ!」


 返事をしながらゆきなは思う。

 今、誰が自分に挨拶をしたのだろうと。

 声がした方の、窓際を見つめ、

 静止した。

 これは夢だろうか。

 何度も自分の頬をつねる。


「まるでお化けでも見た顔じゃん!」


 窓枠の上で、少年は愉快そうに笑っていた。

 人懐っこい笑顔と、藤色の髪、紫水晶色の瞳を持つ少年が、確かにそこにいた。


「……ベルシュ、どうして?」


 ゆきなは頬をつねったまま尋ねかける。


「あはは、なんか気づいたらオレ……帰って来ちゃってた!」


 ペロリと舌を出すベルシュ。


「まあ多分、お前のおかげなんだろうけどさ~」


「私、の……?」


 半信半疑で繰り返すゆきな。


「うん、自分のことだからなんとなく分かるんだけど……どうやらゆきなの『力』が、オレをこっちに引き止めてくれてるみたい」


「私の、力……?」


 ゆきなは両手を見つめる。何もした覚えは無かった。


「無自覚って顔だな?無意識ってことは、まだ覚醒しきってないんだね。とにかくオレ、本物の体は無いけど、またしばらくは一緒にいれるよ!」


 両手を広げてとびきりの笑顔を咲かせたベルシュが、ゆきなに向かってダイブしてきた。

 それを何とか受け止めながら、ベルシュの甘い香りを、体温を、全身で感じる。


「ゆきな、つかまえた~!」


 へにゃりと笑っているのは、間違いなくベルシュだった。


「ほんとに、ほんとに戻って来たんだよね……?」


「うん! オレとゆきなはもう、繋がっているんだよ……ゆきなの力でね」


 体を離したベルシュは、小首を傾げて妖艶に笑っていた。


「ゆきな、どうした一人で騒いで」


 扉を叩くギルの声がした。


「ギル……とにかく中に来て! 鍵、あいてるから!」


「物騒な、寝る時はちゃんと閉めるべき……だ」


 ベッドの上でゆきなと戯れるベルシュを認識し、フリーズしている。


「あ、ギル! ただいまっ」


「ただいまって……おいおい、お前」


 状況を呑み込んだギルが笑顔になるころには、サラマルたちも集まってきて


「うああああああああっ! 良かった、良かったよおおおおおおまじでえええええっ!」


 カザネが号泣した。


「ったく、つくづく人騒がせな奴だぜ、女の子を散々泣かせといてさ。なに呑気に帰ってきてんだよ」


「……サラマル、泣いてるの?」


「な、泣いてねえよカレブ! 全然、これっぽっちも……! ていうか、カレブはなんでそんなに平然としてんだっ」


「いや、なんとなくベルシュならすぐ戻ってくる気がして」


「さっすがカレブ、オレのことよく分かってんじゃん!」


「はあ、また騒がしくなるね」


 カレブは瞳を閉じて、唇を緩めた。


「うあああああああああああっ、べ、べるっちょ……お、おかえりーぃっ」


「うわっ、カザネ抱きつくなよ……どさくさにまぎれてゆきなに触るな~!」


「も、もう……みんな、はしゃぎすぎだよ……」


 やっと笑顔になるゆきな。


「あ、そうだ、ベルシュ……?」


 そっとベルシュに問いかける。


「――ベルシュが一回いなくなろうとした時、私に何て言おうとしたの? 聞き取れなかったの……」


「んー? オレに早食いで勝てたら教えてあげるっ」


「な、なによそれ!?」


「へへへっ、百年たってもゆきなには無理だろうけどさ!」


「そ、そうだろうね……けど、ほんとに戻ってきれくれて良かった……」


 涙を浮かべながら笑うゆきなをそっと見つめ、ベルシュは誰にも聞こえない声で呟く。


「ゆきな、お前はオレが生きたい理由だよ」


***


『トップー。なんでイレギュラーくん見逃しちゃったのー?』


『そうだよー。結局まだこのセカイにいるみたいだしー』


 WSの研究施設にて。


 二人のフードは、すらりと背の高い白衣姿の女性を見上げる。女性は黒縁のメガネをかけ、色素の薄い髪を結い上げている。


「……(アメ)水晶(シスト)を人柱にしても、どうせセカイは救われなかった。それならば、もっと面白い結果が得られるであろう方向に、サイを投げるのが研究者の性だ」


 女性は歌う様に続ける。


「――チェイサーを倒せば見逃してやると決めた時。紫水晶、被検体の命は既に尽きようとしていた。彼を人柱にした理由も、その命が潰えようとしていたからだ。それがどうだね。まさかこんな奇跡が起こるとは」


『何で奇跡がおこったのか』


『トップは知ってるんでしょー?』


「ああ。彼女の……二人目のイレギュラーの『能力』が目覚めかけた結果だろう」


『イレギュラーちゃんの力?』


『へー、覚醒しきってないのにすごいことできるんだね』


「おかげさまで、我々は一つの仮説を立てることができた。それを裏付けるためにも……彼女たちの観察を存続する必要がある……もっと踊ってもらわねばね」


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