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キミのセカイ  作者: 涼夜りん
第一章
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プロローグ

「……急いで帰らないと!」


 少女は高校の帰り道を走っていた。

 関西地方の、とある田舎町。街灯の無い山道は、日が暮れると真っ暗で危険だ。太陽はすでに、西の山に隠れようとしていた。

 今日はいささか、帰るのが遅くなってしまった。高校二年生になってからというもの、補習が多くなったのだ。


 電柱の柱から『なにか』が姿を現した――人間のようなものだった。しかし人ではない。なぜならそれは、白く発光しているのだから。


 少女は立ち止まった。ゾクリと恐怖が背中を走る。本能が逃げろと警笛を鳴らしている。早くここから離れよう。そう思うにも、足は凍りついてしまったように動かない。


 光る人型は、少女に向かってにじり寄ってくる。明らかに様子がおかしい。少女は声にならない悲鳴をあげた。相手が地面を蹴った。懐から取り出したモノを、少女の胸に突き立てた。

 少女は仰向けに倒れながら、自分の胸に突き立てられたモノを見た。

 ナイフだった。


「ど、どうして……!?」


 痛みは感じなかった。

 少女の意識はプツリと、そこで途絶えてしまったのだった――



***


 日本とは似て非なる『もう一つのセカイ』。つまりは異世界の話に移る。


 これは、少女が意識を失う数時間前の頃。

 

 そのセカイは真夜中を迎えていた。


 しかし、街には明かり一つ灯っていなかった。まるで息を潜めるように、暗闇の中に沈んでいる。

 全ての交通機関が機能を止めて、外を出歩く者は一人たりとも見当たらない。


 そのかわり、街の至るところで無気味な「影」が蠢いていた。

 這いずりまわるように探し回るは、人の血肉。


「あともう少しの辛抱だ……このまま隠れてやり過ごせ」


  影に見つからないように、人々は息を殺して地下に潜んでいたのだ。


 襲来の日――そのセカイは、人喰いのバケモノによって、侵攻されようとしていた。


 都内セントラルタウンの一角には、とある学園が蹂躙するようにそびえている。名は「マルス学園」。

 広大な敷地を有し、重厚な鉄柵に囲まれた学園。その様相は中世ヨーロッパ時代の貴族が暮らす屋敷を彷彿とさせる。


 午前二時二十分。

 浅葱学園の校舎にも、無数の「影」がうごめいていた。


「今日は数が多いっすね……」


「これくらいでへばってんじゃねーよ、カザネ。学園(ここ)で食い止めねえと、街が侵攻されちまう」


 体育館の中央には、背中合わせで立つ二人の少年がいた。

 一人は銀白色の長剣を構え、もう一人は短剣を両手に構えている。


「……それにしても、何で今回は学校に出現しやがったんすか、影たちは」


 長剣の少年・カザネは苦々しげに吐き捨てた。


「影……? ああ、『害意(がいい)』のことか。おれに聞かれても知るかよ。けどま、時と場所くらい考えて攻めてきて欲しいもんだぜっ」


 対して短剣の少年は愉しそうな声をあげる。


 そんな二人の周り、体育館の壁沿いには、彼らを取り囲むように群がる「影」の姿がある。

 影――またの名を、害意。

 通常の人間の倍はある巨体をひきずり、長い四肢は刃物のように尖っていて鋼鉄をも切り裂く。

 ソレらは人間を喰らい、世界に破滅をもたらす者である。


 対する少年たちは、まだ十代後半といった年齢に見えた。


『サラマル、カザネ、聞こえるかい』

 二人が装着するイヤホンから声が聞こえた。


「あ、カレブか?」


 短剣の少年・サラマルはイヤホンをしっかり装着し直し、小型マイクを口元に近づける。軽い調子でイヤホンの相手に問いかける。


「――カレブ、今の状況教えてくれねーか?」


『現在、校庭には230匹、校舎内には370匹の害意が出現している』


 現状報告をはじめるカレブという少年。その声は淡々と落ち着きはらっていた。


『……校庭に出現した害意の駆除は生徒会員たちが、表門と裏門は教員たちが駆除している。また、午前三時二十五分ジャストに、新たな害意が280体、出現すると観測されている』


「そ、そんなにっすか!?」


 カザネが素っ頓狂な声をあげた。


『詳しい配置と撃退フォーメーションは追って連絡する。さあ、SSJの出番だ』


 カレブはそう言い終わらないうちに通信を切った。


「い、一方的だな……つーか、増援なしっすか!」


 カザネが悲鳴じみた声をあげるやいなや、少年たちの周囲に湧いていた「影」たちが、二人目がけて一斉に飛びあがった。鉈のような刃がギラリと軌跡を描く。

 その速度は、巨体からは想像も出来ない速さだった。


「カザネ、狩りの時間だぜっ!」


 意気揚々、短剣をぐるり回したサラマルは、突進してくる影めがけて地面を蹴る。


「後ろは任せたっすよ!」


 カザネも同様に剣を振るった。


 暗闇を切り裂く剣の閃光。体育館中に轟く影たちのうめき声。

 飛び散る鮮血。学園中が、血と、怒号の嵐につつまれた。


 時は過ぎて午前六時十二分。東の空は明るみ、暗闇は西の果てへと追いやられる朝。

 校舎の中は静寂に包まれていた。まるで深海の底のように静まり返っていた。

 そんな学園中に、校内放送が響き渡った。


『……現時刻をもちまして、学園内に出現した害意は全て撃退されました。繰り返します。学園内に出現した害意は全て撃退されました。教員の皆さん、生徒会、SSJは至急、視聴覚室へと急いでください。繰り返します』


「やっと終わったか……サラマル、お疲れっす」


 体育館は屍と化した影の血と肉片で埋め尽くされていた。体育館だけでは無い、学園中の地面がおびただしいほどの血肉で溢れていた。


「おつかれさんカザネ、無事か?」

 

 二人は背中合わせのまま床に座り込んでいた。


「なんとか……しばらく動けそうにねえですけどね」


「へへ、だらしねえな。あと始末はカレブがやってくれるだろーし、おれ……ちょっと寝る」


「僕も……良い夢見てくださいっすよ」


 がくりと項垂れるようにして眠る少年たち。

 再び鳴り響く放送。


『ただいまより事後処理を行います。空間に多少の歪みが生じる恐れがありますので、速やかに目を閉じて下さい……』


 校内放送を通して繰り返される機械的な声。それが響いた瞬間、映像にノイズが走ったかのように、学園内の空間がゆがんだ。ジジジッと布を引き裂くような音をたて、青い電気が走る。

 その瞬間、学園中を汚していた血は消え去った。影の屍も、シャボン玉が弾けて消えるように、細かいポリゴン状となって雲散霧消した。


 セカイの命運をかけた一つの戦いが終わったのだ――

唐突に始まりました、異世界トリップ学園ものです!

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