007
その光景が信じられなかった。
目の前には、自分を見下ろす亡き妹の姿。
「ここは……」
自分自身でも何が起きたのか分からない凪沙は、辺りをキョロキョロとした。
広がる彼岸花。自身の体が透けていること。蓮の姿が、記憶の中にある姿よりも成長しており、凪沙は小さな声で「あっ」と呟いた。
「そういうこと、ですか……」
「凪沙、本当に凪沙なのか……」
体が震え、心臓の奥が締め付けられるように苦しくて、蓮は彼女にすがるように手を伸ばそうとした。
「お久しぶりです、お兄様……立派になられましたね」
ピタリと伸びかけた腕は止まり、蓮は俯いて奥歯を噛みしめる。
込み上がる感情を必死で押さえながら、蓮は浮遊する妹に目を向ける。
「凪沙、俺はお前に伝えたいことがある」
ゆっくりと立ち上がった蓮は、まっすぐな瞳で凪沙を見つめる。
「俺、お前が好きだった。妹してじゃない、異性としてお前が好きだった」
ずっと言えなかった言葉。凪沙にいうことを、ずっと神様に許されなかった。
だけど今、その言葉を口にすることができた。なら、今この胸の内にある気持ちを全て吐き出そう。
今しか、伝えられないんだ。
「お前が初恋で、死んでもずっとお前への恋慕が消えないんだ。ずっと、ずっとお前が好きで、お前に会いたくて、お前に……伝えたくて」
「ダメですよ、お兄様。私たちは兄妹です。それに、貴方には桜花さんがいます。文句無しの方です」
「わかってる。桜花は文句のつけようがないほどにいい奴だ。俺には勿体無いほどに。けど、俺はあいつを愛せていない」
蓮にとって、凪沙への恋慕はあまりにも大きかった。
どんな女性を見ても、あの桜花に対してさえ、彼の心が動くことはなかった。
「俺があいつを不幸にしてる。お前はもう居ないのに、ずっとお前ばかり見て、桜花を見てないんだ。あいつはちゃんと、俺の前にいるのに」
桜花を幸せにしたい。こんな自分の側にずっと居てくれるあいつを俺は幸せにしてあげたいと。その為に、自分の中にある後悔と未練を晴らそうと、蓮は儀式を行った。
「最後に、お前にあって伝えたかった。好きだったよ、凪沙」
ニッコリと笑みを浮かべる蓮。だけど……
「酷い人だ……私は、会いたくなかったのに……」