006
【ヒガンの泉】
山奥にある大きな泉を人々はそうよんでいた。
一歩氏の泉に足を運べば、真っ赤な彼岸花が泉の周りに咲いている。
風が吹き、彼岸花の花びらが舞い上がれば、見たものは口々に「紅」と口にした。
そんなヒガンの泉の淵に行くために、不自然なほどに一本の道ができている。草も、彼岸花も咲いていない、人工的に作られたと思われる一本道。
「はぁはぁ……はぁはぁ……」
日の高い時間帯に家を出た蓮は、《朱殷の華》を手にして、ヒガンの泉を目指した。
貧血で意識も朦朧としていた。いつ倒れてもおかしくない状況だったが、蓮は必死に足を動かした。
「あっ……」
足を滑らせて倒れても、蓮はすぐに起き上がって歩く。同じ景色が続き、いつになったら目的の場所にたどり着けるのだろうと思った。
「はぁ……はぁ……—————— あっ」
森を抜けたその先は、此岸とは思えないほどの幻想的な場所だった。
視界いっぱいに広がる赤い彼岸花。その中央にある泉は、花の姿を映し出して赤く染まっているように見えた。
蓮は笑みを浮かべる。
こんな光景を目にすれば、期待が膨らんでしまう。ここはどうしてもこの世のものとは思えない。誰かが「ここは彼岸だよ」と囁いても納得してしまう。
蓮は不自然に作られた道を歩き、泉の淵へと歩みを進めた。
————— ポチャン……
手にしていた朱殷の華を泉に投げ入れると、泉全体を波紋が走り抜けていった。
水面を漂う華は、やがて泉の底へと沈んで行く。
蓮は地面に膝をつき、両手を組んで目を閉じる。
(凪沙……)
心の中で、妹の名前を呼んだ。最初は優しく。だけど徐々に感情が高ぶり、会いたい。早く会いたいと彼女を求め始める。
「ぉにぃ……さま?」
「ハッ!」
不意に聞こえた声に蓮はゆっくりと顔をあげた。
泉の上を浮遊する一人の少女。印象的な長い黒髪と、見に纏っている白い服の裾が風で靡く。
半透明の少女……蓮の愛した