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朱殷の華  作者: 暁紅桜
4/12

003

こうがふっ、と再びタバコの煙を吐いて、れんは我に返った。


「ん、なんだ?」


不意に、二人は扉の外に目線を向けた。

二人しかおらず、その上お互いに口を開かないため、店内はしんと静まり返ってるため、外の音が良く超える。

先ほどまでは聞こえなかったざわざわとした人の声。

様子を見に蓮は店の外に出て行き、紅もその後に続いて外に出た。


「どうだ?」

「あぁ。なんか隣の店で何かあったらしい」


紅の店の隣は古本屋。その前に多くの人が集まっていた。

不思議そうに眺めながら、蓮は近くにいた老人に声をかけた。


「どうかしたんですか?」

「ん? あぁ、店の娘さんが倒れたらしい」

「病気か何かで?」

「いや、自傷行為らしい」

「えっ……」


その時、店の中から女性が一人運び出された。

体はぐったりとしており、片腕にはぐるぐると包帯が巻かれている。


「体のいたるところに傷があったらしい。今回が初めての悔いじゃなかったんだろうなぁ」

「どうしてそんな……」

「まぁここの娘は、ずっと精神的に不安定だったからな」

「心当たりでも?」

「恋人が戦死したらしい。珍しいことじゃないが、まぁ本人はショックだったんだろう……」


女性はそのまま病院と運ばれて行き、店の前に集まっていた人々は、警官によってその場から離れるように言われた。


「これはどうする?」

「一応他のものと一緒に持って行こう」


店の前、二人の警官がやりとりをする。

その手にあったのは、《白い彼岸花》だった。





「やっぱり、都内は事件が多いね」


二人も警官に言われ、そのまま店内へと戻る。

外はまだ騒がしく、しばらくは外の声が仲間で聞こえて来る。


「自傷行為なんて……そんなに、会いたかったんだな」

「まぁ多分、お前が思ってるような《会う》って行動じゃなかったと思うぞ」

「えっ、どういう意味だよ」


特に同様や不安。さっきの様子を見ても知らぬふりをする紅に、蓮は尋ねる。

カウンターに戻り、タバコを一本吸った紅は、テーブルの上に紙とペンを出した。


「彼女は儀式を行おうとしてたんだよ」

「儀式?」

「そう。今、この街に広がっているある儀式だよ」

「儀式? 何かを呼び出すとか、そんな感じか?」

「あぁ。この儀式で呼び出すのは、《死者》だ」

「死者?」

「そう。儀式の名前は《ヒガンの儀式》。一途に想い続ける死者に別れを告げ、新しい縁を結ぶための儀式だ」




今や都内ではある儀式のことが広がっていた。

死者を呼び出し、死者に今世の別れをし、次の新しい縁を結び直す儀式。

名を【ヒガンの儀式】

家族に恋人、友人など、死してもなお想い続ける人物がおり、どうしても前に進むことのできない者が行う儀式。

実際に成功したものがいるという話は聞かない。ただあるのは、そんな儀式があるという噂だけだった。

普通の者は興味は示さない。だけど中にはいるのだ。そんな儀式を行う者が。


「多分彼女も、死んだ恋人に別れを告げようとしたんだろう」

「それでなんで自傷行為をするんだよ」

「儀式に必要なものがあるんだ。それは、《自分の血で赤く染めた彼岸花》」

「自分の血!?」


その瞬間、蓮の頭の中に想像したくもない光景が浮かぶ。

先ほど運ばれた彼女は、死んだ彼と会うために、自分の血を栄養分に彼岸花を赤くしようとしたと。


「け、けど……彼岸花って元々赤色じゃ……」

「白い彼岸花があるんだ。それを真っ赤にできてやっと儀式ができる。まぁ、完成するまでに倒れて入院する奴が大半だけどな」


ここ最近、病院にその儀式を行って入院するものが多くおり、今ではその儀式を行うことを禁じられている。

白い彼岸花を持っているだけで、儀式を行う危険性があるとみなされてすぐに警官に捕まってしまうと。


「赤く染めた彼岸花を、《ヒガンの泉》に投げ入れて、想い続ける死者の名前を呼ぶ。そうすれば、めでたく死者とご対面らしい」

「ずいぶん、詳しいな」

「まっ、頻繁に起これば嫌でも話を聞く。そんなことしてまで死者に会いたいかね」

「………会いたいから、やったんじゃないのか?」


カウンターの木目をじっと見つめながらそう呟いた蓮。その言葉を聞き、紅は眉を潜めて、蓮の襟を掴んで自分の方に引き寄せた。


「馬鹿なこと考えるなよ。俺がこの子を話したのは、お前にさせないためだ。そんな不確定なものをして、お前が倒れられたら困るんだよ」

「紅……」

「俺はお前を友人だと思ってる。一番野田。だから、これは頼みだ。馬鹿なことはするなよ」


今まで見たことのない紅の表情。怒りと焦り、不安。そういったものが入り混じった表情。


「大丈夫だよ、紅。俺はそんなことをしないよう」


紅の手を離し、乱れた着物を整えて笑みを浮かべる。


「そんなことして倒れたりなんかしたら、桜花が心配する」

「……ならいいんだが……ダメだ、やっぱり不安だ」

「信用ないな、俺」

「わかってるからだよ。お前が、どれだけ妹に執着してるか」

「凪沙はもういない。今、俺の側にいるのは桜花だ。だから、大丈夫だよ」


まるで、自分に言い聞かせるような言葉。

紅は深々と溜息をこぼすと、懐から茶封筒を取り出し、蓮に渡した。


「また、酒飲むときは付き合えよ」

「……あぁ、わかった。なるべく早く連絡くれよ」

「わかってる。じゃあな」

「あぁ。わざわざありがとな」

「タバコもほどほどにな」


蓮はそのまま店を出て行く。紅は苦笑いを浮かべながら、小さく手を振って見送った。

店を出て、来た道を蓮は戻って行く。


「凪沙……」


小さくそう呟き、人の少ない電車の中で、一人声を殺して泣いていた……



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