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灰色の乙女は悲劇の恋歌を唄う  作者: あかり
第一幕
21/38

舞うは、アカイロの


 セリアだけに良い恰好はさせられないと、リュシアン達も一斉に後に続いた。

 それでなくても、彼らは腕に覚えのある者達である。

 それぞれの獲物を駆使して、彼らは目の前の影達をなぎ倒していく。

 


 もちろん、この不思議な場所は、そんなに単純な場所ではなかった。



「くそっ、これじゃあキリがないぞっ!」

 最初に声を上げたのはジェラミーだった。


 もう幾つになるか分からない数の影を切り裂いたところで、黒の剣士は肩で息をする。それほど、彼らは影を叩き切ってきたのだ。


 だというのに、目の前は今だ多くの黒で埋め尽くされている。

 更に不味いのは、目の前に居るはずのユラウスがまったくこちらに気づいていないということ。まるで、透明な壁で阻まれているかのような不自然さである。


 両側に現れた影達を難なく切り裂きながら、セリアは辺りに視線を走らす。


 今回自分達がここに来たのは、ユラウスの救出のため。彼に辿り着かなくては意味がない。

 そして、きっと何か方法はあるはずだ。


「姫さん!!」

「………っ!なんだっ」


 まるで何者かの手のひらで踊らされているような忌々しい気分になっていたセリアは、突然名が呼ばれた時、その気持ちを隠すことなく放出してしまった。

 思った以上にイライラの感情を全面に押し出した返事になってしまった事に気づき、申し訳ない気持ちになりながら呼ばれた方に目を向ければ、苦笑を投げ寄越してくるノアを見つけた。


 まるで、気にするな、と言っているようなその笑みに、胸に救っていた焦燥感が少々安らいだ。


「ノア、どうした」

 今度こそ、普通の声音で尋ねれば、ノアがすぐに弓矢をある場所に向かって放った。


 そして気づく違和感の正体。


「………っ!」

 放ったはずの弓矢は、ある場所を通過すると不自然な形で跳ね返ってきたのである。


 まるで、そこに壁があるかのように。


「あそこか!」

 結界を割る事など、セリアにとっては朝飯前。特に、手元に武器を持っているなら尚更。


 彼女はすぐに弓矢の跳ね返ってきた場所目掛けて剣を振りかぶった。




 

 ガラスに大きな亀裂が入ったような音が辺り一面に響き渡り、その音を周囲が認識した時にはもう、結界が砕け散った後だった。


「兄上!」

 その証拠に、双子が少し先に居る兄の名を叫べば、彼もまたこちらに驚いたような顔を向けてきたのだ。


「お前達、何故っ!」

 彼という人間を知る先入観からか、その声はありがたみというよりは、責めの音の方が強い。


 それが自分の思い違いであってほしいと思いながら、セリアとキャロンは眉を寄せたままユラウスの傍に走り寄る。


 影達は今だに彼らに付きまとうように動き回り、それらは彼らと戦っているというよりは翻弄するという表現の方がしっくりきた。


 唯一影を切り裂けない武器を持つユラウスを囲うように、セリア達は剣を振るった。

 これでは埒が明かないと、全員が一種の焦りを抱き始めた頃、同じように周りの影達の動きが鈍くなっていき、そのまま止まった。


 何かの前触れのような気がして、全員が武器を握り直し更なる戦闘態勢に入る。


 ざわり、と、空気が揺れた。



「よけろ!」

 最初にその変化に気づいたのはセリアだった。

 叫び声を上げながらすぐ隣に居たユラウスの服の襟を乱暴に引っ掴むとそのまま左下へと倒れ込む。


「な、なんだお前は!!」

 突然の横暴にユラウスが声を荒げながら身体を起こし、そのまま目の前の光景に息を呑んだ。


 彼の視線の先にあったのは、真ん中が綺麗な円の形に抉れた一本の木。それは、少し前まで自分達の背後に立っていたものだ。

 穴はあまりにも綺麗過ぎて、到底人が作った武器で出来たとは思えない。


「なにか、来ます」

 セリアや彼女に守られたユラウスを除く全員も、どうにかその不可思議な攻撃を免れたらしい。それぞれが地面に伏していた体勢から持ち直していた。

 キャロンが目の前から視線を逸らさずに小さく呟く。



 いつの間にか、視界を埋め尽くすほどいた黒い影達は居なくなっていた。



 

 それらと取って代わったように、次に姿を現したのは、人間の姿を模った黒いなにか。

 何か、というのは、それが人間ではないことが一目で分かったからである。何故かというと、その黒い何かがら人間であるセリア達の二倍以上の大きさをしていたから。


 黒い何かは、その手に武器を携えている。

 数にして、大凡十といった所か。


『ぶぉぉぉ』

 聞いたことのない底冷えのする雄叫びを上げながら、その一つが武器をこちらに向けてきた。


「皆さん、逃げて!」

 セリアに代わり、キャロンが声をあげる。


 リュシアンとジェラミー、そしてノアは持ち前の反射神経を駆使してその真っ黒な矛の形をした武器の先端が向けられた場所から逃れる。

 キャロンもその後に続いた。


 ユラウスといえば、すぐに逃げることのできた弟達を暢気に見送っていた。


 それほど良くはない反射神経に加え、何が起きているのか分かっていないらしい。 


 舌打ちをしたセリアは、再び公爵家嫡男の背中を乱暴に掴むと再び後方に飛びずさった。


 一拍の後、今度は数秒前までセリア達が立っていた地面に穴が開く。

 場馴れしているユラウスを除く五人は、すぐに何が起きているのか理解し、瞬時に行動に移すためその身を翻した。


「身体が大きい分、動きは遅い、足元を狙うんだ!」


 黒い何かは、身体が大きい分、森の中での動きを制御される。

 しかし、セリア達はその現状を逆手に取る事にした。

 森の木々を隠れ蓑に、素早い動きで敵の傍へ走り寄ったリュシアンは、その剣で相手の足元を切り裂いた。


 ダメ元で人間の急所であるアキレス腱の部分を狙ったのだが、その読みは当たっていたようで、切りつけられた黒い何かは体勢を崩し地面に倒れ込む。


 後方で、その瞬間を待ち受けていた双子の弟であるジェラミーが、目の前に落ちてきた何かすらわからない黒いモノに、少しの恐怖を見せることなく留めを指す。

 黒い何かの胴と首が真っ二つに切り裂かれた。


「………」

 セリア達の間に妙な緊迫感が流れ込む。


 切り裂かれた黒い何かは、立ち上がることなく不自然に吹き抜けた風と共に消え去った。


「影とは違って、急所を遣られればどうにかなるようだな」

 先陣を切ってくれた双子に感謝しつつ、セリアは思わず胸を撫で下ろした。


 相手は、切ってもキリがない先ほどの影達と違い、どうにか太刀打ちできるモノであるらしい。


「お前はここにいろ」

 少し観察しただけでも、ユラウスの剣の腕がこの場に置いて使い物にならない事は一目瞭然だった。とりあえず、守れる範囲の中でも一番遠くの木の後ろに隠れるように指示を出す。


「なっ!」

 もちろん、ここで素直に言葉通り身を隠す様な人間だったら、こんな所には来ていないだろう。


 何かを言いかけたユラウスを、鋭い眼光の元捻じ伏せて、セリアは他の者達が戦っている元へと走った。

 魔力を使うほどでもない。


 少ない人数ではあるが、ここに居るのはある程度場数を踏んだ先鋭ばかり。


 ノアは弓矢を持つため基本は敵から距離を置きつつ、その狙いを脳天に定める。時には、剣を用いて前線を走り回るリュシアン達が有利に立ち回れるよう所々で援助を行う。


 弓での遠距離線のため、多少狙われることになる彼を守るように周りを走り抜けるのはキャロンだ。獲物こそ短剣ではあるものの、その二つを両手に収めている時の彼女たるや敵の攻撃を弾く事など造作もない。

 彼女もまた、自分の魔力は一切使わないことにしていた。

 それは、この状況下に置いて、自分の魔力がどのような影響を及ぼすか検討もつかないからである。


 物理的に薙ぎ払うことの出来る相手であれば、力など使わないに越したことはない。


 リュシアンとジェラミー、そして遅れて参戦したセリアは素早い身のこなしと森の中という地形を巧みに使った戦闘術で、どんどん敵を威圧していく。


 リュシアンは軽やかに敵の間を潜り抜け、ジェラミーは猛々しく相手を切り裂いていき、そしてセリアは誰よりも優雅に戦場を駆けた。

 それぞれ持つ武器は剣一本と同じはずなのに、その動きはまったく違う。


 それはまるで、一つの劇を見ているかのようだった。


 圧倒的な力の差で、戦場に立つ黒い何かはどんどんその数を減らし、ついにその形成は逆転する。黒い何かは、セリア達の力を恐れじりじりと後方に下がっていた。



 もちろん、そんな奴らの怯えをむざむざと見逃すような優しい人間はこの場には居なかった。


 キャロンが短剣の刃を相手に向けるよう交差させ、ノアがいつでも放てるよう弓を引き絞る。ジェラミーは敵の背後にて出方を窺っており、セリアとリュシアンは隣同士に立ち真正面から見据えていた。


 と、その時、セリアとリュシアンの間を走り抜けた何かがあった。



「お前らに、守られてばかりでいられるかっ!」

「おまっ」

「兄上!?」


 もちろん、敵も馬鹿ではないし、明らかに動きの鈍い者を捨て置くほど情があるわけでもない。


 敵は焦点をユラウスに定めていた。

「チッ!」

 常にない盛大な舌打ちと共にセリアが動くのと、敵から光線が放たれたのはほぼ同時。



 セリアの視界が白銀の何かに覆いつくされる。



 一色に染まったその世界に、微かに見えたのは、紅の。





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