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灰色の乙女は悲劇の恋歌を唄う  作者: あかり
第一幕
13/38

甦る記憶


 ようやく地図を探し出し、セリア達の居る机まで持ってきたジェラミーは、少し涙目だった。それはリュシアンも同じ。

 あまり双子仲良くしている所を見たことはないが、この時ばかりは、二人共身を寄せ合ってお互いを慰め合っているようにも見える。


 それを見てマルセルはわざとらしく目元を拭う真似をする。彼ら専用の駆け込み寺の住職としては、胸が痛い。

 ノアは呆れたように三人の青年を見つめて溜息をついていた。



 そんな小芝居が繰り広げられている中、セリアは男達を完全無視に無視して机の上に地図を開いた。


 向かい合うようにして並べられた、三人は座れる広さの長椅子の一方に座り、その真ん中に置いてある高さの低い机に置かれた地図を、身を乗り出す様にして覗きこむ。


「やはり、か」

「姫さま、これを」

 いつの間にやら冷静を取り戻していたキャロンが、さっと主の前に羽ペンを差し出せば、セリアが頷いてそれを受け取る。


 ここでようやく小芝居を終えた男性陣達も集まってきた。


「そういえばさっき、必要な情報は揃ったって言ってたね。それってどういうこと?」

「やっぱり、ってなにがだ?」

 矢継ぎ早に質問を繰り出すのは、今の時点で一番ダメージの少ないマルセルとノアだ。

 

 すると、彼らに見えるようにセリアが羽ペンを動かし何かを記入し始めた。


 まずは先ほど見て回った場所である数か所にバツ印を加えていく。見るモノからすれば、そこにはただの不規則なバツが増えていくだけなのだが、セリア達には違うらしい。


「印に注目した時、気づくことはないか?」


 仮にも、この国で優秀だと評判の若者達だ。

 少しの間地図と記号を凝視し続けていた男性陣の間に声があがるのに、そう時間はかからなかった。


「神隠しの合った場所が、山脈近くのある二つの位置に集中している………?」

「そういや、あそこ何にもなかったよな。なんでわざわざあんなとこに行く必要があるんだ?」

 マルセルの言葉をきっかけに、ノアが首を傾げる。


「兄上が言ってた通り、あれらはオーリンピオスに近づける一番距離の近い場所」

「確かに不規則にも見えるが、すべて森の一部を囲っているぞ。しかも二か所共だ」 

 リュシアンとジェラミーの意見を聞き終えた所で、セリアが満足げに頷き、山と森の間のある位置に大きく二つの丸の印をつけた。

 元の地図には何も描かれていない場所だ。


 アテナイの人々が住む場所からも遠い、一番最近神隠しがあったとされた場所からさほど遠くない場所と、最後にユラウスと会ったミネルバ邸にほど近い場所。

 付け加えた丸をよく見れば、すべてのバツの印がその丸を囲むようにして散らばっていることが分かった。


 キャロンは目を細めて丸の描かれた場所に指を滑らす。


 その懐かしさの籠った眼差しは、見ている人には非常に魅力的に見えた。普通の二十代の女性には到底真似できないもので、そんな色に不慣れな若者達は一瞬目を奪われた。


 セリアはそんな彼女を見つめて一つ溜息をつき、椅子に座り直すと、両膝の上にそれぞれ肘を付き、両手を組んでどこか遠くの一点を見つめる。

 いつもは火傷しそうなほどの熱を持ったその瞳が、今だけは何も映さないガラスのようで、それはまた違った引力を生み出し男達の意識を引きつけた。



 なにか、壮大な宝箱を目の前にしたかのように、男性陣が固唾を呑んでセリアとキャロンを見つめる。さしずめ二人の少女はその箱を開ける鍵というべきか。



 開けたいけれど、恐ろしさもあって手が出せない、そんな奇妙な心地。

 


 そんな緊迫感漂う空気の中、恐れ多くもその開かずの宝箱の箱を開けたのは、他の誰でもない、セリアであった。



「犯人が誰かは分からんが、これで、すべての謎の説明がそれなりにつく」

「………代々アテナイに住む人々が消えていくこと、そして、その方法に何かしらの魔力が使われている事にも」

「そ、それは?」

 男性陣を代表して、マルセルが恭しく一言促す言葉を紡いだ。


 するとセリアが遠くをみていた視線を地図に落として呟いた。



「この二つの丸の位置には、かつて私達アテナイ国の王族が住んでいた城と離宮があった。これをただの偶然と片づけるにはあまりにも不自然だ」



 すべてが消されてしまった今世では、誰も知りえることの出来ない貴重な情報。



 そう告げた彼女の脳裏に、白亜に輝くオーリンピオス山脈を背後に従えたかつての城が蘇っていたことなど、誰が知りえようか。





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