二十一話 暇な放課後の過ごし方
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光理の素敵なイラストを描いていただきました!
「あぁ~、放課後になっちゃったよ。憂鬱だなぁ……」
教室の窓際の席。
べたっと机にへばりつき、光理が辟易と呟いたのは、チャイムが鳴り響いてすぐのことだった。
「今日も呼び出しなのか?」
「うん……。もうこの一週間で七回目だよ……」
前の席から問いかければ、光理は窓の外を眺めながらため息交じり。
ただでさえ小柄な体格が、より一層小さく見えた。
……さて。
光理が転校して来て一週間が経ったんだが、あいつの立てた作戦――俺を隠れ蓑にするというやつだ――が成功したかといえば、首を横に振らざるを得ないだろう。
何故なら、一部の男子生徒たちは、そんなことお構いなしにアプローチを仕掛けてきたからだ。
下駄箱を開ければ殆ど毎朝のように一通の手紙が入っていて、決まって『放課後、人気のない場所に来てほしい』という旨の文言が記されている。
何が目的かなんて、考えるまでもないのだが……。
光理は律儀に従っては、手紙を突っ返す作業を繰り返しているのだった。
「……夏休み明けのテスト週間なのに、非常識なやつしかいないのかっ!」
続く台詞は、がばっと起き上がり、ドン! と机を叩きながら。
まあ、普通に考えれば、テスト期間に告白なんてするわけがない。
相手にとって迷惑になるかもしれないし、本人も失恋のショックで勉強が手につかなくなるかもしれないからだ。
だというのに、これなのだから、光理の怒りももっともに違いない。
「ん!? 俺を呼んだか、アーディガンさん!」
すると、男が一人、俺たちの間に割って入ってくる。
豪炎寺である。
あいつは何故か誇らしげに胸を張っていて、白い歯をきらりと輝かせ、フフフと不敵な笑みを浮かべていた。
「げ、出た」
「え、酷い」
が、長くは続かず、光理の反応を受けてすぐ、崩れ落ちるように項垂れてしまう。
……豪炎寺は、光理の言う非常識な奴の一人だった。
転校翌日の朝一で、テストの直前だというのに躊躇いもなく大勢の前で告白し――
『え、無理』
『え、酷い』
一刀両断で散ったのだ。
それ以来、豪炎寺は何かと颯爽と現れては、バッサリとやられている。
もっとも、当人もそれを楽しんでいるらしく、立ち直りも驚くほど早いのだが。
そんな見慣れた光景をスルーして、俺は光理に問いかける。
「……別に、嫌なら呼び出しを無視してもいいんじゃないのか? 一方的な約束なわけだし、文句は言われないだろ」
曰く、今のところ呼び出してくる男子たちは、チャラチャラとした軽薄な見た目の人間が多いらしい。
『あの男ですらOKなのだ。駄目元で告白してみて、あわよくば、留学生と付き合えないか』――ぐらいのミーハーな思惑が透けて見えるのだそうで。
実のところ、俺はそんな彼らに心当たりがあった。
だから、関わらないようにするのが一番だと思うんだが、光理は首をふるふると。
それに合わせて、銀の髪がハラハラと揺れた。
「うーん、流石にそれはしたくないんだよね……。だって、もしかしたら、真面目に気持ちを伝えたい子がいるかもしれないもん。断るのが決まってるのに変な話ではあるんだけど、一度生まれてしまった想いには、きちんと向き合わなきゃいけないと思う」
ちなみに、同様の理由で付き添うのもNGなのだとか。
「……豪炎寺を見ていると、そこまで深く考えてるようには思えないけどな」
すると、話題に出た豪炎寺は、いつの間にか復活していて、再び胸を張って堂々と宣言する。
「いや、俺とて何も考えなかったわけではないぞ? ただ、心の友の恋人と、想いを胸に秘めたまま付き合うのは辛いからな。早々にぶちまけてすっきりしたというだけだ!」
若干身勝手な言い分にも思えるが……。
意外と光理の共感を誘ったようで、あいつはうんうんと、腕組みをしてしきりに頷いていた。
「とにかく、変にもやもやを貯めこまれる方が余程面倒くさいんだよ、こういうのって」
……そういうものなんだろうか?
俺にはさっぱり理解できず、何も言い返せない。
「俺が思うに、二人には恋人らしさが足りんのではないか? ほんの一か月ほど前に遭ったばかりだというのに、まるで長年連れ添った兄妹のようだ。現に俺のような間男が近づいても、仁田君は全く怒りを示していないわけだしな!」
「そりゃ、俺と光理は――いててっ!」
そんな俺に、訳知り顔で豪炎寺。
つい正直に話してしまいそうになり、横腹を強い痛みが襲った。
犯人は、言うまでもなく光理だ。
あいつは机の陰で器用に周りから見えないようにして、俺の腹へと手を伸ばしていた。
「ど、どうした仁田君!? 気分が悪いなら、保健室まで付き添うぞ!?」
「い、いや、なんでもない……。平気だ」
そんなこんなでわちゃわちゃしていると、またもや新たな参入者が現れる。
「お取込み中、悪いわね。庸介君に話があるんだけど、時間をもらってもいいかしら?」
「ん、小清水か。どうしたんだ?」
意外な顔で、俺は小首を傾げてしまう。
彼女とは夏休み中に二回、ばったりと出くわしたものの、それだけであって、二学期になってから一度も話をしていない。
そもそも、不良扱いされている俺と優等生の彼女では、これといって接点がないのだ。
「単刀直入に言えば部活の勧誘ね。……足の怪我、治ったんでしょう? なら、サッカー部に入部してくれないかと思って。勿論、人探しにも関しても、ある程度気を遣うわ。具体的にいうと、週に一、二回部活を休んでくれても構わないから」
だというのに、謎の好待遇である。
疑うというわけじゃないが、不自然に感じるのも仕方がないことだと思う。
すると、それを察したのか、小清水は眼鏡をクイッと上げ、こほんと一度咳払い。
「マネージャーの私が言うのもなんだけど、うちのサッカー部って、どうしようもなく弱いのよ。経験者なんて全然いないし、人数だってチームを組む最低限ギリギリぐらい。でも、庸介君って小学生の頃、サッカーが得意だったんでしょう? だから、経験者としてのアドバイスをもらいたいの」
「……いいんじゃない? ヨースケがサッカー部に入るなら、僕もマネージャーとして応援してあげよっかな?」
俺が返事をするよりも早く光理。
それを受け、まだ教室に残っていた一部の男子が沸き立った。
光理に関してまだまだ警戒が抜けきらないクラスメイトだが、美少女に甲斐甲斐しく世話をしてもらえるとなれば話は別らしい。
例え、俺という余分なオマケがついてきたとしても。
……もしかしたら、その連鎖も視野に入れての勧誘だったのかもしれない。
期待の視線を感じる。
小清水や他の男子は勿論のこと、一番はすぐ隣にいる少女――光理からだ。
だが、生憎と俺の答えは決まり切っていた。
「……折角、声をかけてくれたのに悪いけど止めておくよ。ブランクがありすぎるし、期待に添えそうにない。それに、部活を頑張ってる奴らにも悪いだろ。小清水もマネージャーなら、今いる部員を信じてやるべきなんじゃないか?」
「……そうね。ごめんなさい、変なこと言ったりして」
幸い、小清水はあっさりと納得してくれたようだった。
それでクラスの男子たちも興味を失ったのか、一人、また一人とそれぞれの部活に向かっていく。
そんな中、食い下がるやつは一人だけいて――。
「怪我を治したのにどうして……! 昔はあんなに好きだったのに!」
「光理には悪いけど、俺はもうサッカーそするつもりはないんだ。……そろそろ待ち合わせ場所に向かった方がいいんじゃないか? 俺はいつもみたいに図書室で待ってるから。じゃあ、豪炎寺、また明日な」
「お、おう……」
俺はそれに取り合うことなく、呆気にとられる豪炎寺に挨拶をして教室を後にするのだった。




