ウブな二人
「そうだ、せっかくだからメアドと携帯番号交換しておこうか」
しばらく三人で雑談をしていた中で、ミサキさんがそんな提案をする。
「まあ……いいですけど」
「何その返事。夏彦くん、乗り気じゃない? いいもーん、そんな態度取るなら信行くんとだけ交換するから」
ミサキさんは子供っぽく頬を膨らまし、拗ねてみせた。
ミサキさんとエロゲーの話以外を交わしてわかったことがあるが、この人結構面倒な性格している。
というよりも、俺が自分に対して好意を持ってない女性と話すのに慣れてないだけかもしれないけども。
……こんなこと神田に言ったら確実に罵られるな。
「へっ、お、俺ですか!?」
「なあに、嫌なの?」
「滅相もない!」
一方で神田はというと、いつの間にか名前で呼ばれていることに慣れないのか、たじろぐばかりだった。
あれだけ彼女が欲しいだの言っていたのに、いざ強気で来られてみれば女性免疫のなさが露呈してしまっている。
「赤外線でいい?」
「はい、準備できました」
「おっ、きた。夏彦くんもさっきの冗談だから交換しよっか」
「はい」
淡々と進むアドレス交換が終わったところで、ミサキさんが立ち上がる。
「それじゃ、私はこれでお暇するね。自分の持ち場もあるし……お、噂をすれば迎えが来たみたい」
ミサキさんの視線を追いかけると、カフェの入り口で女の人が手招きしていた。
「ミサ、やっと見つけた! こんなところで油売ってないで早く来て。お店大変なんだからー!」
「はーい、今行きまーす! ……じゃあ二人とも、また今度」
ミサキさんは手を振りながらカフェをあとにした。
ミサキさんの話は残念なものばかりだった。
大学の話を聞きたいと言ったら、酒の席での失敗談や所属するサークルへの愚痴、講義をサボって麻雀や将棋に明け暮れてたら単位を落とした、などと大学生のダメなところを惜しげもなく話してくれた。
ていうか、麻雀はまだしも将棋って……。
アキバのメイドで将棋指しとか聞き覚えのある設定だな。
まあそんな話はどうでもいいが、さすがにあれだけ酷い体験談には神田も引くだろう。
これで大学生に幻滅して、ナンパへのやる気をなくしてくれれば面倒はないんだが。
「……神田?」
神田がやる気がないというより、魂の抜けたような顔をしている。
「ノミヤ……俺は決めた。この大学に入学する」
「……は?」
「惚れちまったんだよ……諸岡実咲という女性に! あの人こそ俺の運命の人だ」
「どうしてそうなった」
俺が思うにミサキさんに惚れる要素なんて皆無……とまでは言わないが、ほとんどなかったような……。
たしかに見た目は他の人と比べて抜きん出ているけど、それを打ち消して余りある残念さだぞ?
少なくとも俺は、意識を失うまで酒飲んで、目が覚めたら自宅の玄関で吐瀉物と糞尿に塗れてた、なんて下品な話を人の食事中にする女とは付き合いたくない。
「ミサキさんと握手した時な、手がすべすべで柔らかくって、見上げたらあの人ニコって笑うんだよ。その瞬間、運命感じちゃって、もう心臓バクバクよ」
小学生かよ。
いや、今どき小学生でも手をつないだだけで恋に落ちたりしないわ。
神田は運命とかアホなこと言っているが、当のミサキさんはといえば神田を意識することなどないだろう。
後半こそまともな会話していた神田だが、最初の方は女に飢えているいつもの神田だったからなあ。
ミサキさんが神田を異性として見ているかは怪しいところだが……ん?
ズボンのポケットから振動音が聞こえてくる。スマホの着信だ。
スマホを取り出して確認すると、ミサキさんからだった。
さっき別れたばかりだというのに、何の用だろう。……というか、店が大変とか言ってたのにメールする暇なんかあるの?
こんなところにもダメっぷりの片鱗を感じながらも、メールを開いた。
『From:諸岡実咲 件名:どうしよう! 件名:信行くんイケメンすぎてやばい。好きになっちゃいそう』
…………は?
……落ち着け、俺。続きがあるから読んでみよう。
『綺麗なんて言われたの初めてで、胸ドキドキだしどうにかなっちゃいそう。このままじゃ夜も眠れないよ! 夏彦くん、エロゲー愛好家のよしみでなんとかしてちょーだい!』
小学生かよ。
ちょっと褒められただけで恋に落ちるとかチョロインすぎにも程があるでしょ。
あと、俺はエロゲーやるけども愛好家なんて称号を持った覚えはない。
……つまり、なんだ。俺は二人の恋の橋渡しをしろってこと?
面倒なことになったなあ。
ま、どうせ両想いなんだからそれとなくやっておけばいいか。
むしろ神田が彼女持ちにでもなれば少しは静かになるかも。
そうと決まれば、さっそくミサキさんに神田も気があることを教えておけばいいかな。
あとは年上の経験で勝手に仲を進めてくれることを期待しよう。
調子に乗りそうだから神田には教えないけどな。




