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キャンパスガールを捕まえたい

 自宅に唐突な訪問があった。

 玄関のドアを開けると、男が一人立っている。


「ノミヤ、オープンキャンパスに行くぞ!」

「……は?」


 俺は返答も待たず、無理やり神田に付き合わされた。


 ***


 今日はちょうど此左麻このざま大学の学祭がやっている日らしい。

 俺も気がつけば二年だ。たしかに進路も考える時期だな。

 この機に大学の雰囲気というのを知っておくのもいいだろう。


「けど、神田が今から大学のことを考えているような真面目人間だったとはなあ」

「俺だって将来のことくらい考えるさ」

「で、本音は?」

「大学生のお姉さんとお知り合いになろうと」


 そんなことだろうと思った。

 オープンキャンパス自体は別に構わない。

 だが神田の思いつきに関わらない宣言をした矢先、有無を言わさず付き合わされるのはすげームカつく。


「つっても、どうやって知り合うってどうするんだ? まさか手当り次第にナンパでもするつもりか?」

「そのまさかさ。ということで早速行ってくる!」


 アホだ。本物のアホがここにいる。


「へい、そこのマブイおねーさん! 俺とお茶でもどうですか?」


 少し離れたところで、神田が本当にナンパしてるし。

 つーか言葉選びのセンスが酷すぎるだろ。マブイとか死語だぞ。

 それともウケ狙いなのか?


「君面白いねー」

「あ、興味あります? 俺と一分も言葉を交わせばそれはもう抱腹絶倒、さらなる笑いの渦にあなたを巻き込んでみせますよ?」

「あはは。でもごめん、私彼氏いるから浮気はできないかな。じゃあねー」


 さすがは大学生、余裕があるな。

 神田のナンパを軽くあしらって逃げてしまった。


「ノミヤー、フラれたー……」


 あ、戻ってきた。


「知ってる。見てたからな」


 見てなくてもわかるけど。


「だが俺は諦めないぞ! どんどんナンパしてやる!」

「お前って間違った方向に前向きだよな」


 いや、ナンパはむしろ数をこなして成果を上げるものだから神田の考え方は間違ってないか。

 でもその前に神田は下心というものを忘れた方がいい気がする。

 そうすればナンパなどせずとも女なんか見取みどりだろうに。

 イケメンで成績は常にトップ、運動神経も人並み以上……こう聞くとすごいハイスペックなのになー……。


 ふと目を離した隙に、神田は次のターゲットへと話しかけていた。


「ハロー、激マブのおねーさん。よければ俺と楽しいランデブーにしけこまない?」


 おい、さっきよりも誘い文句が酷くなってるぞ。

 本気でやってるとしたら相当重症だ。


「ごめーん、私これから模擬店の当番で忙しいの。――あ、そうだ! ちょっと君の学祭パンフレット貸して」

「え? あ、はい」

「……よし! はい、返すね。私がやってる模擬店の場所に印つけといたから、もしよかったら来てね。待ってるよ! それじゃ」


 あの女子大生やり手だな。

 ナンパを断るついでに店の顧客まで確保するとは。


「ノミヤ……あとでクレープ食べに行くぞ」

「ん? ああ、いいけど」


 神田が開いているパンフレットを覗き見ると、地図のクレープカフェと書いてあるところに星マークがつけてあった。

 ……単純なやつだな。


 さて、男二人が向かい合ってクレープを食べている光景はなんともむさ苦しいことだろうか。

 おそらくは傍からだと見るに堪えない様子となっていることは想像に難くない。

 まあ、見ているのが腐女子ならばサービスカットにでもなるんだろうが、自分と神田のカップリングなんて考えただけで吐き気がする。

 ただでさえ今は神田が口を開くたび気分を悪くしているというのに。


 俺たちはクレープを看板メニューにしたカフェの模擬店で、四角いテーブルを挟んでいる。

 そこでカフェのおすすめだというバナナクレープほおばりながら、神田の愚痴をひたすらに聞かされていた。


「だからさ、俺の何がいけないっていうんだよ!」


 神田はナンパに連戦連敗、悲しみと怒りに何度もテーブルを叩いている。

 テーブルは大学の備品なんだから大切に扱ってほしいものだ。


「やはり欲望を前面に出しすぎているのが悪いな、うん」

「お前が言うか! 俺は知ってるぞ。ノミヤが授業中にいつも横目で中条さんの胸を凝視していることを!」


 え、なんで知ってるの? 怖い。

 お前、俺の前の席だよな……というか授業中寝てるよな?


「いっそことノミヤが誰か紹介してくれりゃあいいのになあー……。ということで女子大生の知り合いいない?」

「どういうことだよ。そもそも俺に女子大生の知り合いなんて……」


 憶えている記憶の中に女子大生の知り合いなど思い至らない。

 俺が関わった年上の女性なんて、せいぜい母さんか茜の母親くらいなものだ。

 たまに図書委員の先輩と話すこともあったが、あれは知り合いのうちには入らないだろう。

 まあ、知ってても神田には紹介しないけど。


「嘘つけ、モテモテのお前のことだから一人や二人くらいいるんだろ! 女子大生の知り合いが!」

「んなこと言われてももなあ……」


 本当にいないのだ。

 生きてきた中で年上の女性なんて縁はなかったのだから。

 それはそうだ。部活はやってないし、二年に上がるまで委員会にも入らなかった。

 となると学外だが、学校の外での新たな出会いの機会なんて――


「ねえ、君」


 不意に女の人から呼びかけられた。

 聞き慣れない声だったもので、それが自分に対する呼び掛けだと理解するまでには時間が掛かった。


 声の主を見上げると、大人の雰囲気をまとう黒髪ロングが綺麗な女性がそこに立っている。

 彼女は俺と視線を合わせると、にこりと微笑んだ。

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