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美少女も歩けばナンパ師に当たる

 射的屋でのひと悶着もんちゃくが解決して、愛歌とコールマン、それと何故か神田や須藤もついて来た。

 代わりに夏穂がいなくなっていたけれども。

 そういえば射的屋にいた時からすでに見かけなかった気がするな。

 また食べ物でも買いに行ったのか?

 まあ後で千秋と一緒に電話で呼び戻せばいいだろう。


 俺たちは特に何かするでもなく、連なる屋台の前を行ったり来たりしていた。

 その最中さなか、俺はわたあめを食べながら歩いている神田に疑問を投げかける。


「ところで神田はなんでここにいるんだ?」


 俺が思うには神田は花火なんて柄じゃなかったはずだ。


「んー? 俺はナンパしに来たんだよ。ほら、まつりにゃ浴衣美人が付き物だろ?」


 まあそんなことだろうとは思った。


「首尾は?」

「……全敗」


 知ってた。


「で、傷心中のところに須藤がずけずけとやってきたわけだ」

「神田は上泉さんたちと来たのかと思ってね。まったく、違うなら違うと言えばいいのに、神田も人が悪い」

「俺は最初に一人で来たって言ったからな!?」


 神田がキレた。

 なんか神田と須藤のやりとりが容易に想像できるなぁ……。


「あれ、そうだっけか? まあいいさ、こうして上泉さんと会えたのだから!」


 須藤は大げさな身振り手振りを加えながら、猛烈に茜にアピールしていた。

 ちらちら横目で茜の様子を窺ってる様が非常にウザい。


「私も神田くんや須藤くんに会えてよかったよ。さっきは助けてもらっちゃったからね」

「上泉さんからそんな言葉をもらえるなんて恐悦至極の気分だね。惜しむらくは神田なんかと一括にされてしまったことだけども」


 なんか、とか失礼だよね。人に言えたことじゃないけど。

 多分神田だけでもあの場は収まってたからな?

 むしろ余計なのは須藤の方だ。


 ***


 俺はトイレにいた。

 花火大会を開催するに際して、会場の近くに設置された仮設トイレだ。

 つまるところ、あの変人たちを相手にし続けて花火を待つよりも先に、俺の胃腸の方が悲鳴を上げたのだ。

 そして、俺が離れたあとのあいつらのことを考えるとまた胃がキリキリと痛みだし、便座へ釘付けになる悪循環を繰り返している。


 別にいいか。あいつらのことは放っておいてもうしばらくここにいよう。

 ――そう決めた次の瞬間だった。


「お嬢ちゃんたちぃー、俺らと遊ばなーい?」

「ごめんなさい、他にも連れがいるので」


 外から声が聞こえてきた。

 ナンパか? 喧騒に紛れて聞き取り辛いな。

 よく耳を澄ませてみよう。


「そう言わずにさぁー、ほらそっちの君も」

「ちょっと、離してください!」


 ……なんかやばげな雰囲気。

 このまま無視するのも寝覚めが悪いし、助けに入るとするか。

 男なら困ってる子を助けてなんぼだよな!


 意気込んでトイレから飛び出ると、そこにいたのはチャラ男に絡まれてる千秋と早月だった。


「お前らかよ!」


 早月に至ってはナンパ二回目だぞ。

 いや、まあ小動物的な可愛さがあるからわかるけどね、うん。

 ツッコんでる場合じゃねえや。助けないとね。


「ん? あんた誰よ」


 ナンパしてたチャラ男は眉をひそめた。


「先輩!? な、なんでいるんですか!?」

「私はお兄ちゃんなら来てくれると思ってたぜ!」

「おう、お兄ちゃんだから妹のピンチには駆けつけるさ」


 偶然居合わせただけなんだけどな!


「聞いての通り、こいつらは俺の妹とその友達だ。嫌がってるんだからナンパは他でやってくれないか?」

「チッ、シラケちまったぜ」


 チャラ男はつまらなそうにどこかへ消えた。

 あっさり退いてくれてよかったな。

 あいつを血祭りに上げるのはわけないが、俺としては面倒事は避けたいのが本心だ。


「さすがお兄ちゃん!」

「一宮先輩……ありがとうございます」

「おう、お前らが変なことされなくてよかったよ。……って、早月はなんで千秋の後ろに?」


 何故か早月が千秋の陰に隠れ、顔を背けている。

 心なしか顔がほんのりと赤みを帯びていた。


「さっちゃんは最近お兄ちゃんにぞっこんだからねー。照れてるんだよ。あっ、もちろんさっちゃんにお兄ちゃんを渡す気はないけど」


 うーん、お兄ちゃんは早く兄離れして欲しいんだけど。


「なっ、バカ千秋! 誰も一言もそんなこと言ってないでしょ! 先輩、ダメですよ千秋の言うこと信じちゃ」


 早月はというと、千秋の言葉をまくし立てるように否定した。

 あわてふためく姿かわいいなあ。


「えー、でもさっちゃんって前からお兄ちゃんの話題になるとすぐニコニコしながら話してたよ? 今日なんかずっとお兄ちゃんの話ばかり……お兄ちゃん、一体何したの?」

「何故そんな汚物を見るような目で兄を見る」


 千秋は早月の態度が急変したからか、俺のことをいぶかしんでいる。

 特に早月に何かしたわけじゃないんだけどなあ。

 記憶に新しいのは早月を抱き締めて慰めたくらいで……あ、してるね。早月の態度が変わるようなこと。


「こんな美少女二人から好かれるなんて、お兄ちゃんは果報者だねい。だからさっちゃんとはこれからも恋仲にならない程度に仲良くするんだよ」

「がってんだ」

「勝手に話を進めないでください! 先輩の鬼畜! シスコン! 年下フェチ!」

「俺は鬼畜でも年下フェチでもねえ!」


 そもそも年下フェチって悪口だったの?

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