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浴衣は祭りの勝負服

 部屋でエロゲーをやっていたとき、千秋が部屋に押しかけてきた。


「お兄ちゃーん! お兄ちゃん、お兄ちゃん!」

「なんだ騒々しい。エロゲーならやらねえぞ」


 慌ててゲームを終了し、ドアの方へと目を向ける。

 そこには唇をとがらせた手ぶらの妹がいた。


「もう! お兄ちゃんってば、私だって朝晩通してエロゲーのこと考えてるわけじゃないんだからね!」

「えっ、違うのか!?」

「違うよ!? 私のことをなんだと思ってるの!」

「何って……」


 変態エロゲーオタクブラコン女に決まってる。


「今日はゲームの話じゃなくって……これから花火大会があるから一緒に行かないか誘いに来たんだよ」

「これからって、今日?」


 そういえばもうそんな時期だったか。

 しかしまたずいぶんと唐突だな。

 普通は事前に予定とか聞いたりしないかなあ?


「うん。お兄ちゃんどうせ暇でしょ」

「ぐっ! 失礼極まりないけど否定できないのが悔しい!」

「だから一緒に行こうよ。夏穂ちゃんと茜姉も誘ってさ」

「ハァー、しょうがねえなあ。準備するからさっさと出てけ」

「はいはーい。支度終わったら家の前で待っててー」

「あえて外で待たせる理由がわからな……ま、いっか。なるべく早くしろよ」

「善処します!」


 元気のいい受け答えだけど、それノーと同義語だよね?

 ……諦めて着替えるか。


 出かける準備を済ませ、千秋たちを待つ。

 ……俺は今まで生きてきた中で善処するといって善処した人間を見たことがない。

 ただ待っているのも手持ち無沙汰なので、暇つぶしにソシャゲでもやろうかとスマホを取り出したと同時に家のドアが開いた。

 スマホの時刻表示を見ると二十分以上も待たされたようだ。


「お兄ちゃんお待たせ―。ごめんね、ちょっと着付けに戸惑っちゃって」

「遅いぞ。いくらなんでも時間かかりすぎ――」


 やっと出てきた千秋を見たところで言葉に詰まった。

 千秋の浴衣姿に思わず見とれてしまっていたのだ。


 か……可愛いじゃねえか。

 いつも千秋をブラコンとかバカにしているけれど、俺も大概シスコンなのかもしれない。


「ちょ、ちょっと叔母さん! 少しくらい待ってもいいのに!」


 遅れて夏穂がやってくる。これまた浴衣姿だ。

 前に旅館で見た地味なのとは違い、女性らしいおしゃれ浴衣である。

 夏穂の方も浴衣よくえていた。

 千秋も夏穂もいつもより綺麗に見える。


「お父さん黙っちゃってどうしたの? 私の浴衣姿に見とれちゃうのは分かるけど、ぼうっとしてたら花火始まっちゃうよ?」

「はあっ!? お兄ちゃんが見てたのは私だから! 夏穂ちゃんにはまだちょっと教育が足りなかったかなあー?」

「ヒイイッ!?」


 ……口を開かなければ、を付け加えておくか。


「なんて、夏穂ちゃんの言う通り時間もないからね。じゃあいこっか、お父さん」

「あ、ああ。……って、茜はどうするんだ」

「茜姉なら放っといても追いついてくるでしょ?」

「あ」


 ……確かに。


「……ふうー……助かった」

「夏穂ちゃんは帰ったらお仕置きだから」

「ぎゃあああ!」


 悪いな、夏穂。

 千秋が本気を出したら俺にも止められないんだ。

 ったく、テレキネシスが使えるなんてファンタジーでもないのにどんなチートだよ。

 ……お前が言うなという声が聞こえてきそうだな。


 まだが日が沈みきらない内に、花火大会が開催する河原へとやってきた。

 花火が打ち上がるのはまだもう少し先だが、周辺はすでに飲食やちょっとしたゲームの屋台がにぎわいを見せている。


「相変わらず人多いねー」


 千秋が人だかりを見て感嘆する。


「ああ。やっぱ夏といえば花火と祭りだからな」


 この花火大会にはたまに訪れるけれど、千秋の言う通りいつ来ても混んでいんだ。

 若者なんかは家にこもりがちの現代には珍しく、人の出入りに衰えを見せることを知らない。


「あ! お父さん、金魚すくいあるよ! やってかない?」

「夏穂、お前はいったいいくつだよ」


 高校生にもなって金魚すくいではしゃぐとか恥ずかしくないのだろうか。


「だって一緒に金魚すくいとか親子の団らんっぽくない?」

「はいはい。じゃあ後でな」


 この年になって金魚すくいなんて少し恥ずかしくはあるがまあいい。

 それよりも夏穂の口ぶり……やっぱり未来での俺は父親らしいことをしてなかったのか?

 ま、未来は未来、今は今だからな。

 俺は今のことだけ考えていればいいか。


「いっぱいお店あるねー。あっ、夏彦くん見て! たこ焼き屋さんだよっ! 後で食べさせあいっこしよう」

「茜……いつの間に」


 この場にいないやつの声がしたので聞こてきた方を向くと、千秋や夏穂と同じく浴衣姿の茜がそこにいた。

 茜は(外見だけは)典型的な和風美人なので浴衣が似合わないはずがない。

 認めるのはものすごーく不本意だけども、今日は美しいという形容詞がよくあてはまっていた。


 茜はさっきまでは姿を見せていなかったのに、今はしれっと俺の腕を掴みながら歩いている。忍者恐るべし。

 あと食べさせあいっこはしません。


「あぁっ! 茜姉なんで腕組んでんの!? 茜姉といえど抜け駆けは許さないよ!」

「叔母さんの言う通りです。即刻その手を放してください」

「抜け駆けじゃないもん! 夏彦くんのお嫁さんは最初から私なんだから! ……絶対」


 本当に賑やかだなあ……。

 嗚呼ああ……胃が痛い……。

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