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遭難、絶海の孤島……?

 目が覚めるとそこには爽やかな青空が広がっていた。

 雲一つない空は海を越えても無限に続いてるのではないかと錯覚するほどに広大だった。

 …………ん?


「いやおかしいだろ!」


 しまった。

 あまりの衝撃に誰もいないのに声を大にしてツッコんでしまった。

 だって夜にはコテージで寝ていたはずなのに、いつの間にか野外にいるんだもの。


 いやいや、寝ている間に外にいたということはあるまい。

 まずは状況を整理してみよう。

 何か大事なことを忘れているのかもしれない。


 第一前提として俺は目覚めるまではコテージにいた。

 はたしてそうだろうか。


 そういえば少し前に一回目が覚めたような……。


 ***


 微睡まどろみの中でおぼろげながら物音が聞こえた。

 眠気でまだ重たいまぶたを気合で持ち上げると、すでに寝間着から着替えた神田がいた。

 もうそんな時間なのかとスマホで時計を確認すると、まだ六時にもなっていない。


「……まじで朝早いのな」

「ノミヤも起きたか。おはよーさん」

「おう。で、どこか行くのか?」

「ああ、まだみんな寝てるから時間つぶしに釣りでも行こうかとな。中条さんの執事に相談したら釣具を用意してくれたんだよ」

「あの人はどこの青だぬきだよ……」


 本当になんでも出てくるよな。

 頼めば銃火器ですら用意してくれそうな気さえする。


「せっかくだしノミヤもどうだ?」

「ふむ……」


 釣りか。

 やったことないからよくわからんが、興味はある。

 起きていたってどうせやることはないのだ。

 ならついて行ってもいいかもしれない。


「じゃあ俺も行こう」

「よし来た! いい釣り場を教えてもらってるから早速行こうぜ」


 俺は神田から釣具を受け取り、海へと向かった。


 ***


 ……そうだった、たしか神田と釣りをしていたのだ。

 けどその後の記憶がさっぱりない。

 海に落ちて流されたのか?

 とりあえずここがどこか知る必要があるな。


 俺は千里眼で自らを俯瞰ふかんする。

 人工衛星での撮影のように、最初は俺にズームしている視野の拡大倍率を下げていく。

 そして、地形がくっきりと認識できるほどになったところで気がついた。……俺は孤島にいることに。


 続けて千里眼で島の探索もしてみたが、人の住んでる様子はなかった。

 どうやら俺は無人島に漂流したらしい。


「マジでシャレになんねえ……」


 スマホは部屋に置いてきた。どうせすぐに戻るからと油断していた。

 カバンは持っていないし、寝間着から着替えてから接触した人間は神田だけなので発信器や盗聴器の類も仕掛けられていないはず……だよね?

 つまり外界と完全にシャットアウトされた孤立無援状態だ。

 あれ? これ詰んだくさい?


 いや、諦めるな夏彦よ。

 こういう時こそ現代社会では無用の長物となった忍者スキルが活きる時じゃないか。

 幸いなことに手裏剣も持っている。ナイフ代わりやピッケル代わりにもなる優れものだ。


 まったく、俺にいろいろと仕込んでくれた茜の親父さんには感謝しなきゃいけないな。

 あの化物を生み出した張本人でもあるから恨んでもいるけどな。


 じゃあまず何をしようか。


「砂浜にSOSでも書いてみるか」


 まあ遭難のベタだよな。

 実際にやったとして発見してもらえる確率は極めて低いなんて聞いたことがある。

 だけど何もしないよりはマシだろう。


 思い立ったが吉日で早速書いてみたのだが。


「ハァ……ハァ……思った以上にきつい……」


 これが結構な重労働だった。

 空から見えるには想像以上に大きく、深く砂を掘らないといけないので運動不足の現代っ子にはすごく辛い。


 にしても、千里眼っていうのは本当に便利ね。

 どれくらいなら空から見えるか試すのにも使えるし汎用性高すぎるぜ。

 なんというか俺、全能感に満ち溢れている。

 今なら無人島とか余裕な気がする!


 なんかもうここで暮らせそうな気がするわ。

 となれば必要なのは衣食住。

 一番重要な食い物から探すことにしよう。


 浜辺に隣接した森を分け入り、木の実や野草を探してみる。

 食えるもんとそうでないものを知っておくのは重要なことだ。

 前に読んだサバイバル読本で書いてあったように、野草などは毒がないかを手当り次第検証していく。


「……今日はこれくらいでいいかな」


 大体食用になりそうな物に当たりはつけられた。

 うん、これいけるわ。

 むしろここで暮らせば面倒くさい人たちから解放されるのでラッキーかもしれない。


 俺は喜びのあまり今にも走り出しそうだった。

 もちろん止める人もいないので俺は走り出す。

 あの太陽に向かってどこまでも!

 俺は今自由なんだ――


「あれ? お父さん何やってるの?」


 ……おかしい。

 ここは無人島だったはず。……なのに何故夏穂がここにいるのだろう。


「そうか、これが幻覚か……。初めて見た」

「……お父さんは何を言っているの?」


 夏穂が呆れ顔をする。

 ……再現度高いな。幻覚ってすげー。


「まったく、船を降りた途端勝手にいなくなっちゃうんだから」

「……え? 船?」


 バカな、俺は船なんて乗った覚えはまったくないぞ……っていってもここに来るまでの記憶はあやふやだけど。

 まあ、所詮俺の幻覚が話していることだ。まともに取り合うだけ無駄――


「ほら、あそこに泊まってるでしょ?」


 夏穂が指さす先には船がいた。

 いやいやいや、あれも幻でしょ? そんな都合よく船がいるわけないもんね。

 でももしかしたら違うかもしれないから一応確認しておくか。


「ちょいと失礼」


 夏穂の肩をつかみ、揉んだりしてみる。

 うむ、ちゃんと感触があるな。


「えっ、なにどうしたの?」

「ん? ちゃんと実体があるなあ……って」

「そりゃあるよ! 一体私をなんだと思ってるの!?」

「父親と結婚するためにわざわざ過去をさかのぼったサイコ娘だろ」

「娘を精神異常者扱いするのはどうかと思うの……。でもお父さんは好きだから許しちゃう!」


 クレイジーサイコファザコンめ。

 だが実体があることでこいつは俺の幻覚じゃないことが分かった。

 となれば次に聞くことは一つだ。


「……で、ここはどこなんだ?」

「お父さん覚えてないの?」

「ああ」

「私が発信機を仕掛けようとしたのに気がついて逃げ出したことも?」

「何やってんのお前!?」


 何が勝手にいなくなっただ。お前のせいじゃねえか!

 人に責任転嫁すんなよ。


「まあまあ、落ち着いて。ここは中条さんの家が所有している島で、みんなであの船に乗って遊びに来たんだよ」

「やっぱそんなオチかよ!」


 いや、まあ船のあたりで大体予想してたけどね。

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