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産地直送かもしれない

「さあ中条さん、私に豪華賞品とやらをよこして!」


 中条家主催のビーチバレー大会に優勝した茜が、愛歌に詰め寄って賞品を催促した。

 目に見えて勝ち誇った態度の茜に、愛歌はというと受け流すような冷めた対応をする。


「ふふ、さすがは下卑た平民たる上泉さんですこと。すぐに賞品を要求するその短期っぷりと来たら卑しいことこの上ありませんわ」

「なに、負け惜しみ? それもそうだよね、私たちから二点取られただけであっさりと負けを認めるしかない実力差だったんだもんね。逆転しようって気概もない根性なしだったんだもんね。悔しいよねえー?」


 普段から平民とバカにされている仕返しか、茜はここぞとばかりに愛歌を全力で煽る。

 マジでこいつ性格悪いな。

 幼い頃の純真無垢な茜はいったいどこへ消えてしまったんだ。


「というか、茜。その煽り文句だと俺はお前と戦いもせずに棄権した臆病者ということになってしまうんだが」

「夏彦くん!? ごめん、私そんなつもりじゃなくて……そう! 夏彦くんは相手の力量を正確に見極めることができる堅実さがあるからそこの根性なしとは違うんだよ!」

「どうあっても俺が勝てないこと決定事項なのな」


 まあ事実だから文句のつけようもないけど。

 俺じゃなくてもあんな人間離れした技見せられた後で試合を続けようなんて人はなかなかいないと思うけどな。


「先ほどから言わせておけばずいぶんと調子に乗っているようですが、この大会はわたくしの家が主催しているということをお忘れになっていないかしら。わたくしの口先一つであなたの優勝など簡単になかったことにできるのですわ」

「うっわ、試合で勝てないから結果を改ざんとか汚すぎ」


 茜は愛歌を批判するけれど、俺は別に取り消しても構わないと思うな。

 茜が人間の土俵で戦うのは徒競走にジェット機が参加するようなものだ。

 これは言うまでもないレギュレーション違反に違いない。


「あくまでそういったことができると示しただけで、実際にやるとは言ってませんわ。それに上泉さんのような心の貧しい方にはせめて物質的な豊かさだけでも差し上げないと可哀想ですからね」

「なに、また負け惜しみ?」

「あら、皮肉も理解できないなんて貧しいのは心だけじゃなく知能もでしたかしら」


 マジで喧嘩が収まらねーな。

 放っておいたら日が回るまで続けるんじゃねえか?

 おい、誰かなんとかしてくれ。


「上泉さんも中条さんもその辺にしておこう? ほら、せっかく遊びに来たんだから喧嘩なんかしないで楽しまないと」


 ふみのん!

 君ならやってくれると思ってたぜ。


 文乃の仲裁のおかげでとりあえず喧嘩は収まった。

 が、まだ刺々しい空気は残っている。


「今回は佐々木さんの顔に免じて身を引きましょう。感謝するといいですわ」

「ふん!」


 愛歌の高圧的な態度に対抗するように茜もそっぽを向く。

 何が身を引くだ。全力で喧嘩売ってるじゃねえか。

 あーもう、胃が痛え……。


「中条さん! またそういう事言って空気を悪くするんだから。止めるこっちの身にもなってよね」


 文乃さんまじありがてえ。

 文乃は俺の心の癒やしだ!


 ……って、あれ? なんか文乃が顔を赤くしてこっちを睨んでるような……。

 もしかして俺が何もせず二人を放ったらかしにしたのを怒ってるのだろうか。

 でもしょうがないよね、なんかあの二人怖いし。


「……一宮くんって、敏感なんだか鈍感なんだかよくわからないよね」

「なんか俺ディスられてる!?」


 一言もしゃべってないのに何が悪かったんだろう。

 ハア……女心はようわからん。


 ***


「本当はものすごく不本意ですが、上泉さんが優勝したのは事実ですからね。優勝賞品の贈呈を致しましょう。……コールマン!」

「はっ!」


 愛歌が指を鳴らすと、ワゴンを押しながらコールマンが出現した。

 あんたステルス迷彩でも装備してたの?

 茜並みの神出鬼没っぷりなんだけど。

 それと、どうでもいいけど砂浜でワゴンとか押しにくそうだな


 コールマンが押すワゴンの上には三つのあれ……パーティ会場で見るような料理に被せる銀色の半球が並んでいた。


「さあコールマン、そのクロッシュの中身を見せて差し上げなさい」


 あれってクロッシュって言うんだ……またどうでもいい知識が増えちまったぜ。


「ビーチバレー大会優勝賞品は――高級タラバガニに三杯にございます」


 開かれたクロッシュの中から現れたのはかに、カニ、蟹。……正確にはヤドカリだけど。

 三杯のカニは高級と銘打つだけあってでかく、見ているだけでも重量感が伝わってくる。

 身がぎっしりと詰まってそうなそいつらに思わずよだれが垂れてきそうなくらいだ。


「カニ、いいなあ……。上泉先輩羨ましい……」


 美味そうだと感じてるのは俺だけではなく、早月も羨望の眼差しを向けていた。


「カニ好きなのか?」

「あ、一宮先輩。……そうですね。好きというかうちの経済状況的にあまり高い物を食べる機会がないので」


 そうか、早月の父親は入院しているんだったな。

 となれば早月の母が収入を支えているのだろうし、父親の入院代もそれなりにするはずだ。

 だから早月の家庭は裕福とは言い難いんだろう。


 そう考えると高収入の裏稼業と、全国にある忍術教室の月謝でかなりの資産をお持ちの上泉家のお嬢さんより、早月にこのカニを全部差し上げたいなんて思ってしまう。


 だがこれは茜が勝ち取ったカニだ。

 俺があれこれ言うのは筋違いってもんだ。


 なんて考えていたのだが、俺と早月の会話を聞きつけたのか茜が寄ってきた。


「塚原さん、これ欲しいの?」

「えっと、そういうわけじゃ……」

「じゃあ今夜はみんなでカニしゃぶにしよう!」

「え、いいんですか!?」

「どうせこんなにもらっても食べられないからね。こんなにあるんだし、せっかくだからみんなで食べようよ」


 今夜の夕食が決定した瞬間だった。

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