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逃げるその前に

 結局夏穂は部活には入らなかった。

 俺はもとより入る気がなかったから、じゃあ私もということらしい。

 そして、俺達は改めて下校をしていた。


「予想外だったよ。お父さんと塚原さんがすでに知り合ってたなんて」

「どういうことだ?」

「私の聞いた話だと、二人が会うのはもう少し先の話だったから。これでいよいよ動き辛くなったよ」

「というと早月の能力のことか?」

「うん、そうだけどナチュラルに塚原さんのこと下の名前で呼んでるね。本人に注意されたのに」

「どうせフラグ立つんだからいいだろ、別に」


 むしろ名字呼びから名前呼びに変える時恥ずかしいからね。

 元から名前で呼んでれば羞恥心など何のその。


「フラグ立つかどうかはお父さんの行動次第だと思うよ。明らかに塚原さんはお父さんへの好感度低いし」

「まじか。勝手に立つんじゃないのね」

「本来なら順調にフラグ成立してたけど、歴史が所々変わってるみたいだから。多分私の干渉によって不確定な可能性世界の揺らぎが大きくなってるんだと思う」


 つまり夏穂が来なければ俺が早月に変態の烙印を押されることもなかったということか。

 マジで何しに来たのこいつ。


「で、結局早月の能力って何なんだよ?」

「さて、何だと思う?」

「うーん、分からん」

「お父さんもあの人の近くにいたなら何か感じることがあったと思うんだけど。小さなことでもいいから変わったことはなかった?」


 変わったことねえ……。

 ……そういえば、昼休みに同じ場所に居続けたのに魔王ストーカーがやってこなかったな。


「わかったぞ! 変人を無力化する能力だな!」

「あながち間違いじゃないんだよなあ」


 え、そうなの?

 半ば冗談で言ったのに。


「正確に言えば超能力を無効化する能力だね。お父さんの千里眼もあの人の近くでは使えなかったはずだけど気が付かなかった?」

「俺はこの能力はあんま使わねえからな」

「あれ、そうだっけ? ま、いっか。厄介なのは超能力者ありきの能力だから本人が自覚してないことだね。無意識に力を行使されると対策も難しいし。あとは塚原さんの体調によって効果範囲の強さが変わったり……まあ、お父さんも注意しといた方がいいよ」

「留意しておこう」


 というか、かの魔王の化物じみた察知力もやはり超能力のたまものだったのか。

 怖いから偶然だと思ってたけど。

 これから昼休みは早月の近くにいようかな……ってこれじゃ俺がストーカーじゃねえか。


「ままならないよねえ、ああいう人がいると。記憶操作も塚原さんの前にはガラクタみたいなもんだし」

「早月は無理としても、記憶操作で俺の嫁候補と俺とのフラグを潰したりしないのか? 殺人よりよっぽど健全だと思うんだが」


 むしろそうして。

 極悪非道には変わりないけれど死人が出るよりは幾分かマシだ。


「そうしたいのは山々なんだけど、私の記憶操作能力って基本的に相性悪いんだよね……お父さんの嫁候補とは。思い込みが激しいせいで改変した記憶すら自分の都合のいい方に持っていく人とか、操作された事実を認識できる人とか、そもそも能力が効かない人とか」


 夏穂はイラつきと呆れの混じったため息をついた。


「……あー、個性豊かだよな」


 夏穂の話を聞いても俺の周りには奇人変人ばかりである。

 目の前の女がその変人の筆頭だけど。


「本当にね。そういう面でも不利なんだよね。記憶は変えられても感情までは動かせないから」


 嘘の記憶じゃ動じないほどの愛か。

 ……愛が重い。


「とにかく人殺しはやめてね。というか、初めて会った時殺人予告なんてして俺からの印象悪くなるとか考えなかったの?」

「それこそお父さんの記憶いじっちゃえばいいからね」

「……もしかして俺ってすでに何回か記憶操作受けてたりする?」

「さあ? あ、そうだ。お父さんの嫁候補を全員始末した後にお父さんの記憶を変えればいいのかな!」


 なんて恐ろしい発想をするんだこの娘は。

 ここは父親として責任をもってさとさねば。


「あのなあ、お前が言うに感情までは操作できないんだろ? いくら娘でも殺人犯になれば俺は軽蔑するぞ」

「――大丈夫だよ」

「え?」


 俺が夏穂の顔を見ると、夏穂は真剣な目をして繰り返す。


「大丈夫。それでも、お父さんは私を嫌いになりきれないから。だって血の繋がった実の親子なんだから」


 不安に――不意に大きな不安に駆られた。

 夏穂の盲信的とも思える信頼が俺に父親を強く意識させた。

 会って間もなく、当然の話だが俺はこいつを友達感覚でしか見ていなかったんだ。

 けど、違う。高校生の未熟な精神にはこいつの想いは重すぎる。

 こんな俺でも父親となれるのだろうか。


「お父さん?」


 夏穂が心配そうにこちらを見つめている。


「あ、すまん。ちょっと考え事を――」


 ちょっと考え事をしてた――そう言いきる前に視界が暗転した。


「ちょっと! 待ってお父さん!」


 呼び止める夏穂の声が遠くなる。

 今はどんな状況だ?

 考えようにも激しい揺れに思考がまとまらない。

 けれど、一つ分かることがある。

 ――俺は今、誘拐されている。

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