ビーチバレートーナメント終幕
「解説、須藤さんに代わりまして一宮千秋さんです」
「千秋です、よろしくお願いします!」
千秋ちゃん、なにやってるの?
バカが移るから早く戻ってきなさい。
もう手遅れかもしれないけど。
「今回の対戦カードは中条・佐々木ペア対須藤・上泉ペアですね。さて、この試合どう見ますか?」
「そーですねえ、予想通りに行けば最大の注目株である上泉選手の独壇場となるでしょう。てか、身体能力に関してはぶっちゃけ普通の人間で茜姉に勝てる人いないでしょ」
「千秋さん、解説者として身も蓋もないことは言わないでください。では、第二試合開始……の前にとりあえずCMです!」
えっ、CMあるの!?
「テレビの前のみんなは今のうちにトイレ行っとけよ!」
「千秋さん、スポンサーから怒られるような発言は控えてください」
えっ、スポンサーいんの!?
そして、しばらく謎の間がある。
本当にCMやってんの?
「中条さん、私運動苦手で足引っ張っちゃうかも……」
「心配いりませんわ。わたくし、こう見えても体を動かすのは得意ですの。でもわたくしも完璧ではありませんわ。ですからその不足分をあなたが補ってくださる?」
「うん……! 頑張ってみる」
CM(?)の間に愛歌と文乃が話し合っていた。
愛歌が運動が得意なのは本当だろう。
時折、体育で女子の授業を眺めていた時には愛歌はクラス内でも抜群の身体能力を発揮していた。
だがそれも人間基準の話だ。
とうの昔に人間をやめている茜の相手が務まるかといえば疑問が残る。
「まもなくCM明けまーす」
カメラマンの隣にいる帽子の男から説明が入った。
……いや、誰だあんた!?
よく見ると彼が着けている腕章に中条グループと印刷されたあった。
……あぁ、そうですか。
「さあ、第二試合開始です!」
CMが明けて、神田の声高な宣言とともに第二試合が始まった。
最初のサーブ権は愛歌だ。
「いきますわ!」
経験者と比べても遜色ない味のいいサーブだ。
しかし、コート前方に位置していた須藤が高い身長を活かしてブロックを決める。
当然、運動音痴を自称する文乃がすぐ跳ね返ったボールに反応するのは難しく、ボールは綺麗にコート内に落ちた。
「まずは須藤選手、幸先のいい先制だ!」
「後攻ながらにブロックで攻めの姿勢を見せるプレイスタイルは個人的に好ましいですね」
お前格ゲーでもまったくガードしねえもんな。
相手に主導権渡すと巻き返せないからクソ雑魚だけど。
千秋の格ゲーは置いといて、次のサーバーは茜だった。
……なんか、俺の第六感が嫌か予感を告げているんだけど。
ところで、普通のバレーボールとビーチバレーの大きな違いといえばやはりボールだろう。
ビーチバレーのボールは普通の物より柔らかいらしい。
普通のバレーよりプレイヤーの少ないビーチバレーではラリーが続きやすいようにボールに力を伝えにくくしているんだとか。
となれば当然、バレーボールで見られるような強烈なスパイクは出し辛い。
出し辛い……はずである。
さて、茜のサーブが始まる。
アニメの表現とかで素早い動きをすると逆に遅く見えるなんてものがあるけれど、まさに茜の動きはハイスピードカメラで捉えたように緩慢としていた。
「ふふ、どんなボールだろうと返して差し上げますわ。中条流格闘術はさまざまな格闘技を取り入れた総合武術。単なる力技なら太極拳の円の動きで無力化することも容易い……」
愛歌はおよそビーチバレーでするものではない構えを取った。
真っ向から立ち向かう気だ。
――いや、それはまずい。
「ダメだ愛歌! よけろ!」
「え?」
俺が叫ぶと同時に、茜からボールが射出された。
茜の動きはゆっくりと、だけどボールはその形すら目で捉えることができない。
ライフルの弾丸よりも速いビーチバレーボールはその場にいる全員が何が起こったかを理解できないうちに砂浜に着弾した。
天高く舞う砂塵がほとんど地面に落ち終わり、視界が開けた頃に俺たちはようやく今の出来事を頭で理解した。
そこにあったのは隕石が落ちた跡と見紛うようなクレーターと、摩擦熱によって焼け焦げた一つのボールだった。
……ビーチバレーってスパイクは難しいんじゃなかったっけ。
そもそもスパイクってなんだっけ。
「か……上泉さん……何あれ……?」
あれだけ茜に心酔していた須藤ですらドン引きするほどだ。
いかにこ意味不明なことが起こったかのかがわかる。
「今のはスパイクじゃない……サーブよ!」
「…………棄権しますわ」
ビーチバレー大会は二試合目にして須藤・上泉ペアが優勝した。
茜・エクス・マキナ。




