ギャップ・オブ・ザ・バスト
「はあ……疲れた……」
須藤から受けた誤解を解くのに力使い果たした俺は、力なく寝そべって浜辺で遊ぶみんなを眺めていた。
あんなにも生き生きしてる神田は初めて見たな。
水着女子たちと遊べるのがそんなに嬉しかったか。
じゃああいつらのことは神田に任せ、俺は一人でゆったりするか。
「隣、いいですか?」
……どうやら一人でゆったり、というのは叶わないようだ。
「……早月か。お前は遊ばないのか?」
「あまり体力使いたくないんですよ。今日は千秋に無理やり連れてこられただけですから」
「もうすぐインターハイだったか。にしてはしっかりと水着に着替えてるようだが」
しかし早月の体というのはどこもかしこも細っこい。
肌が露出することで改めて栄養が足りてないじゃないかと感じてしまう。
「じろじろ見ないでください! 先輩の変態!」
「事実無根だ!」
見てたけど。
「私は汚れてもいいように着替えてるだけです。大体、先輩だって気合いの入ったウェットスーツ来てるくせにここで寝ているだけじゃないですか」
「俺は見ているだけでいいんだよ。泳いだりするの疲れるし」
「何を子どものつきそいで来たお母さんみたいなことを言ってるんですか」
早月は呆れたようにため息をついた。
そんなこと言われても水着の女の子見に来ただけだし。
それから、会話が止まる。
ただ、二人で遊んでいるやつらの方を眺めていた。
そんな中、時折聞こえてくるさざなみの音に早月のため息が混じる。
早月も本当は遊びたいのだろうか。
それとも待ち受けるインターハイからの緊張か。
なんとなく居心地が悪くなって何か話しかけようかとした矢先、早月の方から沈黙を破った。
「先輩……私、ずるいと思うんです。上泉先輩の胸って、あれ完全に詐欺じゃないですか?」
早月は不機嫌そうに茜を指差した。
えっと、もしかしてため息の理由はそれですか?
あんな悲壮感を醸し出しといて?
「茜は普段はさらしで押さえつけているらしいぞ。なんか胸大きいと揺れるから動き辛くて不便なんだって」
「それは私に対する嫌味ですか?」
早月の表情が強張る。
俺は悪くないよね?
ありのまま伝えただけなんだからそんな怖い顔で睨まないでよ。
「俺に言われても……あっ、俺は早月の慎ましやかな胸も結構味があっていいと思うぞ」
「先輩……っ! 弁護士の用意はできてますか?」
「ごめんなさい、許してください」
セクハラ、ダメ絶対。
***
「お兄ちゃん、ビーチバレーしようぜ!」
千秋がボールを小脇に抱えてやってきた。
「面倒くさいからパスで」
「とか言って、本当は負けるのが怖いんじゃないのー?」
千秋はニヤニヤと憎たらしい顔をする。
ふん、誰がそんな安っぽい挑発に乗るものか。
「……言ったな? やってやろうじゃねえか!」
俺です。
「よし決まり! さっちゃんも一緒にどう?」
「えっ、私? うーん……」
「いいんじゃないか? 泳ぐのと違って大会に支障が出るほど疲れはしないだろ。せっかく海に来たんだから遊ばなきゃ損だぞ」
ただ何をするでもなくここでだらつくなんて時間がもったいない。
青春の無駄遣いにもほどがあるぜ。
「ぜひその素晴らしいお言葉を数分前の一宮先輩に聞かせてやりたいですね。でも、いいでしょう。先輩の言うとおり、ただ何もしないというのもつまらないですし……ということで千秋、ビーチバレーくらいなら私も参加させてもらうね」
「だよね、さっちゃんならオーケーしてくれると思ってたよ。人数は多い方が盛り上がるからね」
千秋は嬉しそうに振り返ると、波打ち際の方で遊んでいたみんなに手を振った。
「お兄ちゃんとさっちゃんも参加だってー!」
千秋から発せられた報告にみんな(主に女子)から多大なる歓声をいただいた。
まるで売れっ子アイドルの気分だぜ。
でもなんでだろう、あんま嬉しくねえ。
「てか、全員でやるの?」
てっきり何人かで軽くやるもんだと思ってたけど。
「何言ってるの、真剣勝負のがちんこトーナメントだよ。優勝ペアには豪華賞品もあるんだから」
「すまん、意味がわからない」
「神田先輩がただやるだけじゃあ盛り上がりに欠けるなんて話してたら、それを聞いた中条先輩が賞品を出そうってことになったんだよ」
さすがはお嬢様。
よくもまあポンと賞品出すなんて言えたもんだ。
「で、その豪華賞品ってなんなの?」
「ふっふっふ……よくぞ聞いてくれたね、さっちゃん。豪華賞品とはなんと!」
「「なんと?」」
「私も聞いてない!」
「聞いてねえのかよ!」
「千秋に期待した私がバカだった……」
「でも中条先輩のことだからいい物なのは間違いないと思うよ」
たしかに。
むしろ下手に賞品の内容を教えるより、こうやって期待を持たせた方がプレイヤーのモチベーションは上がるのかもしれない。




