ドキッ! 男だらけの水着大会!
女子の水着姿というのは健全な男子高校生にとって大きな興奮材料となるだろう。
俺は待ちに待った今日、それを拝むことができる。
ここは人が内なる己を開放するため、邪魔な衣服を取り払って水着へと着替える場所。
風が吹くたび揺れる水面、響く水音。
目の前に広がるは青い空、白い砂浜、そして――透き通るような広い海――――
「プールじゃねえのかよ!」
例のごとくコールマンが運転するリムジンでこのビーチに連れてこられ、開口一番にツッコんだ。
ねえ、プールはどうしたの?
水着が拝めればいいので文句はないが、いきなり予定から外れてびっくりしたわ。
「すごいねー。こんな眺めのいい海なのにまったく人がいないよー」
近くで文乃が目を丸くしていた。
彼女もプールに行くのに誘ったら二つ返事でオーケーしてくれたのだ。
俺の目的からしても女子の人数が多いに越したことはない。
プールじゃなくて海だけど。
「残念ながら中条家のプールは定期メンテナンスで使用できなくなっていますの。まさか千秋さんの補習がこんなに長引くとは思っていなかったものですから」
「長引くだなんて失礼な! ちゃんと予定通りに終わらせてきたんですから。全教科やったから他の人よりちょっと時間がかかっただけです!」
「千秋ー、威張ることじゃありませんよー?」
大抵の生徒は夏休みに持ち越してまで補習なんか受けないというのは知らないのだろうか。
先生たちの熱心なサポートによって普通は終業式までに終わらせてくれるのに。
「ですのでプールは使えませんでしたが、代わりに中条家のプライベートビーチに招待いたしましたわ!」
「おおー、むしろセレブ感上がっていい! 私のおかげだよね、お兄ちゃん?」
「開き直ってんじゃねえよ」
「あはは……勉強はちゃんとやらなきゃね。今度私が教えてあげるよ」
ふみのん頼んだ、このバカをなんとかしてやってくれ。
いやしかし、千秋のおかげとは毛ほども思わないが、夏休みに海というのもなかなかに風流なんじゃないだろうか。
プライベートビーチゆえに人の多さにわずらわされることもないし、これはこれでいいな。
「荷物や着替えなどはあちらのコテージを自由にお使いになるとよろしいですわ。わたくしも水着に着替えるので……覗きに来てもいいんですのよ?」
「い、行かねーよ!」
俺には愛歌のヌード写真があるので一々覗きに行く必要はない。
いや、写真と生は別物だろうけど行ったら面倒なことになりそうだし。
変な邪念は取り払って俺も着替えてこよう。
***
「遅いぞノミヤ! 何してたんだ」
「ふん、大方あのお嬢さんに鼻の下でも伸ばしていたんだろう」
着替えに使っていいと言われて通されたコテージには、すでに水着に着替え終えた男が二人いた。
「神田はまだわかるとして、なんで須藤までついてくるんだろう……」
最近こいつの顔をよく見るようになったが、何が悲しくて男にストーキングを受けなければならないんだ。
「なぜ僕がここにいるかって? そんなの上泉さんの手下だからに決まってるじゃないか!」
「理由になってないぞ」
「上泉さんの最優先監視対象である一宮が海に行くと言うのなら、上泉さんの手下の僕も同行するのは当然の論理だ。僕は上泉さんのためだけに動いているからな!」
「茜だけでも面倒なのに、これ以上俺から安らぎを奪わないで」
もしかして茜をストーカーさせてた方が平和だったのかな?
なんか今になって後悔してきたぞ。
「上泉さんを面倒だなんて何様のつもりだ! 大体上泉さんを放って中条さんと話し込むなんてどうかと思うぞ。車の中でだって佐々木さんや中条さんとばっかり話して、君の人間性の矮小さにはほとほと呆れるよ。男として恥ずかしくないのか」
「恥ずかしいもなにも、俺は茜と付き合ってないと何度も言ってるだろ」
「ノミヤも変なやつに絡まれて大変だなあ。同情するぜ、まったく」
「同情するなら助けてください」
そして神田くん、君も変なやつの一人だということを自覚してくださらない?
「ところでノミヤ。お前はどんな水着持ってきたんだ? ちょっと見せろよ」
神田がいつもの悪ノリで俺のカバンを漁ろうとした。
「あ、おいやめろ。どうせ見るんだからいいだろ! やめ、男の水着見て何が楽しい!」
「邪魔だ、どけ! おい須藤、ノミヤを押さえててくれ」
「気安く僕に指図するんじゃない! 僕に命令していいのは上泉さんだけだ! だがそうだな、一宮が嫌がるのは気分がいいから僕も手伝おう」
「くっ、誰がお前ごとき――に!?」
やばい。
須藤の腕力がやばい。
その上、人を動けなくするのに十分な点を押さえている。
まるで蜘蛛の巣に絡め取られた蝶のように身動きが取れないぞ。
「ふはは、僕が上泉さんの手下であることを忘れてないか? 忍者としての基礎スキル大方教わっているんだよ」
くそっ、茜のやつはななんてことしやがる。
こんな頭のおかしい男に技術の安売りなんて正気の沙汰じゃないぞ。
「まあまあ、男の水着なんて恥ずかしがるもんでもないだろ。どれ……ウェットスーツ?」
神田が俺のカバンから引き出したのは全身をすっぽりと覆うようなウェットスーツだった。
せっかくの海なのに泳がないのはもったいないと、コールマンがさっき貸し出してくれたのだ。
たしかに腕の傷はこれで隠せるけどさぁ……。
「なんだよノミヤ! 泳ぐの嫌がってたわりには気合い入ってんじゃんか!」
神田が笑いながらバシバシと背中を叩いてくる。
痛えな、張っ倒すぞ。
はあ……これだから嫌だったのに。
なんだかこっちの方が腕の傷より恥ずかしい気がしてきた……。




