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夏の入り口

季節感? なにそれおいしいの?

 暑い。


 この暑さの原因はたぶんあの照りつける太陽だろう。

 一日外に出っぱなしだったら人間だって干物になってしまうんじゃないかと思うくらいに焼け付くような陽射しがこの伊江洲比の土地を襲っているのだ。


 家で天気予報を聞いたときにはもう真夏日だと言っていた。

 七月とは夏の入り口で、出かける前から憂鬱ではあった。

 しかし、冷房の脆弱な学校をもってして俺は改めて呟いてしまうのだった。


「暑い、干からびる」

「じゃあ半袖着ろや暑苦しい!」


 神田に丸めた教科書で頭を叩かれた。

 何しやがる、俺の脳細胞が死滅したらどうすんだ。

 あ、やばい。暑すぎて抗議する気も起きねえ。


「七月に入ってやっとブレザー脱いできたと思ったら、この暑い中長袖ってナメてんのか。こっちまで暑くなってくるわ」

「俺宗教上の理由で半袖は着れないんだ」

「あぁん!? お前いつだか無宗教って言ってなかった!?」

「だから無宗教教だって」

「聞いたことねえよ、んなふざけた名前の宗教! 支持○党なしかよ! ……ったく、なんでお前そんな頑なに半袖を着たがらないんだ? 去年も結局夏休みに入るまで長袖だったな」


 だって腕の傷見られたらいやだし。


「まあまあ、落ち着いでください神田さん。そうカッカしては頭に血が上って更に暑くなりますわよ?」

「さすが、冷暖房完備のリムジンで登下校して、教室ではうちわを執事にあおがせる中条さんは言うことが違いますねえ。殴っていい?」

「ふふ、試してよろしいですわよ。ただし、その時は中条流格闘術が火を吹くことになりますが」


 あ、武道の心得があるってハッタリとかじゃなくて本当なんだ。

 夏穂に対して言っていたのは攻撃をやめさせるためのブラフかと思ってた。

 そして、中条家は格闘技の流派とか編み出して何がしたいんだろう。


「それ以前に私が阻止しますがね。お嬢様にあだなす者は確実に排除いたします」


 コールマンが神田を睨んだ。

 まるで眼光だけで人を殺せそうな鋭さである。

 この人、こう見えてエロゲーオタクなんだぜ。びっくりだよ。


「怖えよ……冗談ですから……」

「そう。安心しましたわ。わたくしとしても夏彦さんの友人であらせられる神田さんを亡き者にするのは本意ではありませんので」


 俺の近くには物騒な人が多いなあ。


「だから怖いって!」

「あら、わたくし怖がられるようなこと言いました?」

「俺には逆らったら殺すって言ってるように思えたんだけど」


 俺もそう聞こえた。


「それにしても本当に暑いですわね」

「話を逸しやがった! いや、これ以上ツッコむと墓穴を掘りそうな気する……」


 おう、マントルにぶち当たるくらい深く掘ってこい。

 葬式では泣いてやるよ。


 しかし、命が惜しくなったか神田はこれ以上の追及をやめた。

 チッ。


「本当は水泳とかあると涼しくなるんだけどなあ。俺、伊江洲比にしたの失敗だったかな。外部のプール使ってやってくれてもいいのに」

「それは名案ですわ! 中条家所有のプールで水泳の授業を行うことを教師陣と相談してみてもいいかもしれませんわ」

「冗談じゃない!」

「うわっ、なんだノミヤ。いきなり大声出すなよ」

「俺は水泳がないから伊江洲比高校に進学したと言っても過言じゃないのに、外部のプールを使うだって? 冗談じゃない」


 俺が伊江洲比高校を選んだ理由の一つは登校が容易なこと。

 もう一つはプールがないこと、ひいては水泳の授業がないことだ。


 小中学生のときに、腕の傷を見られてクラスメイトたちがちょっと引き気味な目で見てきたことは俺の悲しい思い出だ。

 だから水泳のない学校を必死で探したというのに。


「そうでしたの……わたくし、夏彦さんがそこまでプール嫌いだったとは知りませんでしたわ。今度わたくしのプールに招待しようと思っていたんですけど……」


 プール。

 プールか。

 ちょっと待てよ、授業じゃなければ俺が水着になる必要はないんじゃないか?


「…………行く」

「えっ?」

「そのプールとやら、行かせてもらおうじゃねえか!」

「おいノミヤ、さっきと言ってることが違うぞ!?」

「違わない。俺は授業のプールが嫌なだけだ。愛歌に誘われたんなら行かなきゃ男がすたるってもんだろ」


 女子どもを誘って、水着姿からあらわになる肢体を見てやろうじゃないか。ぐへへ。

 やっぱりなんだかんだ言っても同級生の女体には興味があるのが男子高校生だ。


「まあ! 夏彦さんってば、そんなにも私のことを想ってくださってたのね。すぐに式場の準備を致しますわ!」

「それは違う。おい、コールマン! その携帯を今すぐしまえ! どこに電話掛ける気だ!」


 どこから出した、その『結婚式におすすめのチャペル100選』とかいう雑誌は。

 もしかしていつ結婚が決まってもいいように準備してるの? 怖いんだけど。


「おっと、失礼。差し出がましかったですかな? 私としたことがうっかり……式場は当人同士で選んだ方が思い出になりますからな」

「前提が間違ってんだよ! 俺は愛歌と結婚する気はねえから!」


 ったく、油断も隙もありゃしない。


「あ、夏彦さんは教会よりも神社のほうがよかったかしら? たしかに白無垢というのも味がありますわね。夏彦さんも袴姿が映えそうですわ」

「聞けよ!」

「クソッ、なんでノミヤばっかり……」

「俺だって好きで求婚されてるわけじゃ……あ、そうだ! 神田はどうだ、愛歌。顔もいいし、悪いやつじゃないのはおれが保証するぞ」


 邪念が顔からにじみ出てているのが玉にきずだけど。


「ノミヤ! お前……」

「夏彦さん……さすがに冗談が過ぎますわ。神田さんはクラスの殿方たちの間でもぶっちぎりでなしですわ」

「ねえ、俺中条さんになにかした!? なんでそんな評価低いの!?」


 哀れ、神田。

 やはり下心がまる見えなのがいけないのかなあ?

 寺で修行して煩悩でも取り払った方がいいかもな。

そろそろ運営から怒られるんじゃないかとビクビクしている。

伏せ字だから問題ないと思いたい。

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