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図書室ではお静かに

「ねえ、一宮くん。なんか……増えてない?」


 昼休みの図書室で本の貸出当番をしているとき、文乃が不意に問いかけてきた。


「なにが」

「その……なんか人が……」

「たしかに今日は読書する人が多いな。今雨でも降ってるのか?」

「そうじゃなくて、こう……一宮くんの周りに……」

「気のせいだ」


 いつもの忍者、執事、たまの娘に加えて、今日は忍者になる手ほどきを受けている男がいるのは絶対気のせいだ。

 まったく、天はどこまで俺のプライベートを制限すれば気が済むんだ。


 俺がこんなにも迷惑していると知ってか知らずか、今日の疲れの元凶が近づいてきた。

 せっかく気づかないふりしてたのに何の用だか。


「一宮! 君はいったいどういうつもりだ!」

「それはこっちのセリフだ、須藤。あと図書室では静かにしろ。他の生徒に迷惑だ」

「なっ、一宮のくせに正論を。君はどこまで僕に恥をかかせるつもりだ」

「お前が勝手にかいてるだけだろ」


 やっぱこいつバカなんだな、そうに違いない。

 あと一宮のくせにとはどういうことだ、くせにとは。


「一宮くんの友達? またすごい強烈な人だね……」


 おいやめろ。

 いつどこのだれがこんな変態ストーカー男の友達になったって?


「む、君はたしか佐々木文乃さんと言ったね」

「え、どうして私のこと知ってるの?」

「上泉さんから聞き及んでいるよ。これからのために一宮の交友関係は把握しておくべきだと。僕としてはこんなやつに興味はないので多少不満が残るが、何しろ僕は上泉さんの手下だからな! 手下だからな!」


 なぜ二回言った。

 大事なことなの? 俺的にはすげーどうでもいいんだけど。

 というかなんで手下であることをそんな自慢げなの?

 あ、バカだからか。


「そもそも私は上泉さんをよく知らないんだけど……」


 あ、そういえば文乃は茜と話したことはなかったのか。

 よく教室に出没してるからさすがに顔は知ってるだろうけど。


「そんなことはどうだっていいんだよ! 僕がこいつと友達だって? 冗談はよしてくれ、一宮と友達なんて反吐が出そうだよ」

「それについては同意見だ」

「そ、そうなんだ……ごめん」


 須藤くん、引かれてますよ?

 こんなやつを手下にするとは、やはり変態と変態は波長が合うんだな。


「悪いな文乃、俺の知り合いが迷惑かけて。こいつは存在しないものとして扱っていいぞ。俺が許可しよう」

「えっと、うん?」


 よし、俺もこの変態ぱっつん男は無視して本でも読むか。


「一宮! 本を読むんじゃない! 僕は君に言いたいことをまだひとことたりとて言っちゃあいないんだぞ」

「耳元で騒ぐんじゃねえ。何なんだよお前は。少しくらいなら話聞いてやるからさっさと言えよ」

「なんて白々しい態度だ……僕を無視して読書を始めようとしたくせに……。まあいい。君は上泉さんという人がありながらなんでそこの佐々木さんとねんごろになっているんだ!」


 うっわ、面倒くせえ。

 俺は茜とも文乃とも何もないというのに……こいつの思い込みには本当に迷惑させられる。


「ね、ねんごろ!?」


 おいバカ、反応すんじゃねえ。


「その焦りよう、やっぱりそうなんだな! 上泉さんに申し訳ないと思わないのか!」


 ほら言わんこっちゃない。

 だからいないものとして扱えって言ったのに。


「いやいや、別に俺は茜と付き合ってるわけじゃないし、文乃ともなにかあるわけじゃあないからね」

「嘘をつくんじゃない! 僕はさっき聞いたし、今も聞いたぞ。幼馴染の上泉さんはともかく、なんともない女子を下の名前で呼ぶなんておかしいだろ!」

「いや、だからそれは文乃が自分から呼んでくれって……」

「ほらまた! 言い訳無用、浮気は最低の男がすることだぞ」


 もうやだ、話聞いてくれない。

 俺以外の話なら聞いてくれるかな?

 助けてふみのん。


「ふ、ふみのん!?」


 あ、やべ。声に出てたか?

 まあいいや、聞いてたんならこの変態に弁明してください、お願いします。


「えっと……こほん。須藤くん……だっけ?」

「ああ、いかにも。僕が須藤快翔だ」

「誤解してると思うんだけど、一宮くんが私を名前で呼ぶのは私がそうさせてるからよ。だから須藤くんが考えてるようなことは何もないから」

「なにっ、そうなのか!? これは失礼、僕としたことがとんだ早とちりをしてしまったようだ」

「おいこら、俺さっきまったく同じ説明お前にしたよな?」


 もしかして須藤は俺の声だけが聞こえないように耳にフィルターがかかってるのか?

 そんな役立たずな耳いらないよな? 除去していい?

 今日は丁度人の耳を切り落とすのに最適な手裏剣がポケットに入ってた気がする。


「一宮! 今回は佐々木さんの顔に免じて許してやるが、『李下に冠を正さず』なんて言葉もある。これに懲りたら上泉さんに心配を掛けるのはやめるんだな!」

「だから俺は茜と交際はしてないから」

「ではまた会おう!」

「聞けよ!」


 須藤は言いたいことを一方的に言ったまま、図書室を後にした。

 何しに来たんだ、あいつ。

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