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部活見学をしよう!

 昼休みに早月との遭遇というアクシデントに見舞われたものの、今日も平和に全ての授業を終えて放課後を迎える。

 部活動に所属していない俺と、今日編入してきた夏穂は当然のごとく家路につくのである。

 そして部活のために人の出払った下駄箱付近で夏穂が一言。


「やっと二人きりになれたね、お父さん」

「さて部活でも入るか」

「お父さんのいるところなら地獄の果てでもついていくよ」

「ストーカーは一人で間に合ってます。お前は設定追加したい病なの?」


 娘(自称)、未来人、超能力者というだけでも属性過多なのにヤンデレとストーカーまでプラスする気か。


「でも部活っていうのはいいかも。元いた未来では料理部だったけど、他にもやってみたいことあるし」

「じゃあ一年遅れの部活見学でも行くか」


 せっかく靴を履き替えたので、とグラウンドを使った部活なんかを見て回るが、夏穂はいまいちぴんと来ないようである。

 途中陸上部の活動に打ち込む千秋と目が合ったので、手を振っといた。


 次に屋内活動。

 夏穂がコンピュータ部に興味を示したのは意外でも何でもなかったが、やはり入部には至らなかった。

 夏穂曰く、動作が重すぎて使用に耐え兼ねるとのこと。

 未来人だからしょうがないね。


 あらかためぼしい部活は見て回り、最後に武道場へと足を運んだのだが――


「あれ、一宮先輩ですか?」


 そこにははかま姿の早月がいた。

 左手にげた竹刀から剣道部だと察せられる。

 今は休憩中のようで、俺を見るや少し疲れた足取りで寄ってきた。


「早月は剣道部だったんだな」

「気安く名前を呼ばないで下さい」

「すまん、つい妹感覚で。じゃあ塚原さん?」

「様を付けるなら名字を呼ぶことを特別に許可します」

「俺は奴隷か何かか」


 名字ですら呼ぶのに本人の許可がいるとはこれいかに。


「変態にも人権があるとでも?」

「申し訳ございません、塚原様」


 俺を性犯罪者に仕立て上げるのはやめてください。


「まあ様はつけなくてもいいですけど」


 いいのかよ。

 言って損した気分だぜ。


「お父さん、この人ってもしかして塚原早月さん?」


 俺と早月の応酬を見ていた夏穂が尋ねる。

 ……こいつもか。早月もなのか。

 一体どこをどうしたら俺と早月とのフラグが立つのやら。

 でも立つのだとしたらちょっとわくわくする。顔だけなら可愛いし。


「えっと、どちら様ですか?」


 突然会話に割って入った夏穂に対し早月は眉をひそめていた。

 そりゃ芸能人でもないのに知らない人間が自分の名前を知っていたら少し不気味だろう。

 俺は余計なことは言うなよ、とアイコンタクトを送り、夏穂が頷く。


「私は一宮夏穂。この人の娘です」


 死んで詫びろ。

 何この子、頷いときながら何一つわかってないじゃん。

 俺のこと好きなのか嫌いなのかはっきりしろよ。


「なっ!? なな、な」


 夏穂から明かされた衝撃の事実に早月がたじろぐ。

 まあ普通はそうなるよね。


「お、落ち着け! まずは話を――」

「黙れこの鬼畜! 鬼畜王ナツヒコ!」

「お前自分で何言ってるか分ってる?」


 誰だ、こんないたいけな女の子におかしなネタ仕込んだ奴は。一人しかいないけど。

 千秋には帰ったらたっぷり説教しよう。


「取りあえず塚原、まずは話をな――」

「何ですか、変態の癖に言い訳する気ですか」


 ダメだ、聞く耳を持たない。

 仕方ない、こういう時の超能力である。


「夏穂、お前の力でさっきの自己紹介をなかったことにしろ」


 早月に聞こえないように夏穂に耳打ちする。

 自分のケツは自分で拭かなきゃあな。


「え、無理だよ」


 あっけらかんと夏穂。

 え、どういうことでしょうか。


「記憶操作が出来るんじゃないのか?」

「それが、塚原さんの超能力がちょっと曲者くせもので」


 ……要は早月の能力が夏穂の能力を打ち消すものだと。

 何たる無能。ラスボス(笑)と言わざるを得ないぞ。


「ちょっと先輩、聞いてるんですか」

「やべっ」

「何かやばいんですか?」


 うっかり普通に話してしまっていたが、幸い興奮状態の早月には聞こえていなかったようだ。

 とにかく早月を落ち着かせねば。


「あのですね、塚原さん。これにはとっても深ーい、それこそコルカ渓谷よりもチャレンジャー海淵よりも深い理由があるんですよ」

「意味が分かりませんが。何です? その、コルカ渓谷とかチャレンジャー海淵って」

「まあまあ細かい話はいいじゃないの。それよりも俺が言いたいことはつまり、事情が深過ぎて話すに話せないってことなんだよ」

「……そこまで話せない理由があるんですね。なんだか腑に落ちませんがこれ以上の追及はしないことにしましょう」

「そうしてくれると助かる」


 ふう、なんとか落ち着けたぜ。

 結局夏穂のことは全然誤魔化せてないけど。


「……で、武道場へは何の用ですか? 先輩が剣道部員だった記憶はありませんが。それとも柔道部の方に用でしたか?」

「えっと、夏穂は今日この伊江洲比に編入してきたから紹介がてら部活を見て回ってるんだよ」

「そうなんですか。じゃあ一宮先輩……これじゃあややこしいですね。夏穂先輩とお呼びしていいですか?」

「あ、はい。……うん?」


 夏穂は混乱している。

 わけもわからず自分に攻撃……はしないけど、実際は自分の方が年下なのに先輩と呼ばれるのはさぞかし変な気分なのだろう。


「ダメでした?」

「……あ、そっか! 全然問題ないよ」


 夏穂はようやく自分の置かれた状況を理解したようで、早月の提案を快諾した。

 やはり頭が弱いのは一宮家の宿命なのか……。


「じゃあ、夏穂先輩。案内のためにもちょっと剣道部の先輩呼んで来るので待っててくださいね」


 早月は俺を一睨みしてから、この場を離れていった。

 俺なんか悪いことした?

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