ストーカーの忍者、忍者のストーカー
マイパソコンを起動すると、まずブラウザを立ち上げて日課のお気に入り巡回を済ます。
ウェブ漫画やネット小説の投稿閲覧サイトや、動画サイト、ライトノベルや漫画の新刊発売情報といった、男子高校生らしいとりとめのないものだ。
特にめぼしいものがないとわかると、改めてエロゲーを起動する。
やはりエロゲーはFFSに限る。
なによりもシナリオがいいのだ。ここのエロゲーはそんじょそこらのお涙頂戴とは一線を画し、全力で涙腺を崩壊させにくる。
コールマンが支持しているアダルトゲーム制作会社「マゼンダフェンリル」なんかとは比べ物にならない。
あんなもん俺に言わせれば邪教だね。
そういやいつだか千秋がもってきた『こいのこゝろ』とかいうのもあとで調べたところマゼンダフェンリルの作品だったか。
我が妹ながらあんな邪教にハマるとはみっともない。
今度教育しておこう。というかいい加減エロゲーやめさせよう。
十八歳未満の少女がエロゲーに触れる環境というのは教育上よくないはずだ。
まあ十八歳未満といえば俺もなんだが、あいにくR-18規定を律儀に守るほど人間できていない。
なにか法的な罰則がある訳じゃないしね。
誰が聞いてるでもないのに心の中で言い訳をしながら目の前のエロゲーに集中する。
少女ボイスのタイトルコールとともに現れた画面の『つづきから』という文字をクリックし、最後にプレイしたときのデータをローディングした。
長かった……たぶんこのルートはこれで終わりを迎えるだろう。
ついに、ついに宮子ちゃんとの愛を積み重ね続けたその先で、最後には感動の大団円を迎えるのだ!
よっしゃあ、滾るぜぇっ!
ロードも終わり、画面には俺好み二次元美少女宮子ちゃんが――
「助けて夏彦くん!」
――あれ?
おかしいな。なんか目にどこぞのストーカーの顔が映ったような……。
まばたきをしてもう一度よく見ると、天井から吊り下がったロープに掴まっている茜がパソコンの前を塞いでいた。
とりあえず人の家の天井に穴は開けないでほしいものだな。
「茜……スカートめくれてんぞ」
天地が逆になった茜の衣服はなすがまま地球の重力に引っ張られている。
「スパッツ履いてるから大丈夫だもん」
「そういうことじゃねえ! みっともねえっって言ってんだよ! あとどうやって入ってきた!」
「普通に上からだよ?」
茜が地面に降り、垂れ下がったロープを引き抜くと天井がグルグルと回転した。
「だから人の家を勝手にからくり屋敷に改造しないでくれない!?」
前にも言ったよねえ?
ただでさえ俺のプライバシーなんてあってないようなものなんだから、家でくらい一人でいられる時間をください。
「あっ、すきま風や雨漏りの心配な問題ないよ! ちゃんと生活に支障が出ないよう計算してリフォームしてあるから」
「やだこいつ話通じない」
俺は人の所有物を許可なくいじくるなと言いたいだけなのに。
「って、こんな無駄話をしにきたんじゃなかった」
おい、こいつ無駄って言ったぞ。
人の家に改造施した上に不法侵入で俺のエロゲータイムを邪魔しておきながら無駄とはこれいかに。
だがしかし、こう言ってはなんだが茜の傍若無人っぷりはいまさらのことだ。
いや、諦めたというわけでは決して、断じてないけども。
ただ、注意したところで茜が態度を改めないことは明白なので、俺もこんな不毛なやりとりは一旦置いておこう。
「で、なんだ。助けてほしいだって?」
「うん。私――ストーカーされてるの!」
「ハハハ、またまたご冗談を」
「ひどい! 嘘じゃないもん、本当だもん!」
「ぷふっ、いやごめん。茜も面白いこと言うなあって。……ぷ」
いやいや、ストーカーがストーカーなんて笑わせてくれる。
というか茜のストーカーできるやつなんているの?
茜の人外じみた身体能力は俺もよく知っている。
その茜をつけ回せるような化物は茜の家族やコールマンくらいしか思い当たらない。
それ以前に茜のストーカーになるくらいぞっこんな奇特な野郎なんているわけない――――いや、いたなあ……。
「うぅ……本当なのにぃ……」
「悪い悪い。で、ストーカーって具体的になにされてるんだ。お前のことだから犯人の素性はとっくに割れてるんだろ?」
「えっと、うん。犯人は私と同じクラス、2-Bの須藤快翔くん。最初は下校するときに後をつけられてたから、走って撒いてたの。そしたら二日後にどうやって知ったのか自宅前に待ち伏せされてて、バレないように学校に行ったんだよ。で、お次は番号を教えてもいないのに携帯に何度も無言電話が入ってるし……不気味で仕方ないの」
「おいちょっと待て。無言なのになんでそいつからの電話ってわかるんだ?」
間違い電話……だったら何回も掛けてくることはないか。
だが、もしかしたらそいつ以外にも別のストーカーがいて、須藤とは別件なのかもしれない……いやないな。
茜は顔はいいが普段からの奇行を知っている人なら恋愛対象から真っ先に除外するはず。
けれど電話を掛けてきた相手が須藤という確証もないはずだ。
「えっと、アルバイトしてたときに須藤くんの電話番号を知る機会があったから……」
「あっ、はい」
そういえば情報屋まがいのことやってたね、君。
さすが、忍者こわい。




