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闇金チュウジョウちゃん

「――いてっ!」


 昇降口で上履きを履いていたら、足の裏に刺すような痛みがした。

 実際は騒ぎ立てるような痛さでもなかったけれど、不意を突かれたためにより痛く感じたのだ。

 原因を突き止めるために上履きを脱いで中を確認してみる。


「……これか。また古典的な……」


 上履きの中には先のとがった画鋲が入っていた。

 しかも、ご丁寧なことに接着剤としっかりとくっつけられていて、取ろうとしても中々剥がれないのがうっとうしい。

 たまたま入り込んだとかではなく、誰かの悪意によるものであることは明白だ。

 一体どこのどいつの仕業だか。


 誰かからの恨みを買ったというのなら見に覚えはないのだが。

 そもそもの話、交友関係の少ない俺は一部を除いて他人と接することが非常に少ないため、恨みを買う機会も少ないものだ。

 うん、やっぱり心当たりがないな。


 朝っぱらからモヤモヤとしながらも、画鋲を取り除いた上履きを履き直して教室に行く。


「ごきげんよう、夏彦さん。そろそろわたくしとの婚約を考え直してくれました?」

「朝っぱらからヘビーだな」


 愛歌が教室に入ってきた俺を顔を見るなり、胃がもたれそうなジョークを飛ばしてくる。

 本人は冗談のつもりじゃないのがまた厄介なところだ。

 と、こんなこと考えているとまた神田なんかに贅沢な悩みだと逆恨みされるか。


「ノミヤ、どうした。今日は元気ねえな」


 その神田は、俺が席に着くやすぐに異変を感じ取ったらしい。


「ん、ちょっとな」


 考え事していたのが顔に出てたか。

 そんなにわかりやすいのか、俺。


「あ、もしかしてお前も財布盗まれたのか? マジ犯人見つけたらぶちのめしてやんよ」

「いや、財布はあるけど……お前“も"?」

「ほら、この間先生が言ってたろ。最近財布の盗難が多いらしくて、俺も気をつけてはいたんだが被害にあってな」


 たしかそんなこと言っていたような気もするが……毎度のこと起きている俺よりも、寝ているだけのこいつの方が話をよく覚えているのは気に食わない。

 腹いせにこの気持ちを最大限に示してやろう。


「ぶ、ざまあ」

「てめえ、それが財布を盗まれて落ち込んでいる親友にかける言葉か! 鬼! 悪魔!」

「ざまあ」

「一度ならず二度までも! くそっ、こっちは汗水垂らして得たなけなしのバイト代が詰まっていたというのに!」 


 んなもん銀行に預けとけよ。


「という訳で今月お小遣いがないんで恵んでください中条さん」


 うわ、みっともねえ。

 神田のやつには恥や外聞はないのだろうか。……ないな。

 あったら授業中寝ているくせにテストは満点なんて多方面からヘイト集める行動しねえわ。


「お断りしますわ」


 愛歌はにっこりと笑ったまま切り捨てた。

 まあ当然だけども。


「そんな殺生な。ここはどうか同じ修学旅行班の仲間のよしみでご慈悲を」

「わたくしは神や仏ではありませんので、こちらに利のない慈善活動はいたしませんの」

「じゃあ出世払いで! 利子をつけてお返しします!」

「そうですわねえ……では週利五十パーセントでいかがかしら」

「暴利が過ぎやしませんか!?」

「ちなみに複利ですわ」

「わかりましたすみません。俺が悪かったです」

「鬼だ……鬼がいる……」


 暴利どころの話じゃないよ。闇金も真っ青な法外金利だよ。

 一万でも借りようものなら、出世払いで返済する頃には国家予算も超える額になっているだろう。


「あら、鬼だなんてとんでもない。夏彦さんにはいつだって無利子無期限でいくらお金を融通してあげますわよ?」

「い、いえ、もしものときが怖いので遠慮します」


 万が一愛歌を裏切りでもするなら海の底に沈めるくらい平気でやってきそうだし。


「くっ、ノミヤめ。イチャイチャしやがって」


 しかも愛歌の押し付けがましい愛のせいで神田の反感まで買う始末だ。

 本当の逆恨みもいいところだよ。こちらはこんなにも迷惑しているというのに。

 ………………ん?


「そうか!」

「どうしたいなり。ノミヤ、ついに狂ったか」

「お前ほどじゃねえよ」


 神田のアホは置いておくとして……そう、逆恨みという線ならあり得るな。

 俺は神田が嫉妬に狂うくらいには女子からモテていると思っている。これは自他共に認める事実だ。

 まあ……相手は不本意な人たちが多いけど。

 それによって俺をねたそねみであのようなのような凶行に及んだという可能性はあるんじゃないだろうか。

 だとすると、だ。


 千秋は妹だし、俺が早月とよく一緒にいることを知っているやつは少ないだろう。

 だから夏穂、文乃、愛歌あたりに想いを寄せる男の醜いジェラシーで俺に嫌がらせをしてきたか。

 夏穂も娘だけど、それをまともに取り合ってるやつなんていないだろう。

 まあ、おそらくは愛歌だろう。愛歌は男子から人気高いからな。

 だが一人忘れているような……あ。茜か。

 あれはないな。あれはさすがにセンスない。


 大方の動機は見当がついたことだし、あとで愛歌に事情を話して念写で犯人探ししてもらおう。

 本当は茜のサイコメトリーで一発だろうけど、あいつには頼りたくない。というか会いたくない。


 柄にもなく考え込んだら少し疲れたな。

 ホームルームまで時間もあるし、休みがてら本でも読むか。


 俺は机の中に置きっぱなしにしてあるライトノベルを引き出した。


「夏彦さん、何か落ちましたわ」

「あ、悪いな」


 本を引っぱったときに落ちたのか、愛歌は手紙のようなものを渡してきた。

 しかし見覚えがないな。嫌がらせの続きかもしれないな。

 表面には俺の宛名が書いてあり、入れ間違いでないことは確かだ。

 なのでとりあえず開封してみると、そこには新聞紙の切り抜きで脅迫めいた文言が記載されていた。


『これ以上上泉さんに近づくな。この警告を無視すれば怪我では済まさない』


 …………センスないぜ、ベイベー。

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