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早月の決意

 今朝、早月がいることを確認して武道場に(おもむ)いた。

 姿が見えずともその場所に対して千里眼が発動しないというだけで早月がいる証明になるので、存在を認識するだけなら無効化されても通用する。

 で、今も武道場の中を視ようとしたが千里眼が発動しなかったという訳だ。


 ただ、早月が風邪を引いた時以来会っていない上、あんな身の上話を聞かされた方としては結構気まずかったりする。

 とはいえ、俺が避けても千秋経由で出会うことはあるだろうし今のうちに慣れておくべきだろう。

 そんな俺の内心とは裏腹に、早月の対応は驚くほどすっきりしたものだった。


「あ、おはようございます。久しぶりですね、一宮先輩」


 早月の顔からは気まずさなど微塵にも感じられない。

 たぶん気遣っているというわけでも無いのだろう。


「何度か来ようとしたんだがタイミングが合わなくてな」

「心配しましたよ。先輩のことだからついに警察の御用になったのかと……」


 こんな軽口叩く、というか悪口叩きつけるくらいだもん。

 気遣えとまでは言わないまでも、少しは遠慮して欲しい。


「なんで俺が御用にならなきゃならないんだ」

「なんでって、そんなのわいせつ罪かなんかで? 温泉旅行に行ってたって千秋から聞いたので」

「ふっ、俺ほどのイケメンになると女なんてよりどりみどりだから。そんなリスクなんて背負わなくてもいいんだよ」


 え? 覗き?

 あれは女体目当てというよりはむしろアトラクションだから。


「先輩の頭の中って赤、白……それとも合わせかな……?」

「食べる方のみそは入ってないよ!?」

「え!? そうなんですか!? 先輩が自分のことイケメンだなんてちゃんちゃらおかしいこと言ってるからてっきり……」

「なんだよ、わりーかよ」


 モテているのは事実だぞ。

 血縁者と頭おかしいのからしかモテてないけど。


「ふふっ」

「どうしたいきなり笑い出して」

「いえ、この間変なことを言ってしまったので、先輩が変な気を遣ってきたらやだなあって思ってたんですよ。だけどいつも通りで安心しました」

「あー、お前的にはよかったのか? 正直あまり話したくなかったんじゃないか?」


 今までは早月が頑張る理由を聞いても教えてもらえなかったから。

 俺に心配させないための配慮だったのかもしれない。


「そうですね……風邪で心身ともに疲れて口も軽くなってしまいました。でも、軽くなったのは口だけじゃあないんですよ? 誰かに話して心の重荷が降りたって感じですね」

「そうか……」


 早月にとっては父親の病気のことは口に出すだけでも辛いことなのだろう。

 けれど、それは一人の少女が背負うにしては重すぎると俺は思う。

 ならば、だ。

 聞いてしまった俺が、知ってしまった俺がその重荷の半分を背負ってやるのが道理というものだろう。


「早月」

「な、なんですか。いつになく真面目な顔して」

「俺にできることがあるかどうかはわからんが、辛くなったら遠慮せずに俺を頼ってくれ。今はこうやって見守ることしかできなけど、できる限りを尽くして助けてやるから」

「はあ……何を言い出すかと思えば……」

「え? 俺なんか変だった?」 


 我ながら結構キマったと思ったんだけどなあ。

 エロゲーのヒロインだったら今のでオチてるよ、絶対。


「もしかして、せっかくカッコいいこと言ってたのに今変なこと考えました……?」

「なっ、なぜそれを!? 貴様、読心術の使い手か!」

「先輩の一貫性のないテンションについていけないんですが……。さすが千秋のお兄ちゃんと褒めるべきか、貶すべきか……」

「褒めればいいと思うよ」

「そうですね、ここは一つ褒めておきましょうか」

「俺って意外と豆腐メンタルだからお手柔らかに……って、あれ?」


 褒めてくれんの? 意外ね。

 毒舌早月ちゃんのことだからてっきり罵詈雑言の嵐が直撃するかと。


「私、一宮先輩にはとても感謝しています。先輩にはいつも……思えば出会ったときから倒れたこところを助けてもらいましたし」

「そんなこともあったな」


 助けた、と言っても俺ほとんど何もしなかったけど。


「だからできることがあるかわからないなんて言わないでくださいよ。先輩がいるだけで私は充分元気をもらってますから」

「それって……」


 朝ごはんのことですか?

 とか言ったら怒られるのかな。

 まあ俺は鈍感系主人公でも難聴系主人公でもない(と思いたい)からそんな訳ないって気づいてるけど。

 夏穂からフラグが立つとは聞いていたが、もうオチてんのかな?

 勘違いでなければ最近早月と視線が合わないし。


「……やっぱり、夏の大会は負けられませんね」

「え?」

「父のためもありますが、私に親切にしてくれた先輩のためにも、勝たないとって思えてきました。いわば恩返しです。勝って、先輩の期待に応えるんです」

「そ、そうか」


 やばい、これは恥ずかしいな。

 早月の真意に気づいている俺としてはとてもこそばゆい気分になってくる。


「だっ、だからもっと強くならないといけませんね」


 自分で言ってて恥ずかしくなったのか、早月がまた顔を反らした。


「精が出るのはいいことだけどまた無理するなよ?」

「わかっています。これ以上先輩に迷惑かけられませんから」

「それだけ聞ければ安心だ」


 といっても、早月の場合は信ぴょう性ゼロだけどなあ……。

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