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友だちは大事にしましょう

 寝坊した。

 昨日一日中寝ていたのにもかかわらず、全く疲れが取れなかったのでつい長々と眠ってしまった。

 幸い、いつもより起きるのは遅かったが遅刻するような時間ではなかった。

 朝の仕度したくを手早く済ませ、急いで家を出る。

 全力で走れば七、八分ほどでもう学校だ。


 さて。

 武道場の方を見てみる。

 ……早月はもういなさそうだな。

 当たり前か。あいつはもっと早くから来ているのだからすでに教室だろう。

 早月があそこまで熱心に剣道へ打ち込む理由を聞いて、余計に無理をしていないか心配になってしまう。

 が、いないものはしょうがない。

 ……念のために武道場でぶっ倒れていないかだけ確認しておくか。


 早月が武道場にいないこと、加えて自分の教室にいるであろうことを千里眼で確認し、俺も安心して自分の教室へ行く。


「おはよう」

「ごきげんよう、夏彦さん。今日はやけに大荷物でいらっしゃるのね」


 愛歌は俺が手にした紙袋を見て言う。


「ああこれか。温泉旅行に行ったおみやげだよ。ほら、愛歌にもやる。といっても、お前んちの使用人さんたち全員分には足らないだろうが」

「いえ、そのお気持ちだけ十分ですわ。ありがたくいただきます」


 愛歌におみやげを渡したら、いったん荷物を置くために席につく。


「よう、ノミヤ!」

「神田か。おはよーさん。手のひらなんか突き出してどうした?」

「俺の分はないのか?」

「さて、文乃にもおみやげを渡すか」


 こういうときに交友関係が狹いと楽でいいな。

 何しろおみやげを渡す相手が二人でいいのだから。

 最近は文乃に近づくとすぐに逃げられてしまうので、悟られぬようにひっそりと背後から忍び寄る。


「よう文乃」

「わっ、一宮くん!? びっくりしたあ。おはよう」

「ちょっといいか」

「ええと、うん」


 今日は逃げられなかったみたいだ。

 俺のことをさけるのは好意があるからだとコールマンは言っていたが、あまりにも距離を置かれると嫌われたのではないかと邪推してしまう。


「これやるよ。旅行に行ってきたからそのおみやげに」

「あ、ありがとう」


 よかった、文乃も受け取ってくれたか。


「なあノミヤ、俺の分は」


 なんだか背後霊にでも憑かれている気がするが、無視して文乃との話を続けよう。


「なんかごめんね。最近は話しかけられたらすぐにどっか行っちゃって。別に一宮くんのこと嫌ってるわけじゃないから」

「お、おう。じゃあ俺は自分の席に戻る」


 うーん、やっぱり文乃と話していると心を見透かされているような気分になるな。

 ……もしかして……いや、まさかな。

 もしそうだとしたら俺は人生やっていける自信がないわ。不登校どころの話じゃない。

 うん、気のせいだ。そういうことにしておこう。


「おい、ノミヤ。俺の分のみやげはないかと聞いているんだ」

「あ、神田。いたんだ」

「いたんだ……じゃねーよ! さっきから声かけてるだろ。で、おみやげは?」

「え? ないよ、そんなもの」


 何が悲しくて野郎にみやげなど渡さねばならんのだ。

 というか、神田のことは完全に失念していた。ごめんね。


「なっ、薄情者!」

「冗談だ。そんな君にはこれをやろう」

「……なにこれ」

「ご当地キャラ、爆走温泉野郎のストラップだ」

「ええと……サンキュー」


 神田は明らかにいらねえ、という顔をしていたがもらえるだけ感謝してほしい。

 といっても、他のおみやげ買ったときにおまけでついてきたガラクタだけど。


「一宮くん……さすがの神田くん相手でもそれはひどいんじゃないかな? よかったら私がもらったおみやげわけてあげるよ」

「佐々木さん……ありがとう! お前いいやつだな! でも『さすがの』ってなに?」


 俺からガラクタを押しつけられた可哀想な神田くんは、まるで女神のような文乃さんからおみやげの温泉まんじゅうを恵まれていました。


「うぇっ!? 一宮くん!?」

「なんだそんな驚きながらこっちを見て。俺が俺の席にいるのは当たり前だろう」

「ななな、なんでもないよ。気にしないで」


 なんでもないという割にはひどく動揺しているが。


「ふーん。それにしても文乃はわざわざ神田なんかのために慈悲を与えに来るとは優しいんだな」

「あ、これはついでだから」

「ついで!?」

「神田くんのことは結構どうでもいいし」

「ど、どうでも!?」

「いちいち騒ぐな」


 神田ときたら、見た目も声もうるさいやつだな。

 もう少し落ち着いた言動をすれば今よりはまだモテるかもしれないのに。


「なんだよー、ノミヤは神経質だな」

「お前が無神経なだけだ」

「あはは、私も神田くんはちょっとうるさいと思うな」

「佐々木さんまで! ひでえや!」


 神田は俺と文乃の連携口撃によって精神にダメージを受けたらしく、そのまま机に突っ伏してしまった。

 見事なコンビネーションだったな。これはもはやバディの域だ。


「……って、文乃はなんで顔が赤くなってるんだ? 熱でもあるのか?」

「え、いや、元気だけど。そ、それより! 今日は修学旅行の班決めがあるって覚えてる?」

「あー、そういや昨日先生が言ってたような」


 そうか、もう二年生だから修学旅行があったな。

 たしか、行き先は面白味もなく京都だったか。

 男女三人ずつの計六人班で回ることになっていたはずだ。

 日程は十月頃なのにもう班決めとは……。


「私って友だち少ないから一宮くんに先約を入れておこうと思って」

「わかった、いいぞ。というか、こっちからお願いしようと思ってたくらいだ」


 あとは夏穂、愛歌、神田を誘って……でも夏穂は文乃のことが苦手みたいだけど大丈夫かな?

 まあそれはあとで考えよう。


「あとは男がもう一人か……」

「じゃあ私が!」


 声のした方に目を向けると、壁がめくれてそこから腕が伸びている。

 誰なのかは言わずもがな。


「茜……自分の性別知ってる? というかお前は隣のクラスだろうが」


 さっさと帰れよストーカー。

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