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覗きは男のロマン

 温泉旅行二日目。

 朝食を済ませたあとは夏穂を引き連れて旅館を出発した。


「ようし、今日は待望湯巡りをするぞ!」

「ばっちこい!」


 今日はチケットを存分に利用して、ここいらでも名湯と名高い五つの温泉をまわる予定だ。

 時間的にはもう少し余裕がありそうだが、移動やおみやげを選ぶ時間を考えたらこのくらいが丁度いいだろう。

 あまりギリギリなタイムスケジュールを組んでもろくなことにならないのだ。


 昨日に引き続き、温泉へ向けてバスで移動を開始する。

 そして、なんのトラブルもなく最初の温泉に着いた訳だが。


「じゃ、行ってくるね」

「おう、またあとで」


 ……気になる。女湯が気になる。

 昨日は覗きなんかしないなんて啖呵を切ったが、実際問題興味があるのだからしょうがない。

 同じ部屋で、しかも至近距離で夏穂のような容姿だけはいい女が寝ていたのだ。

 これが意識するなという方が無理な話である。

 いや、夏穂の言う通り千里眼を使えば覗きなど一発なのだ。

 だがそれでは面白くない。

 覗きとは、NO☆ZO☆KIとは見つかるかもしれないというスリルがあってこそなのだ。


「ならば行くしかないではないか」


 ここでやらねば漢でない!

 ――一宮夏彦、いざ参る!


 まずは上泉家直伝隠れ身の術の応用で、気配を極限まで殺す。

 茜ほどの精度ではないにしろ、これで接近しない限りは普通の人間からはほぼ気がつかれない。

 あとは監視カメラの死角を縫うようにたどり、女湯ののれんの前までやってきた。


 ここで脱衣所には監視カメラがないだろうと早合点してはいけない。

 たしかに脱衣所にはカメラはないかもしれない。

 が、人が入るとき、または出るときには服を着ているのだから、入り口が監視されていてもおかしくないのだ。


 ――ならば、千里眼だ。

 入り口付近にカメラがないことを確認し、脱衣所に侵入する。

 他の利用客にバレなければいいが……。


 忍び足で浴場の戸の前まで到達し、中を覗き見る。

 そこには、一面シルバーの光景が。端的に言えば婆さんばっかりだった。

 まあ、なんとなく予想はしてたけどさ……帰るか。

 戸を閉め、男湯に戻ろうとUターン――


「……お父さん?」


 ……そういえば、肝心の夏穂さんはいませんでしたね。

 俺の目の前にはタオルを片手に、産まれたままの姿で夏穂が立っている。


「あ、夏穂、これは違うんだ」

「キャア――」

「待て!」


 声を上げそうになった夏穂の口をとっさに封じ、勢いあまって夏穂を押し倒してしまった。

 ……やっちまったぜ。

 こんなとき、第一に取るべき行動は何だろうか。


「――騒ぐな」


 あ、これ絶対違うわ。

 どう見ても犯罪者じゃん、これ。


「んん、ふぉふ!」


 夏穂がわめいているが、口をふさいでいるために何を言ってるかわからない。

 とにかく、もうこれ以上変なことしないように早くここから去ろう。


「あ、あの、失礼しました」


 他の利用客に気をつけながら、何とか女湯の脱衣所を抜け出した。

 覗き、よくない。


 覗きは悪いことである。

 そのことを俺は強く肝に命じた。


「でもこれは予想できなかった」

「お父さん……来ちゃった……」


 湯巡り二湯目、娘から逆覗きを受けました。

 それは、覗きというにはあまりにも大胆すぎた。

 隠れる気が微塵にもないんだもの。

 せめてもの救いは他の客がいなくてよかったことか。


 さっきバスの中で覗きのことを謝ろうと思ったのに、夏穂はずっと何か考え込んでてタイミングが掴めなかった。

 何を悩んでいるのかと思えば、これを計画していたのか。

 謝ろうとか一瞬でも考えた俺がバカだったよ。


「ふむ……」

「まじまじと見るな、この変態!」


 夏穂の視線が下半身に向かっていったので、慌てて局部をタオルで隠す。


「ああ、なんで隠すの!」

「うるせえ、さっさと出ていけ!」


 他に人が来る前に夏穂は追い出した。


 一湯目、二湯目と、トラブルはあったが、その後は平穏に湯巡りを完遂することができた。

 他にもおみやげを選んだり、旅館へ荷物を取りに戻ったりなどあったが、いよいよ帰宅だ。

 それにしてもなかなかに高密度な二日間だった気がする。

 このまま帰るのも物惜しい気がするが……。


「お父さん、早く! 新幹線行っちゃうよ!」

「すまん、今行く」


 駅の待合室で座らせていた重たい体を起こし、いまだ元気な夏穂の元へと向かう。

 明後日はまた学校だし、早く帰って心身ともに休めるとしよう。


 ――心身ともに休めることができる、ならばの話だが。


 家に帰ると変態がいた。

 俺の部屋で、俺の幼馴染が、俺のパンツを頭に被って息を荒くしているのである。


「茜さん、茜さん。何をなさっておいでで?」

「夏彦くん、おかえり! 見てわからない?」

「俺がわかるのはお前が変態だということだけだが、どっから侵入した」

「失礼しちゃうなあ。今日はちゃんと玄関からお邪魔したんだから」

「は?」

「夏彦くんにサプライズしたいって言ったら、おじさんが快く家に迎え入れてくれたよ?」

「変態が部屋で待ってるサプライズはいらねえ。……にしても、あのクソ親父は!」


 これはあれだな。リビングでぐうたらしているだろう父さんに文句の一つでも行ってやらねば。

 階段を降り、リビングに行くと、予想通り父さんはソファーで寝転んでテレビを観ていた。

 父さんは俺に気づいたらしく、こちらにやってくる。


「夏彦じゃないか。茜ちゃんとよろしく……もとい、やらしくやってたか?」

「くたばれ!」

「ぐはあっ!」


 その無駄口を開かなければ文句の一つ二つで済ませたものを。

 父は俺のアッパーを受けたあごを押さえ、悶絶していた。

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