表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/162

こんやはおたのしみですか?

 温泉から上がって、休憩所で合流した夏穂が俺を見て一言。


「お父さん、なんかいいことあった?」

「え!? どうしてだ?」


 愛歌の写真をつまみ食いならぬつまみ見して眼福だったけど、そんなこと夏穂は知らないはずだ。

 まさか! 記憶操作は人の記憶を見ることもできるのか!?


「いやだってなんかニヤニヤしてるから」

「……まじで?」


 嘘、俺ってそんなに顔に出やすいのかなあ。


「あ! さては温泉のデトックス効果でいっそう美少女になって夏穂ちゃんに悩殺されちゃいましたかな? このこのー」


 夏穂が肘で小突いてくる。


「デトックスって……温泉入ったからってすぐには効果は出ねーだろ」


 とはいえ、今の夏穂は二割増くらいで可愛く見えるかもしれない。

 水も滴るいい男なんて言ったりするが、女だって風呂から上がった直後は体から伝わってくる熱気が(あで)やかさを演出し、いつもよりよく見せているのかもしれない。


「でも温泉って体力使うよね。気持ちよくて長風呂しちゃったからお腹空いちゃった」

「……温泉まんじゅうでも買うか」


 まあ、多少甘やかしてしまうくらいには可愛く見えるということだ。


「本当に!? やった!」

「夕飯まだだからな。少しだけだぞ」

「わかってるってー」


 本当にわかってるんだかどうかは知らないが、夏穂が売店で温泉まんじゅうの箱を手に取っている。

 夏穂はいくつかの商品を見比べ、どれを買うか吟味していた。


「じゃあこれにしておこう」

「うん。いいんじゃないか? 今俺とお前の分を開けて、残りは家へのみやげにすればいいし」

「お父さん、何言ってるの?」

「え? みんなには一人二個くらいあれば十分だろ?」


 他にもおみやげは買うし、多すぎることも少なすぎることもないはずだ。


「そうじゃなくって、家族へのおみやげはこっち」


 夏穂は最初に持った箱とは別に、もう一つの箱を掲げた。


「じゃあそっちは?」

「これは今から食べる分だよ」

「なあ夏穂。俺がさっき言ったこと覚えてる?」

「夕飯が待ってるからおやつは控えめにってことでしょ?」

「おー、よく覚えていたな。褒美になでてやろう……って、バカヤロウ!」


 夏穂の頭に手を乗せて、そのまま頭を軽くはたいた。


「あいてっ!」

「これのどこが控えめなんだよ」

「今めっちゃお腹すいてるから大丈夫!」

「太るぞ?」

「私食べても太らない体質だから問題ないよ」

「それは羨ましーこって。でもダメだ。お前の言い訳なんか信用ならん」

「えー! 愛する娘のことを信じられないの?」

「うん」


 まったく、胡散臭さの塊みたいなやつが何を言うか。


「即答されるとは思わなかったよ……」

「とにかく、箱は一つ戻してこい」

「はーい」


 夏穂はげんなりしながら温泉まんじゅうの箱を元の場所に戻しに行った。


 ***


「旅館で若い男女が二人きり……これは一波乱起きそうだよね!」

「よし、今からでも二部屋に変えてもらうか」


 金は余分にかかるが、間違いが起こるよりはいいな。

 娘とはいえ美少女。俺の方から手を出してしまう展開も十二分にありえる。


「あ、お父さん待ってよ! さすがの私でも同意もなしに襲ったりはしないよ。そういうのは茜さんの専売特許だもんね」

「え、なに? 俺って未来では茜に襲われてるの? どっちの意味で?」


 茜の場合は一般的な意味でも、性的な意味でも通じそうなところが恐ろしい。


「いやー、さすがに何か起こる前には止めてるけど」

「何かってなに!?」

「ねえ、知ってる? 茜さんって私のいた未来では大学でバイオテクノロジーを専攻していたらしいんだ……」

「質問に答えろよ! え、バイオテクノロジーがどうしたの!?」


 俺は将来人体改造でもされるのだろうか。

 考えるのも寒気がするぜ。


「安心して、辛うじて人間であることは保っているから」

「まったく安心できねえ!」


 辛うじてってなんだよ。

 未来の茜は俺に何をする気なんだ。


「やだなあ、そんなに慌てないでよ。冗談だから! 未来人ジョーク!」

「そうか。ならいいが……」


 ……いいのか?

 とても冗談とは思えないんですが。

 ……いや、俺の精神衛生のためにも悪い方向に考えるのはよそう。


「うん。大丈夫……なはず」

「はず?」

「ほら、そんなことよりもっと楽しいことを考えようよ! 若い男女が密室で二人きりでする、うふふんあははんなこととか!」

「無限ループってこわくね?」


 本当に部屋分けてやろうか。

 まあ、俺も(たぶん)冗談で言ってるのだろうと知っているし、実行には移さないけど。

 襲うならすでに家で襲われている気がする。


「く、お父さんったら手ごわいね。父と娘と言えど性欲の獣である一男子高校生なら、私が誘えばすぐにでも食いついてくると思ったのに」

「バカだなあ、ガードの固い女を攻略していくから興奮するんだろうが」


 そう考えると俺の周りってチョロインが多すぎてやべえ。

 興奮とかあったもんじゃねえや。


「お父さんが今攻略中のエロゲーのヒロインみたいに?」

「そうそう、宮子ちゃんみたいな身持ちの固い女の子の方が――って何言わせるんだ! というかなんで知っているんだコノヤロウ!」


 父親のエロゲー事情を知ってる娘とかもうヤダ……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ