いざ行かん、温泉旅行!
今回はいろいろとひどいので先に謝ってこおうと思います。
ごめんなさい。
週末、父さんが持ってきた温泉旅行のペアチケットを利用して、俺と夏穂は目的地へ向かっていた。
「なんだか時間かかるんだねえ」
まだ三十分も経っていないというのに、夏穂が新幹線の窓の外を眺めながらぼやいた。
「でもあともう三十分ほどかかるぞ」
「えー、そんなに?」
「しょうがないだろ。結構遠いんだから」
「そんなこと言っても、私の時代はリニアとかあったからこらくらいの距離ならスパパーッと三十分くらいで着いたよ?」
「ここは未来じゃないからな」
それにしてもこの距離を三十分か……。
早いのはいいけど、安全性が気になってリニアが整備されてもしばらくは乗りたくないな。
「暇だよー」
「ふっ……そんなこともあろうかと、これを持ってきていたのさ」
そう、これは旅では定番、暇つぶしのお供。
その名も――
「お父さん、それはない。二人でUNOはないから」
「だよね、ごめん」
俺はもしかしたら役に立つかもしれないと持参したUNOのカードをカバンへしまった。
俺もないと思ったけどね。ほら、万が一ってこともあるじゃない?
とにもかくにも、UNOは夏穂に却下されてしまったので他に暇が潰せそうなアイテムを探す。
あるっちゃあ、あるんだけどね。
あまり新幹線の中でやるにはオススメできないゲームだ。
まあモノは試しに聞いてみよう。
「夏穂は将棋ってできるっけ?」
「将棋? そりゃあもう。私は強いと自負しているくらいだからね。お父さんこそあまり強うそうなイメージないけどどうなの?」
「俺? 強いよ。序盤中盤終盤隙がないと思うよ。だから俺、夏穂にも負けないよ」
「へー、言ってくれるね。というかお父さん。そのゆらゆらと体揺らすのすごい腹立つからやめて」
思ったより好感触だったので、とりあえず一局指すことになりました。
「……あれ? もしかして詰んでる? ……取って、取られて、逃げて……。もしかしなくても詰んでる!」
「お父さん? 弱いよね」
なんか我が娘が言葉の王手で父の心まで詰ましに来たんですが。
「ま、負けました」
「お父さんが弱すぎて将棋は暇つぶしにもならなかったよ。他にはないのー?」
く、悔しい。
こんな年端も行かぬ小娘(同い年)にてめえは雑魚だからまともに戦えるもん出せや(意訳)なんて言われるとは。
いいだろう。こちらにだって考えがあるぞ。
「ならば、これでどうだ!」
「そ、それは――麻雀?」
「ウム」
俺が次に取り出したのは雑貨店の娯楽コーナーで売ってそうなカードタイプの麻雀セット。
カードホルダーも同梱で、卓が必要ないので場所を取らない優れものだ。
「お父さん……。麻雀は二人じゃできないから。最低でも三人はいないと」
「ところがどっこい、二人でも出来るルールが。夏穂は何も思い当たらないか」
「あ、もしかしてアレ?」
「アレだ。某賭博漫画で登場した変則ルールの地雷ゲームさ」
「でもよくルール覚えてないんだけど」
「心配いらない。ここに某地雷ゲームのルールを収録した某賭博漫画がある」
まさか二人きりの旅行で考え無しに麻雀カードを持参する俺ではないさ。
「お父さん……邪魔じゃないの、それ?」
正直邪魔でした。カバン重いしかさばる。
「まあ俺のことはいいじゃあないか。で、やるのか?」
「むしろお父さんがやりたそうだから断われないよ」
「じゃあやるか」
はい、対局開始。
「ロオォン! ロン、ロンロオォォン!」
「うるせえ! カ○ジに成りきらなくていいから!」
いいからさっさとアガりを見せろや。
「国士無双十三面!」
「なっ、なんだって!?」
「麻雀って楽しいよね!」
うわっ…俺の娘、ボードゲーム強すぎ…?
その後もチェス、囲碁、五目連珠、リバーシ、バックギャモンなどなどいろいろとやったが、全敗してしまった。
普通ならたかだか三十分でできるようなゲームのラインナップではないのだが、夏穂が強すぎるせいでいずれも俺が瞬殺されたので問題ない。
決して俺が弱いわけではない。絶対違う。
そうか、きっと記憶操作能力で俺の思考をいじくってるんだな。そうに違いない。
うん、そういうことにしておこう。
「お父さん……いくらなんでもゲーム持ってきすぎじゃない?」
なんて、一人で納得している俺をよそに夏穂は若干呆れ顔だ。
「ん、そうか? でも暇つぶしにはなっただろ」
「全然」
「んぐっ!」
俺のハートに夏穂の言葉のナイフが突き刺さる。
そりゃあ、夏穂は退屈だったかもしれないけどそんなはっきり言わなくてもいいじゃない。
「ところで、そんな遊び道具たくさん持ってきて肝心の着替えとか旅行に重要な物を忘れたなんてことはないよね?」
「おいおい……いくら俺でもそんなヘマはしないさ。ちゃんと朝に確認――」
あ、あれ?
おかしいぞ。なんか服がないなあ。
きっちりカバンに詰めたはずなんだけどなあ……。
カバンの中身をかき回しても、衣類の類は一向に見つからなかった。
「ないんだね」
「……はい」
パロディーをぶっこまないと死んじゃう病を患っているのかもしれない。




