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金持ちの道楽

 夏穂の持っていた胡散臭い薬のおかげか、早月の看病した翌日も元気に登校できそうだった。

 さすがに昨日の今日で早月が学校に来ることもないだろうと、朝は夏穂と登校をともにする。


「昨日はお父さんがサボったから宮前先生怒ってたよ」

「えっ、あの人って怒るの!?」


 担任の女教師、宮前先生は温厚でいつもおっとりとしている。

 だからまるで人生で一度も怒ったことはないんじゃないかと思っていたくらいだけど。


「サイボーグじゃないんだから怒ることくらいあるでしょ……」

「サイボーグには感情がないみたいな風評被害を与えるのはやめろよ!」

「なに、そのサイボーグに対するこだわり!?」

「いや、サイボーグはどうでもいいけど……サボったのは事実だし教室入り辛いよなあ。欠席も大学の推薦とか取るならなるべくしたくないし」

「え、お父さんって推薦狙いなの?」

「まあ出来ればだけど」


 受験のための努力はあまりしたくないからなあ。

 取れれば(おん)の字、みたいなものだ。


「でも五月で欠席が二つもつくのは痛いよなあ」

「あら、そのことなら心配には及びませんわ」

「え、愛歌!?」

「はい、夏彦さんの愛しの愛歌ですわ!」


 歩いていると、待っていましたとばかりに電柱の陰から姿を現すお嬢様。

 朝から面倒臭いやつに会ってしまった。

 隣の夏穂も敵意剥き出しで愛歌を睨んでいた。


「別に愛しくないけど?」

「あら、夏彦さんったら手厳しいのですね」

「というか、愛歌は車登校じゃなかったのか?」


 愛歌が毎日学校に来るようになってからは、校門の前に嫌みったらしくリムジンが停車している覚えがあった。

 どう考えても駐車違反だけど、それも金の力でどうにかしてたんだろうか。


「ふふっ、今日は夏彦さんと一緒に登校しようと待ち伏せしてたんですわ」

「ずいぶんと正直だな」

「嘘なんかついても仕方ありませんもの。ですからこうして積極的に好意を向けて、夏彦さんの好感度アップに努めてるんですわ!」

「ごめん、今好感度下がったよ」

「あら、おかしいですわね。昨日プレイした恋愛ゲームだと正直な受け答えの方が好感触でしたのに」


 ……なんか、愛歌がダークサイドに足を突っ込みかけている気がする。

 本当に愛歌がエロゲーに手を……いや、俺は最後までコールマンを信じるぞ。

 さすがのコールマンといえど、この純粋無垢(?)なお嬢様をエロゲーへの道へ引きずり込む、悪逆非道な行いはしないと思いたい。


「まったく……お父さんの好感度がそんなことで上がるわけ無いでしょう。お父さんは私にぞっこんで、それ以外の女には興味ないんだから」

「事実をねじ曲げるはやめろ」

「これから事実になるからいいでしょ? お父さんは私だけ見ていればいいんだから。なんなら私が矯正してあげる」

「俺の娘がこんなにヤンデレなわけがない」


 前からその気配はあったけれども、まさかここまで進行しているなんて……。


「ということで、中条さん! お父さんに色目を使うのはよしてくださいね!」

「むしろお前がやめろよ。親子だろうが」

「お父さんだけど愛さえあれば関係ないよねっ」

「いえ、関係大アリですわ! 夏彦さんは中条の婿養子になるんですから」

「いや、ならないよ?」


 このお嬢様は何をさも当然のように俺を婿に入れようとしているんだろう。

 前に結婚はお断りしなかったっけ。


「まあ、そんな決まりきった話はどうでもいいですわ」

「どうでもよくないんだけど。本人の意向を無視して人生の重要な決定がされかけてるんですが」

「それよりも夏彦さんの出席日数の話ですわ」


 無視するなよ。


「夏彦さんの無断欠席なら前回の分も含めてわたくしがもみ消……話し合いをして取り消してもらいましたわ」

「言い直さなくていいから。全部分かってるから」

「それに、宮前先生は今日はお休みですから、夏彦さんは何の心配もいりませんわ」

「おい、宮前先生に何をした!?」


 まさかとんでもないことをしているんじゃなかろうか。

 愛歌の財力があれば多少の悪事はなんのそのだもの。

 という、俺の予想は的中することになる。


 学校に到着し、教室に入ると、いきなり一人の男子生徒が胸倉を掴んできた。


「おい、一宮! 中条をどうにかしろ!」

「えーっと、たしか君は……」


 誰だ。

 やばい。基本的にクラスでは夏穂、愛歌、文乃、神田の四人としか会話しないから、それ以外のクラスメイトの名前がほとんど分からねえ。


「宮前だよ! 同じクラスの宮前平治!」

「これはどうも丁寧に。俺は一宮夏彦です」

「知ってるよ! 今名前呼んだだろうが!」

「あ、そうだった」


 でも名乗られたら名乗り返しちゃうよね。


「それより中条を止めてくれ。お前、あいつの飼い主だろ?」

「なんだその心外な認識は」

「え、違うのか? 神田が『中条さんも一宮ハーレムに参入してしまった』って嘆いていたけど」


 何を言ってるんだあいつは。


「とにかく、中条のせいで姉ちゃ……宮前先生がヤバイんだよ」

「はあ。どうして」

「先生が中条家の奴隷として洗脳されかけてる」

「想像以上にとんでもなかった!」


 バカに権力や金は持たしちゃいけねえや。

 愛歌にはみっちりと説教して、先生の洗脳は解かさせた。

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