勉強会(?)の成果
「中間テスト返却しますねー。出席番号順に呼ぶので取りに来てください」
現代文の授業でテスト返却が行われる。
ア行で出席番号の若い俺は、担当教員の間延びした声で早々に呼ばれた。
……70点か。まあまあだ。
とにかく、これですべての教科、赤点は免れた。
俺に続いて数人後、神田が呼ばれる。
「神田……お前さ、俺のことバカにしてんの?」
現代文の住吉先生が見るからにいらいらを募らせていた。
「え? 何がです?」
「何がじゃねえだろ! なんでいつも授業中寝てんのに満点取ってんだよ! ムカつくから難癖つけてバツつけようにも答案完璧だしさあ!」
先生も苦労して作った問題をいつも寝てる奴に満点だされたらそりゃキレるわ。
「えーっと、睡眠学習?」
うわー、ないわー。
マジなんなのあいつ。
俺は知ってるぞ、神田が睡眠学習なんかじゃなくてろくでもない夢を見ていることを。
よく変な寝言発してるからな。
返却は(神田以外は)滞りなく行われ、授業はテストの解説で終わった。
休み時間になると、待てを解かれた犬のように夏穂が寄ってくる。
「お父さん! テストどうだった?」
「まあ、ぼちぼちかな。夏穂は?」
「私も普通ー」
「あら残念、勉強会の成果はなかったようですわね」
隣の席でで優雅に紅茶を飲んでいた愛歌が話に加わってきた。
というか、学校にティーセット持ち込むなよ。超目立ってるんだけど。
「いや、あれ勉強会という名のカードゲーム会だったじゃん……」
「そうでしたかしら?」
「そう言う中条さんはどうだったんですか。まさか私達より悪いなんてないですよね?」
「ふふ……愚問ですわ」
愛歌は夏穂の問いかけに不敵に笑う。
「もちろん、すべて90点以上でしたわ!」
「すげえ!」
「念写能力で!」
「不正じゃねえか!」
ドヤ顔してるところ悪いけど、それってカンニングと同じだよね? え、違うの?
俺も千里眼で神田の答案覗けばそれくらい取れるから。
「あら、夏彦さん。勘違いなさらないで。わたくしは自分の知識を答案用紙に念写しただけですので、まぎれもない実力ですわ」
でも制限時間の面でズルしてることには変わりないよね。
「夏彦くん、私も点数良かったよ! 褒めて!」
足元から茜の声がする。
「お前には聞いてない。それと、植物じゃないんだから床から生えてくんな」
頭だけ床から突き出してる絵面は微妙にホラーだぞ。
***
家に帰ると暗いオーラをまとった千秋がリビングにいた。
先に帰ってたとは、今日は部活が休みだったのか。
「嗚呼、無情! 世とはなんと無情なことよ!」
ソファーで体育座りしてた千秋が、急に立ち上がって叫びだした。
どうしたんだろう、電波でも受信したのかな?
「お、お父さん……何あれ」
あまりに奇っ怪な光景に、隣の夏穂は指差しながら震えている。
「さあな」
この時期に千秋の頭がおかしくなるのはいつものことなので、さっさと自分の部屋へ行くとしよう。
「この世とは何故私に厳しいのだ! そうは思わないかね、兄よ!」
「どうした千秋。返却されたテストの点数が悪くて落ち込んでるのか?」
「うぐっ! ……ふふ、兄よ。人間風情の試験程度で私の偉大さは測れぬものよ」
「あっそう。すごいすごい」
「ちょっ、待ってよお兄ちゃん! 赤点多すぎてマジヤバイの!」
千秋が腕に泣きすがってきた。
あー、もううるせえな。
「赤点多すぎてって、もう過ぎたことなんだから諦めろ」
「でも赤点多すぎるせいで補習が」
「補習があるからなんたって?」
「どうやったら怒られずに補習サボれる?」
「いや受けろよ!」
往生際悪すぎるだろ。
大体千秋の学力は一週間補習漬けにしても足りないくらいなのに……。
よく伊江洲比に入学できたな!
「大体、お前のために開いた勉強会だって結局遊んで終わったんだし、自業自得だろ」
「そ、それを言うならお兄ちゃんや夏穂ちゃんだって!」
「俺たちは赤点取らないよう、ちゃんと自分で勉強してるんだよ。なあ、夏穂?」
「うん。私、部屋で叔母さんが勉強してるの見なかったし」
やっぱ自業自得じゃねえか。
少しくらい足掻こうぜ。
「そういや、早月とかに勉強教えてもらったりしないのか?」
「うーん、無理かな。さっちゃんも私ほどじゃないけど、中間は赤点ギリギリだったぽいし」
「え、そうなの?」
早月って、もしかして俺が思っている以上のポンコツなのか……?
言動は優等生っぽいんだけどなあ。
まあ、それなら仕方がないか。
俺は千秋の肩にポンっと手を置く。
「千秋。諦めろ」
「何そのすごい爽やかな笑顔!? いやー!補習も勉強も嫌いだー!」
その後も騒ぎ立てる千秋を無視して、俺は二階へと階段を昇るのであった。




