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フラグ建築士夏彦

 千里眼を使い、自宅周辺の偵察を行う。……異状なし。


 千秋は陸上部の朝練で先に行っている。

 夏穂はまだ寝ているらしい。

 とんだ寝坊と言いたいところだが、タイムスリップしてきてる以上あいつの通う学校は無いのだから関係ないのだろう。


 オールクリア。今日は平和に登校できそうだ。

 だからといって気を抜いてはいけない。

 電柱の影、側溝の中、街路樹の枝の間、果てはすれ違う人々にまで注意して学校へと向かう。

 そして、伊江洲比(いえすび)高校の2-Aの教室、窓際最後列の自分の席に座り、ようやく一安心できるのである。


「ふう、疲れた……」

「毎朝ご苦労なこった」


 前列に座る金髪の男――神田(かんだ)信行(のぶゆき)が振り返って言う。


 神田とは入学した時に意気投合し、二年になっても同じクラスで毎朝話す程度の仲で、このやりとりも恒例行事である。

 ただこの男、絶対に俺のこと可哀想だとか思ってない。

 羨ましいとさえ思ってそうなのが腹立たしいところだ。


「神田も幼馴染にストーキングされてみるか?」

「ああ、俺もお前みたいにモテてみたいよ」

「この状態をモテるというのなら、俺は一生モテなくていい」


 お前には出来心で幼馴染の部屋を覗き見たら壁一面自分の写真で埋め尽くされていた俺の気持ちが分かるのか。

 しかも幼馴染という関係上、俺の行動パターンを知り尽くしているために恐怖も倍増どころの話じゃない。

 なんかたまに未来予知じみた先回り、出没してくるし。


「全国のモテない男子のためにもお前はいっぺん死ぬべきだと思うんだ」

「いつまでこの話続けんだよ」

「お約束というやつですし。でもまあ、そうだな。今日は別の話題もあるしな」

「話題?」


 なーんか、嫌な予感がするなあ。

 神田の言う話題には皆目見当もつかないのだが、なんでだろうね。


「このクラスに編入生が来るらしい」


 フラグを回収した気がする。

 いや、まさか。いくらなんでも昨日の今日で――


「このクラスに編入されました一宮夏穂です! どうぞよろしく」


 はい。

 これが日本の様式美です。


 いつの間にか始まっていたホームルームで、担任の紹介を受けてほがらかに挨拶する夏穂。まあ普通だ。

 夏穂は担任に言われ、空いていた廊下側一列目最後尾の席に座ることとなった。


 ホームルームが終わり、クラスの皆から質問攻めに遭うのもアニメなんかじゃ見慣れた光景である。

 けどね、みなさん。俺はその子にちょいと用ができたんです。

 はーい、道開けてー。ちょっと通して下さいねー。

 夏穂の首根っこを捕まえて、廊下へ引っ張り出す。


「あ、お父さん!? 何事?」


 あ、夏穂てめえ。

 連れ出す前に特大級の爆弾投下しやがった。


「お父さん!?」

「え、なに? どういうこと?」


 案の定、クラスがどよめく。

 あーもう、面倒臭え。

 あとでなんとかすればいいか。



「で、一体どういうつもりだ?」


 人気(ひとけ)のない廊下へ出て、夏穂に詰め寄った。


「えーと、何がでしょう?」

「どうしてここにいるんだよ」

「それは私が伊江洲比高校の生徒だからだよ?」

「未来の、だろ」


 うん、初めて会った時から制服だったから見当はついてたけど。

 今聞きたいのはそういう話じゃない。


「どうやって編入してきたんだよ」


 未来から来たならば経歴とかその他諸々の問題があるだろうに。

 夏穂はそれをいとも簡単に突破してきた。

 この様子だと編入試験すらも受けてないだろう。


「あー、なるほどなるほど。それはね、教師たちの記憶を改ざんしたからだよ」

「……は?」

「時間移動とは別の私のもう一つの力。それが記憶の操作」

「何そのすげーチート臭い設定」


 時間移動と記憶操作とかバトル漫画でラスボス張れそうな勢いである。

 どこの魔王だよ、お前は。


「まあ私はハイブリッドだからね。もっともお父さんたちは突然変異みたいなものだから私とは根本的に違うんだけど」

「おいちょっと待て。もしかして……俺の能力知ってるの?」

「千里眼。テレコグニションとも言う」


 これは予想外だ。

 いや、別に隠しておくほどの物でもないからいいんだけど。

 しかしまだ引っ掛かることがある。


「もう一つ。まさか、俺以外にも超能力者がいるのか?」


 ハイブリッドだの、お父さんたち(・・)だのほぼそうだと言ってるようなものだが、一応確認。

 俺の周りに超能力とか持ってたら洒落にならない人物もいるしな。自衛のために。


「うーん、少なくともお父さんの結婚相手候補は全員そうだね。あとは宇宙人がいれば完璧だったのにね」

「もしかして千秋も?」

「叔母さんは念力、テレキネシスだね」


 ああ、なんか納得。

 体格差があるのにも関わらず、軽々と俺を蹴り倒すことができるのは念力を使ったインチキだったのか。


「そういえばいい忘れてたけど、叔母さんにドキドキすることがあってもそれはお父さんの勘違いだからね。それ念力で強制的にお父さんの心拍数上げて意識させようとしているだけだから。……そもそも兄妹間の恋愛とかありえないから。近親愛とかマジ引くよねー」

「うん、それは一般論だけどお前が言うことじゃないよね?」


 こいつの目的は俺の嫁になるために未来からタイムスリップとかそんなだった気がする。

 まさにお前が言うな状態である。

 てか、なんだよ強制的に心拍数上げるって。

 力加減間違えたら俺死ぬんじゃねえの?


「千秋はどうしてそんなことを……」

「叔母さんはお父さんラブだからねえ。大方擬似的に吊り橋効果でも発生させようとしたんじゃないかな?」


 気を引くために想い人の生死を左右するのか。なんと恐ろしい。

 あ、でも恐いと感じる分には吊り橋効果的には間違いじゃない……のか?

 いや、それで誤って殺されたらたまったもんじゃないですわ。

 ……女って恐い。

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